不動産投資コラム

首都圏における収益不動産の動向 1棟ビル ~当社取り扱い物件より~

首都圏における収益不動産の動向 1棟ビル ~当社取り扱い物件より~

コロナ禍以降、収益不動産に対する旺盛な購入ニーズが続いています。2022年度当社「不動産投資に関する意識調査(第14回)[1]」では、今後の投資用不動産について、「積極的に購入したい」「バランスを考えながら買い替えしたい」と回答した投資家が約75%に上るなど、前向きな姿勢がみられています。
今回、首都圏を全8エリア(下記参照)に分け、当社取り扱い物件情報[2]から、1棟ビルにおける収益物件の動向についてまとめました。

<サマリー>

  • ・2022年度の売出件数をみると、「城東」「城南」「城北」が引き続き高い水準となった一方、「城西」は減少しました。築20年を超える建物の割合が減少したためと考えられます。反響数も、売出件数と比例して増加しており、特に都心部を中心に、築10年以下への反響数が増加傾向にあります。
  • ・直近では「築20年超30年以下」の売出が減少し、「築30年超」売出が増加しており、全体の約6割を占めています。特に「城北」「城西」では7割を超えました。
  • ・表面利回りは、「東京23区以外」を除き直近低下しました。「都心5区」「城南」5%を下回っています。「城西」「城東」「城北」は5%台です。

■全8エリア 内訳

・都心5区(千代田区・港区・中央区・渋谷区・新宿区)
・城南(品川区・世田谷区・目黒区・大田区)
・城西(練馬区・中野区・杉並区)
・城東(葛飾区・江戸川区・江東区・荒川区・足立区・台東区・墨田区)
・城北(文京区・豊島区・北区・板橋区)
・東京23区以外
・神奈川
・埼玉・千葉


[1]調査対象:投資用・事業用不動産サイト「ノムコム・プロ」会員 (会員数 約26,000人 ※2022年6月時点)、調査時期:2022年6月20日(月)~6月30日(木)、有効回答数:357人(投資物件の保有者:279 人、非保有者:78 人)、調査方法:インターネット上でのアンケート回答
[2]収益・事業用物件サイト「ノムコム・プロ」にて売出を行っている物件(集計概要は末尾参照)

I. 売出件数・反響数

1棟ビルの売出件数は、2017年度以降全体的に増加しています。特に2020年度コロナ禍においては、「神奈川」337、「城西」306、「城南」281、「城北」224、「東京23区以外」204と、2017年度と比較して2~3倍増加しました(2017年度=100)。2021年度は「神奈川」「城東」「城西」「城北」、直近2022年度は「城東」「城南」「城北」が引き続き高い水準となりました。一方、「城西」は2022年度83と減少しました。直近では「築20年超30年以下」の売出が減少し、「築30年超」売出が増加しており、全体の約6割を占めています。また、「城北」「城西」では7割を超えました。不動産価格の高騰にともなう資産処分や、建設コストの高騰により、従来であれば建て替えを検討した所有者が所有不動産を売却し、買い替えへシフトしている可能性もあります。
反響数も売出件数と比例して、全体的として増加傾向にありますが、「城北」「埼玉・千葉」では2018~2019年度減少しました。2020年度は「埼玉・千葉」はほぼ2017年度と同水準にとどまりましたが、その他エリアは大きく増加しました。特に「城南」287、「城西」255、「東京23区以外」245となりました。直近2022年度は「神奈川」「城北」がやや減少しましたが、引き続き「城西」「城東」を中心に高い水準です。金融機関の融資姿勢の厳しさから、融資条件を満たしやすい築浅の物件を中心に反響が集中していると考えられます。

【図表Ⅰ- I】1棟ビル 売出件数、反響数

【図表Ⅰ- I】1棟ビル 売出件数、反響数

II. 建物の状況

1. 築年

1棟ビルの築年数は、一部エリアを除き築30年前後となりました。「城南」は築浅の傾向があり、築25年前後にて推移しています。他エリアと比較し「築10年以下」および「築10年超20年未満」の建物割合が高いことが要因として考えられます。城南エリアにおいては2000年代、品川区を中心に駅前の再開発が多かったことなどが、築年が浅くなっている理由の一つかもしれません。
「城北」は2018年度以降、築35年前後となりました。全エリアで、「築10年超20年以下」「築20年超30年以下」の割合が減少し、「築30年超」の売出が増加しているため、平均築年が上昇する可能性が考えられます。

【図表Ⅰ- II】1棟ビル 築年数

【図表Ⅰ- II】1棟ビル 築年数

2. 延床面積

延床面積は、東京23区内で概ね400m2前後となりました。しかし、直近2022年度では「城南」「城西」「城東」において減少傾向にあり、これは1000m2を超える売出件数が減少していることに起因していると考えられます。本エリアではコロナ禍にともない、1棟マンション等住居系建物への建て替え等のニーズが強かったことから、供給量の減少にともなって1棟ビル自体の売出が減少したと考えられます。「城北」「東京23区以外」は2017年度500m2以内の売出が少なく、反対に1000m2超が多かったため、平均が押し上げられていますが、2018年度以降は500m2前後にて推移しています。「神奈川」は800m2前後です。法人数が多くビルの需要が多いことに加え、区画が広く規模が大きめの建物が多いことが面積の大きさにつながっていると考えられます。「埼玉・千葉」は年度によって差異が大きい状況ですが、直近2022年度は600m2を上回りました。特に2020年度以降、1000m2超の売出件数が増えたことが平均を引き上げといえます。

【図表Ⅰ- III】1棟ビル 面積

【図表Ⅰ- III】1棟ビル 面積

III. 価格

1. 価格・延床単価

価格は、「都心5区」では2017~2019年度4億円台中盤でしたが、2020年度5億円を超え、2021年度は約5億8千万円、直近2022年度は6億4千万まで上昇しました。2020年度以降、7億円を超える売出が増加しています。特に2022年度は六本木や渋谷エリアの「駅徒歩5分圏内」での売出がありました。「城南」は2020年度4億円超まで上昇したものの、直近2022年は3億5千万円まで下落しました。駅5分内における築浅・高価格帯の売出件数が減少したことによるものです。「城西」「城東」は2億円前半~中盤ですが、「城西」は価格が下落傾向にあるのに対し、「城東」は上昇しています。城西では築古の売出が増加しているのに対し、城東では工場や低利用建物をビルへ用途変換する動きが散見されることから、築浅の売出が増加していることに起因していると考えられます。「城北」は2017~2018年度にかけて約20億円の売出があったため、平均価格が引き上げられていますが、以降は約3億第前半にて推移しています。「東京23区以外」は2億円前後、「神奈川」は3億円前後、「埼玉・千葉」は期間によって差異が生じていますが、全期間平均でみると2億円台前半です。
延床単価は、直近全エリアにおいて上昇傾向にあります。特に2017年度からみると、最も上昇したのは「東京23区以外」194万円(2017年度比+91%)です。中央線吉祥寺等を中心に駅前の売出がけん引しているといえそうです。続いて「城東」288万円(同+70%)、「城西」329万円(同+46%)となりました。「埼玉・千葉」「神奈川」は、2017年度よりやや下落しました。強気に価格を設定しづらいマーケット下にあると考えられます。

【図表Ⅰ- IV】1棟ビル 価格・延床単価

【図表Ⅰ- IV】1棟ビル 価格・延床単価

2. 表面利回り

1棟ビルの表面利回り[3]は、「東京23区以外」を除き直近低下傾向にあります。「都心5区」は4.29%、「城南」は4.97%と5%を下回りました。「城南」は2017~2021年度まで5.5%前後を推移していましたが、直近2022年度で5%を下回った形です。中目黒や自由が丘等、好立地の建物割合が増加したことが要因として考えられます。その他東京23区内は5%台となり、「城北」5.24%、「城東」5.55%、「城西」5.60%でした。「神奈川」6.39%です。「埼玉・千葉」は2019~2021年度8%を上回りましたが、直近では7.27%まで低下しました。「東京23区以外」は2017年度以降7%台にて推移しており、2022年度は7.55%となりました。唯一2022年度上昇したエリアとなりましたが、これは西東京市、八王子市において10%を超える売出が複数件あったことが要因です。

【図表Ⅰ- V】1棟ビル 利回り

【図表Ⅰ- V】1棟ビル 利回り

築年別にみると、都心部を中心に「築30年超」の利回りがやや低めといえますが、これは渋谷や神田、恵比寿等、駅に近い好立地の売出が多いことから生じている差異といえそうです。

【図表Ⅰ- VI】築年別利回り(2022年度)

【図表Ⅰ- VI】築年別利回り(2022年度)


[3]表面利回り=満室稼働を想定した賃料収入÷売出価格

IV. まとめ

以上、当社取り扱い物件情報より、首都圏の1棟ビルマーケットについて確認しました。立地条件の良い小規模な築浅1棟ビルは、開発地の不足や建設コストの高騰により減少が続いており、今後もこの傾向が継続する可能性が高いといえそうです。

【集計の概要】
対象物件: 2017年4月~2023年3月の毎月末時点において、ノムコム・プロに売出情報が掲載されているもの[4]
対象エリア: 首都圏(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県*当社店舗展開エリアに準ずる)
対象種目: 1棟ビル
その他: ・想定賃料収入が判明している物件
・土地権利 所有権のみ
・各エリアの築年数、面積、延床面積、価格、表面利回りは平均値

「ノムコム・プロ」は、当社の投資用・事業用不動産情報専門サイトです。2001年8月の開設以降、アパ-トや1棟ビル、マンション用地等、投資用物件のほか、事業用としての使用を目的とした物件が主に登録されています。会員限定の情報も多く掲載されており、約26,000人[5]の会員様へ様々な物件情報を配信しています。https://www.nomu.com/pro/



[4]一部期間を除く
[5]2022年6月時点

野村不動産ソリューションズ株式会社 法人営業本部

リサーチ・コンサルティング部

専門性の高いスタッフによって構成され、マーケット情報などの調査・分析を通じてお客様をサポートしています。

 

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