不動産投資コラム

意外と残らない不動産売却後のお金

不動産価格が上がってきている今、売却を検討されている方も多いのではないでしょうか。
言うまでもありませんが、高く売却するとその分税金も多く支払わなければなりません。賃貸中の利益であれば、交際費などの経費を計上して利益の額をコントロールされる方もいらっしゃいますが、売却益は数千万円単位で発生することもあり、税金の問題は避けて通れません。

また、売却時には「税金」だけではなく、その他の経費もかかります。そのため、多くの方が、「意外とお金は残らない」とおっしゃいます。みなさんも「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、今回のコラムで売却時にかかる税金、経費をしっかりと覚えておいてください。

個人における不動産売却時の税金

1.不動産の売却益は「譲渡所得」

不動産を売却すると、売却益に対して税金がかかるのは個人も法人も同じです。しかし、個人と法人では税率や計算方法が変わります。個人の場合、「給与所得」「不動産所得」「事業所得」などのように、10種類の所得があります。不動産の売却益は「譲渡所得」という所得になります。

給与所得や不動産所得は最終的に合算されますので、給与所得が500万円、不動産所得が△500万円であれば、合計は0円となり、税金は発生しません。これを「損益通算」と言います。一方、不動産の譲渡所得は、これらの所得と合算されません。そのため不動産所得がマイナスでも譲渡所得がプラスであれば、損益通算されることはなく、譲渡所得に対しては税金が発生します。

2.売却益の算定

譲渡所得の計算方法は次の通りです。

売却代金-取得費-譲渡費用=譲渡所得

「売却代金」は、売買価格のほかに固定資産税精算金が入り、税務上はその分高く売却したという形になります。売却代金の値上げという形で処理します。また、関西の一部地域では預り保証金の持回りという制度があります。入居者から預かった保証金を、売り主は買主に渡さなくてよいという制度です。この場合は、通常のケース(預り保証金を渡すケース)と比べて保証金の分だけ高く売れたことになり、保証金の金額が売却代金に加算されますのでご注意ください。

「取得費」とは、いわゆる帳簿価額です。これは、購入時の取得価額から所有時に計上した減価償却費を差し引いて算出します。購入時の取得価額には、前回のコラムで紹介した「仲介手数料」「固定資産税精算金」などの諸費用も含まれます。相続などで取得した先祖代々の土地などのように取得費がわからない場合や、取得費が売却代金の5%未満の場合には、「売却代金×5%」を取得費とすることも可能です。しかし、これは95%が利益になるので税金も多額になることが予想されます。できるだけ資料を集めて算定するようにしましょう。

売却する不動産が事業(賃貸業など)に使われていた場合には、通常通り減価償却費を計上しますが、事業に使われていなかった場合(自宅として使用する場合など)には、耐用年数を1.5倍にして減価償却費を算定します。事業に使っていない場合には建物の傷みも少ないので、減価償却費も少なく計算することになります。

「譲渡費用」とは売却に要した費用を指します。具体的には「仲介手数料」「司法書士費用」「測量費」「売買契約書の印紙」「立退料」などがあります。この他にも、以下のものが挙げられます。

・建物を取り壊して、土地として売却する場合には、「建物の取り壊し費用」
・既に売買契約を締結している不動産を、更に有利な条件で売るために支払った「違約金」
・借地権を売るときに地主の譲渡承諾をもらうために支払った「名義書換料」など

また、譲渡所得には、その不動産の所有期間に応じて2つの税率があります。

長期譲渡所得⇒20.42%
短期譲渡所得⇒39.819%

「長期譲渡所得」とは、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超える場合を差し、「短期譲渡所得」は5年以下の場合を差します。売却日時点で5年経っているかどうかで判断してしまう人が多いですが、判定はあくまでも1月1日です。また、相続や贈与で不動産を取得された場合には、相続時や贈与時から計算するのではなく、元の所有者が取得したときから計算して5年超かどうかを判定します。

法人における不動産売却時の税金

個人では所得の種類が分かれるため少し複雑な計算になりましたが、法人の場合はすべての売上を合算します。つまり、法人の決算年度の賃貸利益と売却益(売却損)を合算して、合計の利益に対して法人税率をかけます。税率は以下の通りです。

利益の額 法定実効税率
0円~400万円 約21.4%
400万円~800万円 約23.2%
800万円~ 約36.0% (※)
(※)平成27年4月1日以降開始事業年度からは約34.3%

平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの特別控除

リーマン・ショックが起きたのは、平成20年9月でした。その後、急激に冷え込んだ不動産マーケットのカンフル剤として、平成21年、22年に土地等を購入した個人に対して、税制上のメリットを与える制度が確立。ちょうど今年から、この特例を利用できるケースが出てきました。個人が、平成21年に取得した国内にある土地および土地の上に存する権利(以下「土地等」といいます。)を平成27年以降に譲渡した場合、または平成22年中に取得した土地等を平成28年以降に譲渡した場合には、その土地等にかかわる譲渡所得の金額から1,000万円を控除することができます。ただし、以下の条件を満たす必要があります。

(1)平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に土地等を取得すること。

(2)平成21年に取得した土地等は平成27年以降に譲渡すること、また、平成22年に取得した土地等は平成28年以降に譲渡すること。

(3)親子や夫婦など特別な間柄にある者から取得した土地等ではないこと。特別な間柄には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

(4)相続、遺贈、贈与、交換、代物弁済及び所有権移転外リース取引により取得した土地等ではないこと。

(5)譲渡した土地等について、収用等の場合の特別控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど他の譲渡所得の特例を受けないこと。

不動産価格が上がる今はまさに売却の絶好のタイミング。しかし一方で、持ち続けた方がいいのか売却した方がいいのか悩まれる方が多いのも事実です。税率や計算方法はもちろん、特例の適用が可能かどうかを確認していただき、合理的な判断を行いましょう。

次回は、シミュレーションの重要性についてお話します。多くの方が、不動産価格が上昇する中で、とても単純で致命的な判断ミスを起こしています。物件を購入したいと思っている方はぜひご覧ください。

塩田 雅人
塩田 雅人

塩田 雅人不動産投資 専門税理士

不動産投資に関する税務をさまざまな角度(所得税・法人税・消費税・相続税など)から検討し、トータルでサポートを行う。個人所有物件の法人化や消費税の還付に精通。銀行との良好な関係を築き、顧問先の借り換え提案や金利交渉に力を発揮する。
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