1.はじめに
表題の特別控除は、簡単に言うと、今年の4月1日から2021年3月31日までの間に始まる事業年度(設立事業年度などは対象外です。) において、次の①と②を満たす場合、給与の支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除を認めるというものです (租税特別措置法42条の12の5。同法施行令42条の12の5) 。
そして、①と②を満たすだけでなく、さらに③の要件をも満たす場合は、さらに+5%すなわち同増加額の20%を本来の法人税額から控除すること(上限は法人税額の20%) を認めるというものです。
①賃金要件 継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率(給与増加率)≧3%
②投資要件 国内設備投資額≧当期の減価償却費の総額の9割
③教育訓練要件 当期の教育訓練費≧前期と前々期の教育訓練費の平均額の1.2倍
この特例は、設備投資と持続的な賃上げを促す・後押しするため、それらに積極的な企業の税負担を軽減しようという趣旨で設けられた政策減税です。
なお、この控除を受けるには、法人が確定申告書等に所定の記載・必要書類の添付をすることが必要で、それらを忘れた確定申告等をした場合、税務署にこの税額控除を適用した税額に再計算してもらう(その結果として法人税の還付を受ける)ことはできません。
2.適用条件の詳細
1の①~③の要件で用いられる「継続雇用者給与等支給額」などの専門的な用語の内容を説明します。
(1) 継続雇用者給与等支給額
「継続雇用者給与等支給額」とは、法人のその事業年度(この税額控除を適用しようとしている事業年度)とその前事業年度の期間(つまり2期分で、通常は24カ月間です。) の各月において、その法人から給与等(所得税法上給与所得となるものを指します。) の支給を受けた、国内において雇用している者(「継続雇用者」といいます。) に対するその事業年度の給与等の支給額です。
この支給額は、その給与等に充てるため他の者からから支払われる金額(出向者につき支払われる給与負担金などがこれに当たるでしょう。) がある場合はその金額を控除した額として計算します。
ここで、その計算対象になる雇用者はその24カ月間その法人に国内で雇用されている使用人であり、役員(法人税法上の役員。以下同じ。) は含まれません。また、使用人でも、その法人の役員の親族等、特殊の関係のある者及び使用人としての職務を有する役員(いわゆる使用人兼務役員) は含みません。ですから、同族会社が社長やその会社で働いているその親族等の給与をお手盛り的に上げてもこの特別控除は使えません。
1の①は、その事業年度の継続雇用者給与等支給額が、その前事業年度(その年度がこの特別控除を受ける事業年度と同じ月数であるとします。) の継続雇用者に対する支給額に比べて3%以上増加していることを求めるものです。
(2)国内設備投資額
「国内設備投資額」とは、その法人がその事業年度において、取得、製作等した国内にある機械及び装置等の資産で、その事業年度末に有しているものの取得価額の合計額です。1の②は、その合計額がその事業年度における減価償却資産の償却費として損金経理した金額の合計額の9割以上であることを求めているものです。
(3)教育訓練費
「教育訓練費」とは、法人が国内で雇用する者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は講じようさせるために支出する費用で、法人が自ら教育、訓練をする場合のそれに掛かる諸費用や、その国内雇用者を他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の授業料、研修参加費などがそれに当たります。
1の③は、その教育訓練費の額が、その事業年度から見て前期と前々期の教育訓練費の額の合計額を2で割った金額の1.2倍以上に増加していることを求めています。
3.中小企業(資本金の額が1億円以下の会社など)の場合のさらなる優遇
その法人が一定の中小企業であれば、1の①の給与増加率3%以上という要件が半分の1.5%以上に緩和されていて、同増加率が1.5%以上となれば、給与等の総額の増加額の15%の税額控除をすることができます。
また、給与増加率が2.5%以上で、かつ、教育訓練費が前期の1.1倍以上である場合などは、同増加額の25%の税額控除ができます。いずれの控除も上限は上記と同じ法人税額の20%です。