不動産投資コラム
賃貸物件を所有すると、毎年確定申告が必要になります。
個人の場合、賃貸収入の所得は、不動産所得として計算することになりますが、税金上の独特の考え方をするので、難しい部分があります。
今回は、確定申告で間違いやすいポイントを解説していきます。

購入時の諸費用

物件を購入した際にかかった諸費用のうち、必要経費に計上できないものがあります。

・仲介手数料
購入した減価償却資産の取得価額には、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などその資産の購入のために要した費用も含まれます。

不動産を購入するにあたり、不動産会社に支払う仲介手数料は、購入手数料に該当しますので、資産の取得価額に計上することになります。

・固定資産税の精算金
固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産を保有している方(売主)に課税されるもので、年の途中で売却しても、納税義務者は変わりません。
そのため、不動産の引渡し時には、引渡日以降の固定資産税を買主から売主に支払うことで清算します。

この精算金は、固定資産税そのものの税金ではなく、売買の慣習で行っているものに過ぎません。
ですから、税務上は、固定資産税の精算金は、売買金額の一部として取り扱うことになっており、取得価額に計上します。

・初めて賃貸経営をする場合における賃貸開始する前の借入金の利息
所得税法基本通達38-1の規定によると、「固定資産の取得価額に算入する」とされています。

つまり、必要経費ではなく、土地や建物などの資産に計上することになります。

なお、賃貸を開始した後の期間に対応する借入金利息は、必要経費に計上することになります。
※取得のための登録免許税、不動産取得税は、個人の場合には、取得費に計上することはできず、必要経費になります(法人の場合には、取得費に計上するか、必要経費に計上するか選択できます)。

敷金返還時の処理

預かった敷金・保証金のうち返還しなくてもよい部分があった場合、その部分は収入に計上しなくてはなりません。

契約書に「敷金は、退去時に滞納金、入居者負担のリフォーム代がある場合に相殺し、残額を返還する」と記載がある場合がよくあります。

敷金の精算を行う場合には、本来、入居者が退去の際に原状回復をして明け渡さなければならないところを、負担すべき修繕費相当額を敷金から差し引いて精算するということです。

敷金を返還しない額は、退去時でないとわからないため、退去時に返還しない金額が確定した際に収入に計上することになります。

このように相殺された金額については、相殺される前の金額で経理処理をすることが原則です。
敷金を相殺した後の金額で処理すると、実際の収支と合わなくなってしまい、後々の税務調査での追徴課税の対象になる可能性があります。

それでは以下で具体例をあげて説明します。

[契約時に敷金10万円を預かった場合の処理]
現金預金 10万円/預り敷金 10万円

退去時に敷金のうちリフォーム代3万円を差し引いて7万円を返還し、リフォーム代3万円を支払った場合の処理と仮定します。

《間違った経理処理》
敷金返還時 :預り敷金 7万円/現金預金 7万円
修繕費   :3万円/現預金 3万円

《正しい経理処理》
敷金返還時 :預り敷金 10万円/現金預金 7万円
                その他の収入 3万円
修繕費   :3万円/現預金 3万円

契約時の預り敷金と返還時の預り敷金の金額が一致します。入居者負担の収入と修繕費が対応することになります。
間違った処理をすると、預った敷金と返還する敷金の金額が異なることになります。
入居者に修繕費を負担してもらったのに、修繕費3万円だけが計上されてしまいます。
管理会社から、敷金の返還7万円の指示だけされる場合には、このような処理をしがちです。
敷金返還の明細を見ないとわからない部分になりますので、必ず確認するようにしてください。

なお、最近では、契約時に「クリーニング代」などとして、契約時に退去時のリフォーム代を受け取るケースがあります。
このクリーニング代は、退去時に実費精算をして入居者に返還するものでない限り、契約時に返還しないことが確定するため、契約時の収入に計上することになります。

同一生計親族に払う給与、地代

所得税法56条により、同一生計親族に支払った給与、借入金の利子、地代などは必要経費に計上することはできません。

一方、給与や利息を受け取った親族の方では、これらの収入を所得に計上する必要はありません。

例外として青色事業専従者に対して支払う給与は、経費にできます。

家族従業員だけの慰安旅行

青色事業専従者とだけの慰安旅行の費用は、単なる家族旅行としての性格が強いものと認められ、通常の場合、家事的な費用として取り扱われるので、必要経費に算入することはできません。

名古屋地裁平成5年11月19日判決において「サラリーマンの家族が行ういわゆる家族旅行と異なるものではない。」として必要経費を否定されています。

赤字の場合の損益通算における土地の負債利子

不動産所得が赤字になる場合には、給与などの他の所得と損益通算(相殺)することができます。

しかし、不動産所得については、赤字になった場合には、「土地取得にかかる借入金の利息については、損益通算の対象にはならない」という規定があります。

土地の借入金の利息について、経費にならないということではなく、経費にはなるけれども、赤字になった場合には、赤字分から土地の借入金の利息を控除した金額が、損益通算の対象になるということです。

例えば、不動産所得がマイナス100万円になった場合、経費計上した借入金利息120万円のうち、土地にかかる利息部分が60万円とすると、100万円-60万円=40万円のみが損益通算の対象になります。
この規定があるため、土地から購入する場合が多いサラリーマン大家さんは、赤字にしても思ったほど節税にならないことがよくあります。

上記の項目は、非常に間違いやすい部分になります。申告を間違えると過少申告加算税などのペナルティがかかることがありますので、正しく確定申告をするようにしましょう。

渡邊 浩慈
渡邊 浩慈

渡邊 浩慈不動産 専門税理士

大学卒業後、総合商社に入社するも税理士を目指して退職。その後、実家の賃貸経営が危機的状況にあることを知り、税理士の資格を習得すると自ら経営改善に取り組み救出。2011年に税理士・司法書士「渡邊浩滋総合事務所」を設立し、悩める大家さんのよき相談役となるべく日々奮闘中。

 

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