コロナ禍以降、関西圏の収益不動産市場では、住居系アセットに対する旺盛な購入ニーズが続いています。2025年に開催される大阪万博では、約2兆円の経済波及効果があると見込まれているほか、統合型リゾート(IR)開業も現実的になりつつあり、大阪市および近隣地域は今後とも注目のエリアとなりそうです。
今回、関西圏を大阪市都心6区[1](以下、「大阪都心6区」)、大阪市都心6区以外(以下、「その他大阪市」)、大阪市を除く大阪府・京都府・兵庫県(以下、「大阪市を除く関西圏」の3つのエリアにわけ、当社取り扱い物件情報[2]から、住居系の収益物件の動向についてまとめました。
<サマリー>
- ・売出件数については、1棟マンションは2021年度まで増加しましたが、2022年度は減少に転じました。中古区分マンションは、特に「大阪都心6区」「その他大阪市」の売出件数が増加していますが、反響数は減少傾向にあります。両種別とも、高利回りを求めて「大阪市を除く関西圏」への反響数が増加しています。
- ・2022年度の表面利回りについては、1棟マンションは「大阪都心6区」5.11%、「その他大阪市」7.41%、「大阪市を除く関西圏」6.73%です。特に大阪都心6区の利回りは2017年度以降低下を続けています。中古区分マンションは、「大阪都心6区」4.72%、「その他大阪市」5.64%、「大阪市を除く関西圏」5.17%です。
- ・大阪市では今後も万博やIR等の注目度が高いほか、人口動態からみても賃貸需要が安定するため、収益不動産は引き続き高いニーズがあるといえそうです。
[1]中央区、北区、西区、天王寺区、浪速区、福島区
[2]収益・事業用物件サイト「ノムコム・プロ」にて売出を行っている物件(集計概要は末尾参照)
I. 売出件数と反響数
売出件数をみると、1棟マンションの「大阪都心6区」では2017~2019年度[3]にかけて増加しましたが、2020年度やや減少し、以降は横ばいにて推移しています。反響数[4]は増加していますが、特に2021年度から大きく増えました。「その他大阪市」では2017年度から2021年度にかけて売出件数が増加していましたが、直近2022年度は減少しています。反響数もこれに比例して推移しています。「大阪市を除く関西圏」は年度によって売出件数の増減が大きい状況です。特に2020年度・2021年度は大きく増加しましたが、これは売出期間が長期化した物件が市場に滞留したことが要因として考えられます。一方で反響数については2019年度以降、大幅に増加しています。
なお、直近では築30年超の売出が増加しています。不動産価格の高騰にともなう資産処分や、建設コストの高騰により、従来であれば建て替えを検討した所有者が所有不動産を売却し、買い替えへシフトしている可能性もあります。
【図表 I】1棟マンション 売出件数・反響数(2017年度=100)
中古区分マンションの売出件数は、「大阪都心6区」「その他大阪市」「大阪市を除く関西圏」の3エリアともに、2019年度減少した後、2020年度以降増加しています。特に「大阪都心6区」「その他大阪市」においては、2020年度から2021年度かけて約2倍の増加となりました。コロナ禍以降、中古区分マンションの価格が高騰したこと、および大阪市内マーケットに対する今後の期待感が高まっていること等から、売出が増加したと考えられます。
反響数は、エリアによって差があり、「大阪都心6区」では2020年度に一時増加しましたが、直近は減少傾向にあります。「その他大阪市」では2018~2021年度にかけて増加、2022年度は減少しました。「大阪市を除く関西圏」は増減を繰り返しており、直近2022年度は増加しています。「大阪市を除く関西圏」には、神戸市、京都市なども含まれます。大阪市内における不動産価格の高騰にともない、より利回りの高い不動産を求めて「大阪市を除く関西圏」への問い合わせが増加していると考えることができそうです。
【図表 II】中古区分マンション 売出件数・反響数(2017年度=100)
[3]毎年4月~翌年3月
[4]ネット経由による資料請求のみ集計
II. 建物の状況
1. 築年数
築年数をみると、「大阪都心6区」の1棟マンションは、2017~2020年度までは27年前後にて推移していましたが、2021年度から低下し、2022年度は約20年となりました。「その他大阪市」は、2018年度以降ほぼ横ばいの25年前後にて推移しています。「大阪市を除く関西圏」については、2017~2019年度まで20年前後でしたが、直近3年間は26年前後となりました。
2019年度までは、「大阪都心6区」「その他大阪市」「大阪市を除く関西圏」の順番で築年数が浅くなりましたが、2020年度以降は順番が徐々に変わり、直近2022年度では逆転、「大阪都心6区」が最も築浅となりました。売出件数が全体的に増加するなか、特に大阪都心6区においては3年以内の売出が増えたこと、また同時に他2エリアにおいて30年超の売出が増加したことが要因として考えらえます。
【図表 III】1棟マンション 築年数
中古区分マンションについては、「大阪都心6区」は2020年度まで12~15年にて推移していましたが、直近2年間は10年前後と低下しています。ここ数年に新築マンションを購入した層が、売出をした結果と考えられます。一方、「その他大阪市」は2019年度まで11~16年でしたが、2020年度以降は22年前後と上昇しました。大阪都心6区とは反対に、築年数の古い売出物件が増えたことが要因といえます。「大阪市を除く関西圏」は、18年前後と6年間ほぼ変わらない推移となりました。自己使用目的を含む中古区分マンションの平均取引築年数[5]は、大阪市全体では23年前後、近畿圏全体では25年前後のため、収益目的の中古区分マンション市場においては、比較的築浅の物件が売りに出されているといえます。
【図表 IV】中古区分マンション 築年数
2. 面積
1棟マンションの延床面積をみると、「大阪都心6区」では、2017年度500m2を下回りましたが、2018年度以降拡大し、2022年度は約960m2(2017年度の約2倍超)となりました。特に1000m2超の売出が増加していますが、これはコロナ禍以降、不動産取引が活況になったことから、建て替え等により規模の大きい建物の売出が増加していると考えられます。「その他大阪市」は、2019年度まで拡大した後、2020年度以降縮小し、直近2022年度は約730m2です。500m2以下の売出が2020年度以降増加傾向にあります。「大阪市を除く関西圏」は、2017~2019年度は600m2前後にて推移していましたが、2020年度以降は550m2前後まで縮小し、直近2022年度は約570m2です。
【図表 V】1棟マンション 延床面積・延床単価
中古区分マンションの専有面積は、「大阪都心6区」では2017年度から2021年度まで40m2前後で推移していましたが、2022年度は約46m2と拡大しました。50m2を超える物件の売出件数が増加したことが要因として考えられます。「その他大阪市」は、2017年度から2019年度にかけ大きく拡大し、一時約56m2となりましたが、2020年度以降は縮小し、40m2前後にて推移しています。2019年度は、他年度と比較し40m2以下のコンパクトタイプの売出件数が少なかったことが、数値を大きく伸ばした要因としてあげられます。「大阪市を除く関西圏」は、45m2~50m2にて推移しています。
「大阪都心6区」、および「大阪市を除く関西圏」では、70m2を超える売出数が2020年度より増加しています。主要都市中心部では、特に富裕層や海外顧客からの購入ニーズが見込みやすいことが、ファミリータイプの売出件数増加につながっているといえそうです。
【図表 VI】中古区分マンション 専有面積
[5]公益社団法人近畿不動産流通機構「近畿圏市況レポート」より直近3年間の平均を当社にて算出
III. 価格の状況
1. 価格と床単価
1棟マンションの価格をみると、「大阪都心6区」は2017年度以降右肩上がりに上昇しており、直近2022年度は5億円を超えました。2017年度からみると約2.5倍の上昇です。延床単価は、2018年度以降上昇しており、2022年度は坪約177万円(2017年度比+19%)となりました。「その他大阪市」の価格は2019年度まで上昇しましたがその後は下落し、直近3年間は2億円前後です。延床単価は坪100万円前後にて推移していましたが、直近2022年度は上昇し、坪111万円(2017年度比+10%)となりました。
「大阪市を除く関西圏」の価格は、2017~2019年度まで1億8千万円~1億9千万円にて推移していました。2020・2021年度は1億7千万円を下回りましたが、直近では1億8千万円を超え、コロナ禍以前の水準に戻りつつあるといえそうです。延床単価は、2017年度以降上昇しており、2022年度は坪121万円(2017年比+17%)となりました。
3エリアの延床単価をみると、「その他大阪市」および「大阪市を除く関西圏」は、ほぼ同水準であるのに対し、大阪都心6区は3割から4割高い水準にて推移しています。大阪都心6区内では、賃貸需要も今後見込めるため、引き続き高単価での売出が増えると考えられます。
【図表 VII】1棟マンション 価格・延床単価
中古区分マンションの価格は、「大阪都心6区」では2017年度から上昇を続け、2020年度に一旦下落したものの、2021年度から再度上昇しました。特に2022年度は大きく上昇し、4千万円に迫る勢いとなりました。専有単価も上昇しており、直近2022年度は坪263万円(2017年度比+31%)です。「その他大阪市」では、大阪都心6区同様、2017年度から2019年度は上昇しましたが、その後下落し、直近2022年度に上昇に転じました。2017年度からみると価格はほぼ同水準ですが、専有単価は下落しています(2017年度比▲8%)。
「大阪市を除く関西圏」は、2017年度以降上昇しており、2022年度は3千万円を超えました。専有単価も大きく上昇しており、直近2022年度は坪207万円(2017年度比+33%)です。
【図表 VIII】中古区分マンション 価格・専有単価
2. 表面利回り
1棟マンションの表面利回り[6]をみると、「大阪都心6区」は、2017年度6.80%でしたが、低下を続けており、2022年度は5.11%(2017年度比▲1.69pt)となりました。
「その他大阪市」は、2020年度・2021年度は上昇しましたが、直近2022年度において7.51%まで低下しました。2022年度の築年別の表面利回りをみると、築20年以内までの5%台に対し、築20年超は8%台と大きく差異が生じています。この差異が数値に影響を及ぼしているといえそうです。
「大阪市を除く関西圏」は、2017年度から7%前後にて推移していましたが、直近2022年度はやや低下し、6.73%となりました。2022年度は築10年超20年以下の利回りが、築10年以下を下回りました。築10年超20年以下の物件の立地条件が影響していると考えられます。
どの年度をみても、表面利回りは「大阪都心6区」「大阪市を除く関西圏」「その他大阪市」の順に高くなりますが、中でも「大阪都心6区」の低下が大きく、「大阪市を除く関西圏」はやや低下、「その他大阪市」はほぼ横ばいといった状況です。
【図表 IX】1棟マンション 表面利回りおよび2022年度築年別利回り
中古区分マンションの利回りをみると、「大阪都心6区」は2017年度5.72%でしたが、低下を続け、2022年度は5%を下回り4.72%(2017年度比▲1.02pt)となりました。
「その他大阪市」では、2017~2019年度は6%前後にて推移していましたが、2020年度は大きく上昇し6.95%です。これは築30年超の売出のうち、利回りが10%を超えるものが複数件あったことが要因として考えられます。2021年度は6%前半まで回復し、直近2022年度は6%を下回りました。特に築20年以下の売出が増加しています。
「大阪市を除く関西圏」では、2018年度より利回りが低下し、2021年度以降6%を下回り、2022年度は5.17%です。特に直近、築10年以下の利回りが4%前半まで低下しと、築20年超30年以内の利回りが5%中盤まで低下しています。
どのエリアにおいても、区分マンションの価格高騰にともない、高値を追及するような売出が増加したと考えられます。
【図表 X】中古区分マンション 表面利回りおよび2022年度築年別利回り
[6]表面利回り=満室稼働を想定した賃料収入÷売出価格
IV. まとめ
以上、当社取り扱い物件情報より、関西圏の収益不動産マーケットについて確認しました。特に大阪市内は、今後も梅田近辺の開発や、大阪万博、IR誘致等、注目のエリアともいえます。また、人口動態をみても、大阪府全体ではこの先減少傾向にありますが、大阪市は増加の見込みであり、賃貸住宅の需要も堅調に推移することが予想されることから、収益不動産は引き続き安定資産として高いニーズがあるといえます。
対象物件: | 2017年4月~2023年3月の毎月末時点において、ノムコム・プロに売出情報が掲載されているもの[7] |
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対象エリア: | 関西圏(大阪府、京都府、兵庫県)*当社店舗展開エリアに準ずる |
対象種目: | 1棟マンション、中古区分マンション |
その他: | ・想定賃料収入が判明している物件 ・土地権利 所有権のみ ・各エリアの築年数、面積、延床面積、専有面積、価格、表面利回りは平均値 |
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[7]一部期間を除く
[8]2023年8月時点