前回のコラムでは、法人化のタイミングや、個人と法人の税金の違いについてお伝えしました。第6回目となる今回は、不動産投資の税金は最初が肝心な理由と、税金とうまく付き合う方法についてお伝えします。「不動産投資をすれば節税できる」という勘違いをされている方も多くいらっしゃいますので、このコラムを読んで、より多くお金を残す考え方をしっかりと押さえてくださいね。
物件を購入する前から節税は始まっている!
私はよくセミナーで「不動産投資の税金は最初が肝心です」とお伝えしています。第1回目の所得税率について書いたコラムや、前回の法人化について書いたコラムでもお伝えした通り、自分、家族、法人、誰が購入するのかによって、物件から得られる利益に対する税率が変わります。しかし、誰が購入するかは、物件を購入する前から決めておかなければいけませんよね。これ一つとっても、物件を購入した後の税金は大きく変わってきます。
また、第2回目の必要経費について書いたコラムでお伝えした減価償却費に影響する建物の金額についても、事前に建物金額の評価を出しておくだけで、売主と交渉する際に建物金額を高くできる可能性が高くなります。最初に決まった建物金額は、物件を購入した後、建物の耐用年数の期間に渡って減価償却費として経費に計上すると、途中で変えることはできないわけですから、最初がとても重要ですよね。最初に決まったものが、その後何十年という期間の税金に影響するということです。
そして、自己資金を取り戻す最大の節税方法の、消費税還付も物件購入前から準備しておく必要があります。ここで、消費税還付についてご説明しておきましょう。
消費税は土地には掛からず、建物に掛かる税金です。例えば1億円の建物であれば、消費税率5%の場合、500万円の消費税が掛かります。そして、この消費税500万円は、しっかりと事前に準備をして還付申告することによって、ほぼ全額還ってきます。これを消費税還付と言います。
しかし、消費税還付は平成22年に改正があり、かなり難しくなりました。今では、消費税還付申告ができる税理士は、とても少ない状態ですが、私の事務所では今でも新規法人を使った消費税還付申告をしています。この消費税還付について、私の事務所に相談に来られる不動産投資家さんも多いのですが、既に物件を購入してしまっている人や、売買契約書を交わしてから来る投資家さんも多く、お受けできない残念なケースも多々あります。
消費税還付は条件の揃った新しい法人でなければできないので、売買契約書を個人の名義や、ご自身で設立した法人で交わしていると、もうこの条件だけでできません。また金融機関に物件の融資依頼を個人で申請して、個人で審査をしてもらっている場合なども、また改めて新しい法人で審査をやり直してもらわなければいけませんから、本当に物件を購入する前から節税対策は始まっているということです。
消費税については、平成26年4月1日以降は8%になることが決まっています。そうなれば、先ほどの1億円の建物に対する消費税は800万円に上がりますから、還付申告をして還ってくる消費税も多くなるので、自己資金を早く回収することができます。
このように、不動産投資の税金は重要なポイントが、物件を購入する段階でいくつもあります。物件を購入してしまうと、数字の上でコントロールできる部分が非常に少ない商売でもありますので、事前の勉強がとても大切なんですね。
節税対策と融資対策は相反する!
私の事務所には「不動産投資で節税をしたいのですが。」とご相談に来られる投資家さんもいらっしゃいます。私はこのご質問に対して、いつもこのように答えています。「お金の残る、いわゆる儲かる不動産投資は、節税とは相反するものです。」と。
所得税や法人税などの税金は、基本的に利益に対して掛かるものです。逆に損失が出れば、税金は還ってきます。よく、年金目的等の触れ込みで、高所得者向けに所得税が還付される不動産の販売がされていて、そのような不動産を購入されている方もいらっしゃいますが、税金が還付されるということは、損失が出ているということを意味します。逆に利益の出る不動産を購入することができれば、税金もその分発生しますが、お金も残ります。
また、その利益を発生させないように、先に修繕を実施するなど経費を多くして、税金を抑えることもできますが、そうするとお金も残らなくなります。そのカラクリを具体的に数字で見てみましょう。
例えば、毎年100万の利益が出る物件を持っていて、税率が40%だったとします。
[ケース1]100万の修繕を実施して、税金を発生させない場合
利益100万-修繕費100万=利益0
利益0×税率40%=税金0
利益0-税金0=残るお金0
[ケース2]修繕を実施せず、税金を納める場合
利益100万-修繕費0=利益100万
利益100万×税率40%=税金40万
利益100万-税金40万=残るお金60万
このように、経費を多くすれば税金は発生しませんが、お金も残りません。一方、利益が発生すれば税金も納めることになりますが、お金はしっかりと残ることになります。
また、儲かる不動産投資と節税対策は相反するように、融資対策と節税対策も相反するものです。もし、あなたが銀行の担当者なら、先ほどの2つのケースで、どちらの決算書を出してくる人にお金を貸したいと思うでしょうか?
私なら[ケース2]の利益を出して、税金を払って、お金をしっかりと残している人にお金を貸したいと思います。銀行の担当者から見れば、利益は経営者の成績ですからね。実際、私も不動産経営の中で、できる節税はしっかり実施しますが、利益はしっかり出すようにしています。
そして、その利益を活用して、金融機関と金利交渉をすることによって、金利を下げてもらっています。金利が下がれば利益はより多く発生し、その分税金も多くなりますが、お金もより多く残ります。1億円を借りていて、金利が1%下がれば、年間100万円のお金が残り、税率が40%でも[ケース2]のように60万円のお金が残ることになります。
また、今後も融資を受けて不動産投資を拡大していこうと思っている場合でも、しっかりと利益を出してお金を残している投資家さんの方が、次の融資もスムーズに受けられる可能性は高くなります。
利益を少なくすると、税金も少なくなりますが、それによって次の不動産が買えない状態になれば、機会損失が発生することになりますから、無理な節税はしないほうがいいケースも多々あるということを理解しておいてくださいね。
税金の特例をうまく活用する!
といっても、やはり節税はしたいもの。私もできる節税はしっかりとしています。先ほどの具体例のケースでは、修繕費を払った場合を挙げましたが、お金が出ていかない節税方法もあります。その一つが所得税の青色申告特別控除です。
青色申告特別控除は、帳簿を付けることによって最大65万円、事業的規模でなくても10万円、所得から控除してくれるものでしたね。これを使えば、お金は減らさずに節税することができます。
あと、最近話題の太陽光発電設備を取り付けた場合のグリーン投資減税があります。グリーン投資減税は、法人で要件に当てはまる太陽光発電設備を取り付けた場合、税額控除や特別償却ができる制度です。もちろん太陽光発電設備を取り付けるにはお金も必要ですが、このような税金の特例をうまく活用することによって、税金を大きく減らすことが可能です。
また、平成21年、22年に購入した土地を5年を超えて売却した場合の、1,000万円特別控除という制度もあります。この制度は、平成21年、22年に購入している土地であれば、売却して売却益が発生したとしても、その売却益から1,000万円まで控除してくれるので、税金をとても少なくすることができます。
このような税金の特例を活用することができれば、必要以上のお金を使って経費を多くしなくても、効率的に節税することができ、より多くお金を残すことができます。節税対策とは、節税できる仕組みをどのように組み、認められている特例をいかにうまく活用するかによって実現するもので、ミラクルはありません。
一つだけ挙げられるミラクルな節税は、消費税還付ぐらいでしょうか。だからこそ、節税できる仕組みについて物件を購入する前から、そして融資対策も含めて考えることが、不動産投資の本当の目的である「お金を残す」ために重要なことなんですね。
次回は、平成27年に改正される予定の相続税、贈与税について、不動産投資家が注意すべき点についてお伝えする予定ですのでお楽しみに!