収益物件の価格は「総額」で表示されているものが一般的です。
でも、収益物件は土地と建物がなければ成立しませんね。
つまり価格は総額でも実際には土地と建物の価格に分かれているはずなのです。
そして、実はこの土地と建物の価格が収支に大きく影響するのです。
今回は総額表示の物件価格から土地と建物をどうやって区分けするのかを考えてみましょう。
不動産投資と所得税
すでに物件をお持ちの方はご存知だと思いますが、初めての方もいらっしゃると思いますので、基本を少しお話させていただきます。
収益物件を購入すると家賃収入(不動産収入)が発生します。収入が発生したら、そこから必要経費となるものを差し引いた値を出します。これが所得となります。この所得に対して定められた税率をかけて所得税が計算され、支払う義務が発生します。
家賃収入は全額無税で手にすることはできないというわけです。
しかし、所得税がいくらになるのかという点は個々に大きく違ってきます。年間の家賃収入が同じ500万だったとしてもAさんは所得税50万円、Bさんは所得税100万円というように、違ってくるのです。その原因として、ひとつにはAさん、Bさんの不動産所得以外の収入の差によって適用される所得税率が違ってくることがあります。そしてもうひとつ、収入から差し引かれる必要経費の額によって家賃収入は同一でも、所得金額が違ってくることによって所得税は大きく変わってきます。
所得税率は税法で定められていますので、工夫する余地はありませんね。でも必要経費には工夫の余地が残されているのです。
必要経費には何があるのか
では、必要経費には何があるのでしょう。様々なものがあるのですが所得税の青色申告決算書(不動産所得用)で最初から印刷されている項目は、次の7項目です。
(1)租税公課
(2)損害保険料
(3)修繕費
(4)減価償却費(建物減価償却費)
(5)借入金利子
(6)地代家賃
(7)給料賃金
これを私の私見ですがタイプ別に分類してみると
【経済状況などの外部要因で変動するもの】
(5)借入金利子
(6)地代家賃
【状況によって毎年主体的に変更可能なもの】
(2)損害保険料
(3)修繕費
(7)給料賃金
【予め法令で計算根拠が定められ、個人の裁量の余地がないもの】
(1)租税公課
(4)減価償却費(建物減価償却費)
に分けることができます。
しかし、減価償却費については「予め法令で計算根拠が定められ、個人の裁量の余地がないもの」であることは間違いないのですが、その計算根拠の元となる数字、具体的には同一の物件であっても建物の取得価格の評価方法に差がでるケースがあり、その場合は減価償却費が違ってきます。必要経費として計上できる金額が違ってくれば不動産所得も変わってきますので、当然、所得税も違ってきます。よって税引き後の手取り金額が違ってくるのです。
所得税額のポイント 建物の取得金額はどうやって決まる?
つまり、建物の取得金額によって、所得税が違ってくるのです。でも「不動産の建物金額は最初から決まっているのでは?」と思われる方もいるでしょう。
たとえば1億円の新築物件があったとします。この場合、新築ですので建物の建設にかかった費用は明確にわかっています。仮に建設費が7,000万円であれば建物の取得価格は7,000万円、土地が3,000万円となり、これが違ってくることはないでしょう。
しかし、この新築物件が20年後、8,000万円で売りに出されたらどうなるでしょう?建物の手入れが良く新築同様状態だったら新築時の建築費が7,000万円を適用して建物7,000万円、土地1,000万円でしょうか?
逆に、数年後に取り壊しが必要なくらい建物の傷みが激しかったらどうでしょう?建物の評価はゼロ、土地代として8,000万円になるのでしょうか?
実際には、このような極端な評価はできません。
中古物件の建物評価には一定のルールがあります。第10回コラムでも中古物件の建物価格評価についてご説明しましたが、不動産投資において建物の減価償却費は投資判断に係わる大きなポイントですので、もう少し詳しく検討してみましょう。
代表的な方法には
・土地、建物の固定資産評価額で按分する方法
・専門家による評価を参考にする方法
・購入時に土地、建物の価格が明記されていれば、その金額を参考にする方法
・売主が消費税課税業者の場合は、購入に伴う消費税によって割り戻して計算する方法
などがあります。これ以外にも合理的な計算根拠に基づいた計算によって算定する方法もあります。
どれが優先されるのかは税務通達や当局の考え方によっても違ってきますので、すべての方法が認められるということではありませんが、このように建物の評価方法には『選択の余地』があるのです。
売買契約書によって建物取得価格は大きく変わる
一例にあげた「築20年 8,000万円の物件」で考えてみましょう。
●売買契約書に土地、建物の区別がなく総額8,000万円(非課税)と記載されている場合
固定資産税評価 土地4,000万円 建物2,000万円
であれば、固定資産評価で按分すると建物の取得価格は次のようになります。
8,000万円×(2,000/6,000)=2,666万円⇒建物取得価格2,666万円
●売買契約書に土地、建物の区別がなく総額8,000万円(非課税)と記載され、専門家の鑑定評価が付与されている場合
不動産の評価を行う専門家といえば不動産鑑定士ですが、一般には鑑定士による不動産鑑定評価書は作成に日数もかかり、また費用も高額となってしまいます。
しかし、現在では「簡易評価」という形で内容を簡略化し、短期間で費用も比較的安価で評価をしてもらうことも可能です。現地調査を伴わない机上調査であれば、さらに安価で迅速に調査結果を知ることも可能です。
机上調査でも不動産鑑定士の出した結論に変わりはありません。専門家の出した結論は、もちろん有力な論拠となりますので、その金額を採用して申告することも合理的と考えられます。
また、不動産鑑定士でなくても、仲介してくれた不動産業者さんの見解を文書にしてもらい、それを元に申告することも可能でしょう。
●売買契約書に建物3,000万円、土地5,000万円と明記されていた場合
按分では2,666万円となりますが、明記されている金額が3,000万円であれば、その差はあまり大きくありませんので、建物取得金額は3,000万円としても差し障りはないように思われます。
●売買契約書に土地、建物の区別がなく総額8,000万円(内消費税200万円)と記載されている場合
消費税は建物にのみかかります。ですから消費税200万円であれば建物取得価格は200万円÷5%=4,000万円ということになります。
この場合固定資産税評価額での計算結果2,666万円とは大きく差がでますが、消費税が発生する場合には、その消費税から取得価格を割り戻すことも妥当な方法と考えられます。
売買契約時はここに注意しよう
このように、同じ物件を購入しても、売買契約書の内容や、契約時、またその後に作成する資料によって建物取得価格は大きく変わってくることがあります。では売買契約書ではどんな点に注意したら良いのでしょう。
まず気をつけなければならないことは、売主が課税事業者かどうかです。もし、課税事業者であれば、契約書に消費税額が明記されるのが通例ですし、もし明記されなくても売買代金の内訳には消費税金額が記載されます。そのため、建物の評価額は先ほどの内消費税200万円の例のように、消費税額で計算され確定することになります。
このとき、その消費税額が建物の正当な評価を反映したものであれば問題はないのですが、売却する側の立場とすれば消費税はその後納税する義務が発生しますので、どうしても圧縮したがる傾向にあります。つまり、建物評価が過小になる危険性があるのです。
では課税事業者から購入するときにはどうしたら良いのか。
私はその後の減価償却費の計上も考え、建物が過小評価されているのであれば、自ら妥当であると思われる建物評価額との差額に対する消費税相当額は売買価格に上乗せしてでも、自分が考える評価に合わせてもらうことが必要だと考えます。そうすれば、購入総額は増えたとしても必要経費として計上できる建物の減価償却費が大きくなり、適用税率によってはその後の税引後の手取り収入は購入総額が増えた分以上に大きくなることもあるのです。
課税事業者でない場合は、契約書を土地建物の総額表示とするか、分けて記載するかの選択となります。分けて記載する場合、建物の評価額が正当と判断されれば、そのままで良いと思いますが、自分が考えている評価額と違う場合には、あえて土地と建物を分けて記載せず、総額表示としておいたほうが良いでしよう。そして、見解の相違については自分の考えをまとめ、合理的な判断の根拠となる資料を専門家から入手したり、自ら作成し税理士などと相談して申告するようにしましょう。
このように物件購入の際、契約書の記載内容によって税務申告に大きく差がでることがあるのです。購入の際はとにかく入手したいという気持ちが先行してしまいますが、税金のことも忘れずに、あとで後悔することのない売買契約書を作ってもらえるように、専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。