不動産投資コラム

法人化による社会保険の負担義務を軽減するには?

お客様から「法人を設立したい」という相談が日に日に増えています。
法人税率も下がり、所得税・住民税の大幅な節税が期待できるという面が大きいのでしょう。

社会保険の負担

法人化にもデメリットがあります。その一つが社会保険の加入です。

法人を設立すると、代表者が1名だけであっても社会保険に強制加入となります。
よく「従業員5人未満なら社会保険の加入義務はない」とおっしゃる方がいますが、それは個人事業主の場合です。
法人の場合は、従業員の人数に関係なく加入の義務が発生します。

社会保険料は、今後も増加傾向にあるため大きな負担となる可能性があります。
今後は、マイナンバーにより社会保険に加入していない法人も明確になります。
社会保険料を考慮して、法人を設立するのか、役員報酬の金額をいくらにするか、慎重に判断しなければなりません。

なお、社会保険料の負担は、健康保険と厚生年金と合わせて、給与金額の約30%になります。
例えば、年収が500万円の場合の社会保険は約150万円です。

この保険料は、会社と従業員(役員)の折半で支払うことになります。
給与金額の約15%(上記の例の場合、約75万円)が会社負担してくれるので、従業員にとっては、非常によい制度と言えます。

しかし、サラリーマン大家さんが設立される会社は、自分の会社(同族会社)が多く、会社負担といっても、自分が負担するのと変わりがなくなります。
ゆえに、社会保険加入の金銭的な負担がかかってしまうのです。

社会保険を抑える方法

今後の社会保険の加入に備えて、負担を抑える対策を挙げてみます。

(1)報酬ゼロにする(法人税を払う)
役員報酬を支払うと社会保険の負担が発生します。
役員報酬を支払わなければ、社会保険の負担はなくなります。

ただし、役員報酬を支払わないと、会社に利益が残ることになるため、法人税等がかかります。
法人税等は、年々下がってきており、平成28年度の資本金1億円以下の普通法人の実効税率は以下になります。

所得400万円以下...21.42%
所得400万円超800万円以下...23.20%
所得800万円超...33.80%

例えば、所得が400万円の場合、給与を出さなければ、法人税等は、約80万円(均等割を除く)になります。
給与400万円を出した場合には、社会保険の負担約120万円と個人の所得税・住民税の負担が発生します。
給与を出さずに、法人税等を払った方が負担は少なくなります。

(2)非常勤役員の活用
役員でも、非常勤役員の場合には、社会保険への加入は任意になります。
社会保険に加入しなければ、非常勤役員に給与を出しても、社会保険の負担はなくなります。

ただし、非常勤か常勤かは、定期的な出勤の状況、法人の中での権限、報酬の金額などの実態を総合して判断されることになります。

(3)給与以外でもらう(課税なし)
給与を払わず、法人税の負担も抑えたい場合には、給与以外で経費をつくることが考えられます。
単純に経費を使うと、支出も伴うため現金がなくなってしまいます。

そこで、個人で負担していた支出を会社の支出にしたり、現金が積み立てられる制度を利用すると効果的です。

生命保険を会社で掛ける
個人で生命保険をかけていても、生命保険料控除で最大4万円が所得控除になります。
会社で生命保険をかけると、保険の種類等によっては全額損金になるものもあります。
積立型の保険に加入すれば、保険料の半分を経費としながら、現金を貯蓄できます。

セーフティー共済に加入する
取引先が倒産し、売掛金が回収困難になった場合に、貸付けが受けられる共済制度です。
掛金として支払った全額が必要経費になります。

掛け金は、月額最大20万円(年240万円)までです。
ただし、掛金総額800万円までが積立限度額で、それ以上の金額は掛けられません。

不動産所得のみの個人の場合は、加入はできますが、掛金を必要経費に計上することはできません。
法人であれば、掛金を全額経費にすることが可能です。

40ヵ月以上掛金をかけることで、解約手当金は100%戻ります。
なお、解約手当金は、全額収入になりますのでご注意ください。

自宅を社宅利用する
自宅を賃貸しているのであれば、会社契約に変更して社宅とすれば家賃を法人の損金にすることができます。
ただし一定の家賃を会社に払う必要があります。

出張旅費規定を作り、日当を支給する。
会社で旅費規程等を作成すれば、社長であっても出張に出かけた際の日当を払うことができます。
日当は法人の損金になります。
日当を受け取った個人は非課税になります。

(4)給与以外でもらう(課税あり)
個人に給与を出すと、社会保険が発生するので、給与以外で個人に現金を支給できないかを検討します。

この場合、会社から個人への支出は、会社の経費になりますが、支給を受ける個人は所得になるため、個人の所得税・住民税と会社の法人税等を比較して、個人に支出した方が有利な場合に利用されるとよいでしょう。

利息を支給する。
個人が会社に貸しているお金があれば、その返済とともに利息を支給することにします。
個人が受け取った利息は雑所得として所得税課税されますが、社会保険の負担はありません。
※会社が社債を発行することで、個人が受け取る利息を利子所得として20%課税ですむようにする方法がありましたが、平成28年1月1日以降に受け取る同族会社の社債利息は総合課税になりました。

賃料、地代
個人が会社に貸している物件や土地があれば、会社から賃料や地代として支給することにします。
個人が受け取った賃料や地代は不動産所得として所得税が課税されますが、社会保険の負担はありません。

退職金を支給する
会社で退職金規定等を作成すれば、役員に退職金が支払えます。
退職金は会社の損金になり、受け取った個人は退職所得となります。
退職所得は、勤続年数によって計算される退職所得控除額で大きく控除でき、控除後の所得を2分の1にできます。

なお、平成24年度税制改正により、勤続年数が5年以下の役員等が退職金を受け取った場合には、2分の1の計算が使えなくなりました。

退職金については、社会保険の負担はありません。

(5)その他
月額の給与を抑えて、賞与で支給することで社会保険料を抑えるという方法もあります。
ただし、給与金額が多い場合(年収800万円以上)でないと、効果がないため、詳しくは専門家などに相談してください。

渡邊 浩慈
渡邊 浩慈

渡邊 浩慈不動産 専門税理士

大学卒業後、総合商社に入社するも税理士を目指して退職。その後、実家の賃貸経営が危機的状況にあることを知り、税理士の資格を習得すると自ら経営改善に取り組み救出。2011年に税理士・司法書士「渡邊浩滋総合事務所」を設立し、悩める大家さんのよき相談役となるべく日々奮闘中。

 

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