不動産投資コラム

【2024年版】これからの不動産投資はどうなる|国内情勢と海外情勢から読み解いて解説

【2024年版】これからの不動産投資はどうなる|国内情勢と海外情勢から読み解いて解説

不動産投資を行うのであれば、最新の情報に常に過敏でなければなりません。国内情勢に加え、海外情勢なども加味し、不動産投資に生かしていく必要があります。そこでこの記事では、宅建士であり、投資不動産の管理も行っている筆者が、国内情勢や海外情勢のほか、2024年以降の不動産投資に向けてやるべきことや、2024年以降の不動産投資を生き抜く手段などをピックアップ。頭に入れておいて損のない情報だけを厳選してご紹介していきます。

2024年以降の不動産投資に影響する「国内情勢」

2024年に控えている税制や労働環境の変化は、いずれもコストアップの要因になり得ます。

タワーマンションの新しい評価額が適用される

国税庁は、タワーマンション(特に上層階)を使った相続税の節税方法(いわゆるタワマン節税スキーム)の効果が、現行よりも小さくなるよう調整することとしました。この税制改正は、2024年(令和6)年1月1日以降に相続・贈与で取得するマンションに対して適用されます。

タワマン節税スキームとは?

タワマン節税スキームとは、相続税評価額と市場価格との乖離を利用して節税する方法です。これは、実勢価格1億円のマンションで仮に相続税評価額が5,000万円になる場合、現金で1億円を持っているより、1億円でマンションを購入し保有するほうが、相続時の相続税を大きく節税できるという仕組みです。

高層でたくさんの戸数があるマンション(いわゆるタワーマンション)では、部屋ごとの土地の所有権(区分所有する部屋の専有面積に応じてマンション底地の使用権価格を各戸に分配したもの、敷地権という)も土地の相続税評価額も小さくなります。また、建物の相続税評価額は面積および構造や仕様などのグレードと劣化具合で決まり、総階数や所在階は考慮しないため下層階も上層階も相続税評価額にあまり差がありません。

タワーマンションでは、上層階の市場価格が下層階の2倍や3倍もしくはそれ以上になるケースも少なくありません。また、この部屋を賃貸していて、さらに小規模宅地の特例が適用になれば何段階も相続税評価額を下げられます。このような節税効果が幾重にもブーストされるスキームは、これまで手軽な相続税の節税方法として、しばしば利用されていました。

マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率およびその推移については、以下のグラフをご覧ください。

引用:マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率の推移(全国:平均値)|国税庁 報道発表資料 令和5年6月30日

グラフにある乖離率のうち、平成30年時点の最終値である「2.34」とは、市場価格(実勢価格)の約42.7%、つまり「1億円」で市場取引されるマンションの相続税評価額が「約4,274万円」だということを意味します。(計算式は、1億円 ÷ 2.34 = 約4,274万円)

しかも、マンションにおける相続税評価額と市場価格との乖離率が2.0以上(相続税評価額が市場価格の半分にも満たない)のマンションが、国税庁がサンプル調査したマンションの実に65%を占めていたという事実を、以下のグラフが示しています。

引用:マンションの乖離率の分布(H30)|国税庁 報道発表資料 令和5年6月30日

国税庁はこのスキームに対し、「相続財産の評価額が実際の取引価格から大きく逸脱するケースを利用して租税回避を行い、公平な租税評価の実施を著しく妨げている」と判断しました。そして、不可解な不動産投資事業による脱税行為を誘発する手法としてメスを入れたのです。なお、改正後は相続税評価額が市場価格の60%に達しない場合には、60%(乖離率は約1.67以下)になるまで相続税評価額を補正することになります。

固定資産税評価額の見直し(評価替え)

土地や家屋の固定資産税は、3年に1回「評価替え」を行って、不動産ごとの時価の変化を課税状況に反映しています。この評価替えにより、それ以降の固定資産税および都市計画税などが変動します。

前回の評価替えでは、大都市圏を中心に地価が上昇している一方で、地方では地価が下落していることを受けて調整されました。今回も同様の方針で、課税の公平の観点で地域や土地による負担水準(前年度と今年度の変動バランス)が60~70%になるような調整を、全国的に継続することになります。

なお、積算の表現方法や区分内容および再建築費評点基準表の整理統合などをはじめ、評価補正時に使用する係数や積雪・寒冷地域など地域の特性区分などは市況に即して適宜改正されます。

建設業界・物流業界における2024年問題

2024年4月から、建設業界および物流業界に「時間外労働の上限規制」が適用されます。これは、時間外労働の上限を月45時間・年360時間とする働き方改革の一環の施策ですが、時間外労働の常態化が著しい建設業と運送業に限っては「即時ではなく段階的に適用させる」として移行期間にありました。

しかし、その段階適用の期限が2024年3月で終わるため労働時間は短縮され、加えて2つの業界に共通する高齢化した労働者の引退や若年層の離職によって単純に労働力が不足していきます。したがって、これを食い止めるべく労働者の雇用拡大や賃金の引き上げが継続的に行われ、コストの上昇が継続していくだろうという懸念があるのです。

労働力不足によるマンションの供給数の減少はマンションの新築価格の上昇を誘発し、リフォームや大規模修繕工事および点検交換業務などの維持管理費用も高騰します。また、物流業界も建築業界と同様だとすれば、建築資材の輸送全般の価格も上昇するでしょう。すると、不動産投資家の物件取得や維持管理コストも上がることが想定されます。不動産投資家は、これまで以上に利益の確保が難しくなると考えられるでしょう。

インフレと金融緩和(ゼロ金利)が継続

日銀が主導する金融緩和は、政策金利を引き下げてお金を借りやすくすることで各業界の資金量を増やします。そして、設備投資や人材確保などの資本投下を促し、経済活動が活性化していけば「2%」程度の緩やかなインフレが続くだろうというシナリオです。

今後も金融緩和は続く傾向にあるため、インフレによって物価上昇が続くと見られますが、物価上昇に合わせて物件価格が上昇しても家賃の上昇についてはまだ先になるでしょう。なぜなら、人口減少による賃貸需要の後退に加え、日本全体が完全に景気が回復して給与水準が上がったと感じられる兆しがなく、「家賃増額に転ずるべき」という雰囲気が不動産業界に浸透・定着しないからです。

現在見られるインフレは、国同士の紛争など、不安定な世界情勢による輸入品目の価格高騰など、日銀が意図しない要因によるものです。しかし、家賃水準は物価上昇に遅れて追随する性質があるため、インフレに強い不動産への資金流入は増えると見込まれます。不動産の獲得競争が激化すれば、今後は物件が買いづらくなることが予想されるでしょう。

2024年以降の不動産投資に影響する「海外情勢」

海外情勢と国内情勢は連動しているため、海外情勢の動きからも、国内情勢が伺えます。

アメリカやヨーロッパの急加速的なインフレと金利上昇

ここでは、諸外国の国内政策や対外政策、およびインフレ対策や金利変動について3つの視点から考察していきます。

各国の経済状況に関する考察

アメリカやヨーロッパでは急激なインフレと金利上昇が見られ、住宅価格や賃貸住宅の家賃は、それらの経済状況に追随して高騰しています。一例として、ロサンゼルスでは住宅購入価格が1年後には2〜3%上昇すると予測され、軒並み売り出し価格相当で取引されており、うち30%を超える住宅では、売り出し価格よりも高額で取引されるケースがあるなど、売り手市場が強いことを物語っています。また、家賃の上昇で言えば1年前とくらべて25%以上、前月とくらべて5%以上も上昇した都市があるなど、異常とも言える市場の動きが確認できます。

人口増加率に関する考察

以下のグラフによると、北米および南米やアフリカならびにアジアから中東にかけての新興国では、2050年までに人口増加率は低下していくものの人口は増加の一途をたどり、ヨーロッパ諸国はおおむね現状維持と見られます。残念ながら日本は数少ない人口減少地域になってしまいました。

引用:人口増減率の推移(地域別、2000〜2050年)|総務省統計局

人口増加が著しい国や都市でも、住宅の在庫が供給に追いついていない場合には、極端な売り手市場によって住宅の販売価格や家賃は当面高騰を続けるでしょう。一方で、日本は人口減と一定の安定した供給量によって買い手市場寄りになっており、条件が悪く競争力が弱い物件の販売価格や家賃は、今後も低迷すると考えられます。

不動産投資家調査による考察

(一般財団法人)日本不動産研究所が行った2023年4月現在の第48回不動産投資家調査によると、多くの不動産投資家が下記の予測をしています。
参考:【公表資料】第48回 不動産投資家調査(2023年4月現在)を公表|日本不動産研究所

・海外の投資家(海外一般ファンド・海外政府系ファンド)が国外に投資先を求め、日本へと海外資本の流入が増え資金元の多様化が進む
・多くの日本の投資家が、この海外投資家増加による多様化は日本の不動産投資市場の成長に大いに寄与すると考えている

いずれにしても、アンケートに回答した95%以上の国内投資家は、この背景に乗じて今後も新規投資を積極的に行うと回答しています。

円安がさらに加速するというシナリオ

2023年の初めに129円でスタートした円相場は、2023年11月1日には一時1ドル151円を付けました。日銀が介入するも効果は薄く、その後も150円前後を推移しています。 円安は将来的に200円を突破すると予測する経済アナリストもおり、そうなれば円安が家計に与える悪影響は深刻な状況にあります。

ただし、海外投資家から見れば、日本はほかの先進国にくらべても利回りが高く、超低金利です。そして、このまま円安が進めばさらに物件の仕入れがしやすくなり、海外の資本流入量は今よりもより増えていく場合には、投資不動産の獲得競争は今以上に熾烈になるかもしれません。

2024年以降の不動産投資に向けて、やるべきこと

2024年も、コロナ禍の収束による都心回帰やマイホーム価格の高騰によって、国内の賃貸需要は復調を続けていくと思われます。2024年が終わる頃に「今年一年いろいろ頑張ったが、結局1棟も買えなかった」という方も、焦ることなく成長のために今できることを愚直に行い、地盤固めをしておきましょう。

情報網を駆使して仕入れを強化

投資不動産の獲得競争が激化すれば、不動産が思うように買えなくなります。「今はこれしかないのだから、とりあえずこの中から選んで買おう」という気持ちになるかもしれません。しかし、買えないからといって安易に購入物件の基準を下げてはいけません。

悪い物件を焦って高掴みすれば、客が付かず返済は大きくなり、他事業の利益を薄めてしまうだけです。物件が思うように買えなければ、投資家として立ち止まっているような気になりますが、必要以上に焦らないことが大切です。

大切なのは、賃貸需要が強い場所から簡単に妥協しないことです。具体的には、賃貸物件探しで必ず挙がるエリア・沿線・駅もしくはその周辺のエリアまでに限り、足を使ってくまなく情報を集めてみてください。そして、プレミア価格が上乗せされたような、実力以上に評価された物件を見分けてそれを避けることが重要です。

不動産投資事業の原価削減

不動産投資事業の原価削減はまず出費を減らすことですが、今もしくは将来に必要なものまで削ってしまっては本末転倒です。ルーティンワークや単純作業は外注もしくはITの力を借りて時間を確保し、場合によっては管理会社自体の変更も視野に入れてみてください。そして、空いた時間で新たな収入の創設や情報収集・知識強化・スキルアップなどの自己投資に費やすと良いでしょう。

また、家賃収入を最大化させるためにも客付力の強化が必須ですが、退去者が出なければ修繕費の削減・入替時の賃料下落を回避・安定収入の継続のなどのメリットをもたらします。そのため、入居者が引越しを考えず快適で長く暮らしたくなる居住環境を整え、そもそも退去者を出さないという考え方で運営することが大切です。

ポートフォリオ強化のために不良在庫の売却

投資物件は自己居住用物件とは異なり、価格が見合う良い物件であれば、いつでもすぐに売れます。しかし、売却金でローンを完済し、抵当権の抹消ができなければ売却できないので、売却価格を安くしすぎることができません。類似物件と自分の物件の価格調査を適時行い、相場を把握しておきましょう。

なお、以下のグラフからこの直近10年、不動産価格は上昇を続けているのがわかります。しばらくはここまま上昇を続けるという予測も立てられますが、不動産価格は下がり出すと売り急ぎが連鎖し、一気に下落する傾向にあります。そのため、不動産をキャピタルゲイン(値上がりの売却益)狙いで保有している場合には、運営の方向転換もしくは売り抜けなど、正確で迅速な判断を迫られます。ライバル物件の動向を、注意深く観察するようにしましょう。

引用:不動産価格指数(住宅)<令和5年7月分・季節調整値>|国土交通省

なお、決算書上の含み益が不動産の売却によって実際の利益として計上されれば、自己資本比率が高く、経営基盤が健全に見えます。不動産投資事業は利益だけでなく資金調達が重要です。売却によって保有数が減るのは、投資家にとっての負けではなく、銀行にアピールできる要素が増え、むしろ喜ばしい面もあるのです。

金利の折衝に慣れておく

住宅ローンの固定金利が上昇していますが、用途の異なるローン商品間であっても、ある商品の金利変動は、いずれほかの金融商品へも波及します。そのため、不動産投資ローンの金利も住宅ローン金利に追随して上昇する可能性があります。

融資を受けて運営する不動産投資事業は、金利が上昇すればするほど、返済額が増え、利回りは簡単に悪化します。収入よりも返済が上回って破綻しないよう、これからの時期は手元にある程度の自己資金を確保し、金利上昇に備えるのが賢明かもしれません。

円安による海外投資家との競争激化やインフレによる仕入れ原価の上昇があっても、家賃収入は連動して増えるものではありません。なにも対策を講じなければ、経営基盤が悪化し、銀行からの金利上昇要請に強気で交渉できず応じるしかなくなります。銀行から優良顧客と認められ優遇金利を受けるためには、自分で不動産投資事業を強くするしかありません。決算書のプラス材料を増やして金利交渉がうまくできるように、先輩投資家や専門書から情報を得て金利折衝のシミュレーションをしておきましょう。

2024年以降の不動産投資業界で生き抜く手段

競争力が弱い物件でも、顧客層の視点を変えれば、物件の種別や価格のバリエーションが広くて懐が深い、優良物件へと変身します。

物件選びや運営方針に独自色を出す

築年数が古く、駅が遠く、設備が乏しいなど、競争力の低い物件は早く処分すべきでしょうか。実は、狙う顧客層次第では大がかりな投資をせずに、競争力を付けて再生させることができます。

団塊の世代と呼ばれる方々が75歳以上になり、5人に1人が後期高齢者になる超高齢化社会のはじまりは2025年問題と呼ばれます。高齢者の家賃滞納や孤独死を避けようとして、多くの大家が高齢者へ部屋を貸したくないために門前払いをするなど、高齢者の住居探しが難航するケースが頻発し社会問題になっています。

しかし、大家が懸念を抱く孤独死については、見守りサービス加入の増加や告知義務にあたらない自然死の正しい理解により、少しずつ不動産業界の意識も変わりつつあります。なお、高齢者にとっては駅から遠くて設備が古くて1階でも問題が少ないため、一般的に競争力がない物件でも手軽に再生させられる可能性が高いです。

他方、仕事や生活リズムの多様化は、賃貸ニーズの多様化につながり、そこから生まれた新たなニーズを満たすようなペット飼育や楽器音が出せる物件は、簡単に利回りを上げられる運営方法として注目されています。

不動産投資は大都市圏一強ではない

不動産投資が有利な地域は、人口が多くて常に賃貸需要が豊富な大都市圏に限るという、投資初心者の勝手な思い込みがあります。しかし、地方にはその地方特有の事情や需要があり、地方都市のニーズを正確に把握していれば不動産投資事業を有利に展開できるため、投資事業は大都市圏一強ではありません。また、今でもテレワークを選択して地方都市へ生活の場を移す方が一定数いるため、地方でお宝物件に出会うチャンスも多いと考えられます。

厳しいシミュレーションでリスク管理

確定申告や決算報告の際に決算書を作成しますが、この決算内容を分析し、利回りや管理コスト(金利・インフレ・競争力低下による空室率悪化)をシミュレーションしてみてください。新年度のバジェット(管理コストや設備投資の見積もりおよび予算書)の作成をしておけば、金融機関への新事業年度の計画のアピールと資金調達の示唆が同時にできます。

決算書とバジェットがあれば、事業の現状と課題の分析がほとんどでできているのと同じです。その後の事業の軌道修正や、効率的な投下資金の配分が的確にできるようになります。

このほか、ワンランク上の不動産投資事業を目指すために下記のことを行ってみてください。

  • ・コスト(原価削減・金利交渉)を見直して自己資本を増やし赤字を吸収できる体力を付ける
  • ・情報網(先輩投資家との情報交換・不動産投資セミナー・専門誌の購読)を強化する
  • ・仕入れチャネル(不動産会社以外にも、金融機関・士業・既存顧客など)の質を向上させる
  • ・資産管理体制の強化(資産価値の向上・自己投資や客付け精度の向上)または節税をする
  • ・不動産投資事業自体を一から勉強し直す(節税効果を主軸にした不動産投資は避ける)

まとめ

2024年に特に注視すべき重要なトピックは、海外(特にアメリカ)の政策金利と日本国内の金利および物価水準です。金利が上昇したときに、すぐに対策を実施できるよう、厳しい想定のシミュレーションを行い、手元資金の準備に務めてみてください。今のうちにできる準備とは、不動産投資事業の経営基盤の強化です。金利変動が身近に迫っていると想定して苦手な金利交渉を克服しておきましょう。

どのような不況下でも、勝ち続ける人がいます。本物の価値は時代を超えても変わらないと言いますが、投資物件も投資家も同じです。実力を備えた本物だけがこの厳しい世界を生き抜ける信じ、どんなときも、確固たる信念をもって手間を惜しまず情報収集に努めてみてください。

初心者にも分かる不動産投資の基礎知識

柴田 敏雄
柴田 敏雄

柴田 敏雄宅地建物取引士、管理業務主任者

司法書士事務所に2年、大手不動産管理会社に5年、個人顧客を中心に不動産賃貸・売買の仲介営業会社に7年間従事。また、外資系金融機関にも2年間従事し個人顧客へ金融資産形成や相続税の節税アドバイスなどを担当。現在は不動産/金融業界での経験を活かし、記事の執筆にもあたっている。

 

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