皆さん、こんにちは!今回からこちらで不動産投資の税金戦略についてコラムを書かせて頂くことになりました、不動産投資専門税理士の叶 温(カナエ ユタカ)です。僕は税理士として独立する前のサラリーマン時代から、自らも不動産投資をしていて、現在はマンションとビルを持つ不動産オーナーでもあります。このコラムでは、税理士と不動産投資家という両方の立場から、僕が税理士として身に付けた知識や不動産投資家としての経験に基づいた不動産投資の税金戦略についてお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いします。
第1回目は、物件を購入する時の税金戦略についてお伝えします。不動産運営は、他の商売と比べて、数字が読みやすい商売です。それは、家賃収入は物件の規模によって決まりますし、固定資産税や管理費などの経費もほぼ決まっているからです。
しかし、逆に言うと、物件を買ってしまえば、自分でコントロールできる部分が少ないということです。これは税金も同じで、購入する時の戦略一つによって、物件購入後手元に残るお金が大きく変わってくるんですね。
では、どういった部分に気を付けたらいいのか?今回はそのあたりについてお話したいと思います。
15%~50%!人によって違う税率
皆さんは自分の税率が何パーセントかご存知でしょうか?
サラリーマンとして会社に勤めている方だと、年末に会社が本人の代わりに申告してくれる「年末調整」で税金の申告が終わってしまうため、ほとんど自分の税金について意識することはないと思います。
でも、この自分自身の税率。実は不動産投資でお金を残していく上では、とっても大切なポイントです。では、なぜ重要なのか、数字を見ながら解説してみます。
例えば、お給料が年収300万円(課税所得80万円、税率15%)の人と、年収3,000万円(課税所得2,500万円、税率50%)の人が、同じ100万円の利益が出る不動産を購入したとします。
- 年収300万円の人の場合
キャッシュフロー100万円-税金15万円(利益100万円×税率15%)=残るお金85万円 - 年収3,000万円の人の場合
キャッシュフロー100万円-税金50万円(利益100万円×税率50%)=残るお金50万円
同じ不動産を買っているのに、年収3,000万円の人は、年収300万円の人と比べて35万円も残るお金が少なくなってしまいました。
年収300万円の人 | 年収3,000万円の人 | |
---|---|---|
キャッシュフロー | 100万円 | 100万円 |
所得税・住民税 | 100万円×15%=15万円 | 100万円×50%=50万円 |
税引き後キャッシュフロー | 85万円 | 50万円 |
このようになる理由は、税率の差だということがわかります。では、税率はどんな感じで上がっていくのでしょうか?それを表したものが次の表です。
所得税と住民税(10%)を合算した税率表
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~ 195万円以下 | 15% | - |
195万円超 ~ 330万円以下 | 20% | 97,500円 |
330万円超 ~ 695万円以下 | 30% | 427,500円 |
695万円超 ~ 900万円以下 | 33% | 636,000円 |
900万円超 ~ 1,800万円以下 | 43% | 1,536,000円 |
1,800万円超 | 50% | 2,796,000円 |
課税所得とは給与の総額ではなく、社会保険料や配偶者控除などの所得控除を引いた後の金額です。この課税所得の金額によって税率が決まっていて、1,800万円を超えると、その超えた部分に対しては50%の税率が掛かります。
だから、お給料だけで年収3,000万円の人は、課税所得が既に1,800万円を超えているので、物件を購入して利益が出ると、利益の半分の50%の税金を納めることになるため、さっきのような結果になってしまうんですね。
ここでのポイントは、誰に物件を購入させるか?ということです。例えば、自分より収入の少ない奥様がいらっしゃれば、(奥様が融資を受けたりして)奥様の名義で購入すると税率は低く抑えられるわけです。
また、法人税の実効税率は25%~40%程度なので、もう既に税率が高い人は、法人で購入するということも、お金を残すために考えないといけません。
法人で購入し、家族を役員に入れると、役員報酬を支払うことができるため、所得分散が可能となり、節税の幅も広がります。
9室と10室、どちらがお得なのか?
さて問題です。税金を考えた場合、次のAとBの物件のどちらを選ぶでしょうか?
A:月額賃料7万円 9室×12ヵ月=年間賃料756万円
B:月額賃料6.3万円 10室×12ヵ月=年間賃料756万円
年間賃料はどちらも同じ756万円ですが、Aは9室あるのに対して、Bは10室あります。僕なら、初めて購入する物件であればB物件を選びたいところです。
では、なぜ初めて購入する物件はBを選ぶのかというと、税金の世界には、事業的規模という基準があります。これは、不動産賃貸業が、事業と言える規模か、それともそこまでの規模ではないかを判定する基準です。
それではどのような基準が設けられているのでしょうか?
不動産賃貸業の事業的規模を判定する基準に、5棟10室基準というものがあります。戸建てなど独立した家屋が5棟以上、もしくはマンションやアパートの部屋などが10室以上あるかどうか、という基準です。
この5棟10室基準を満たすと、事業的規模と認められ、税金上の様々な優遇を受けられるようになります。
例えば、事業的規模になることによって青色申告特別控除という利益から引くことのできる控除が65万円になったり、家族にお給料を払うことができたりして、節税することができます。
これが9室しかないA物件なら、青色申告特別控除は10万円しかなく、家族にお給料を払うこともできません。
この事業的規模を判定する5棟10室基準は、
- 区分所有マンションを合わせて10室
- 戸建て3棟+4室あるアパート1棟
- 9室あるマンション1棟+区分所有マンション1室
など、組み合わせて基準を満たしても構いませんので、不動産の投資を拡大しようと考えている方、これから初めて物件を購入する方は、選ぶ際の一つの基準として覚えておいてください。
事業的規模になる組み合わせ
マンションの部屋数 | 10室 | 9~8室 | 7~6室 | 5~4室 | 3~2室 | 1~0室 |
---|---|---|---|---|---|---|
戸建ての棟数 | 0棟 | 1棟 | 2棟 | 3棟 | 4棟 | 5棟 |
居住用と店舗や事務所はどちらがお得なのか?
物件を購入すると、必ず発生する経費の一つが固定資産税です。これは購入した不動産のある市町村に払う税金です。
この固定資産税は土地や家屋に対して掛かる税金で、1月1日にその不動産を持っている人が納めます。納税は年に1回一括支払いでもいいですし、年4回に分けても構いません。
そして固定資産税と一緒に納める税金がもう一つあります。それは都市計画税という税金です。この都市計画税も一部の地域を除いて、購入した不動産がある市町村に納めなければいけません。
では、固定資産税と都市計画税は、どれぐらいの税率なのでしょうか?
〈固定資産税〉固定資産税評価額×税率1.4%
〈都市計画税〉固定資産税評価額×税率0.3%
市町村によって税率が変わることもありますが、固定資産税と都市計画税を合わせると1.7%になります。
固定資産税評価額が3千万円の土地に、固定資産税評価額1千万円の家屋が建っている場合は、次のようになります。
土地の固都税 3千万円×税率1.7%=税額51万円
建物の固都税 1千万円×税率1.7%=税額17万円
合計の固都税 土地51万円+建物17万円=税額68万円
勘違いしてはいけないのは、税率を掛ける金額は不動産を購入した金額ではなく固定資産税評価額です。この固定資産税評価額は3年に1回、市町村が見直しをしています。
普通は固定資産税評価額に1.7%も掛かる固定資産税ですが、居住用の物件だと税金が少なくなります。先ほどの物件が、住宅用地だったとすると、固定資産税は27万円まで下がります。
土地の固定資産税 500万円(3千万円/6)×税率1.4%=税額7万円
土地の都市計画税 1千万円(3千万円/3)×税率0.3%=税額3万円
建物の固都税 1千万円×税率1.7%=税額17万円
合計の固都税 土地10万円+建物17万円=税額27万円
この理由は、土地の固定資産税評価額が1/6や1/3になるからなんですね。
(※200m2以下の小規模住宅用地の場合)
もちろん固定資産税が少ない方がお金は多く残りますので、同じ賃料であれば店舗や事務所が入っているビルのような物件よりも、マンションやアパートなどの住宅用の物件の方が、キャッシュフローは多く残ることになります。
次回は、不動産運営で節税のポイントとなる減価償却費について、より多く計上するための方法や、その減価償却費が物件売却時にどう影響するのかについて解説する予定ですのでお楽しみに!