1.配偶者居住権の設定と相続税
被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割又は遺言により、その建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住・賃貸できる権利(「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。
配偶者居住権は遺産分割等により設定され、配偶者の具体的相続分を構成することから、相続財産として相続税の課税対象になります。
2.配偶者居住権等と小規模宅地等の特例の適用
配偶者居住権自体は建物に関する権利であるため、相続税の小規模宅地等の特例(租税特別措置法(措法)69条の4)の適用対象にはなりません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合における、居住建物の敷地の利用権(以下「敷地利用権」)は、土地の上に存する権利に該当するので、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用対象となります。
また、居住建物の敷地の所有権(以下「敷地所有権」)も、その取得者が居住建物に被相続人と同居等の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用対象となりますます(措法69条の4第1項、第3項2号)。
小規模宅地等の特例の適用を受けることができる宅地等は、被相続人等の事業の用または居住の用に供されていた宅地等のうち一定の面積(限度面積)までの部分とされており、特定居住用宅地等に係る限度面積は330m2とされています。
特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を選択しようとする宅地等が、配偶者居住権の目的となっている居住建物の敷地の用に供される宅地等または敷地利用権である場合には、その面積に、それぞれその敷地の用に供される宅地等の価額またはその権利の価額が、これらの価額の合計額のうちに占める割合を乗じて得た面積であるものとみなして、限度面積の要件を判定します(措法施行令40条の2第6項)。
3.事例に基づく、遺産分割により配偶者居住権が設定された場合の小規模宅地等の特例の適用の検討
【問】
被相続人甲(令和2年5月死亡)は、生前、所有する土地X(面積240m2)上に建物Yを建築し、自宅として妻乙と長男Aの3人で同居していました。甲の相続人の乙、A及び次男B(甲の相続開始直前において、甲と別生計かつ自己所有の建物に居住)による遺産分割協議の結果、乙は配偶者居住権とその敷地利用権を、Aは建物Y及び土地Xの所有権の共有持分2分の1を、Bは土地Xの所有権の共有持分2分の1を取得しました。
この場合に甲に係る相続税の計算上、小規模宅地等の特例の適用対象となるのはどの部分ですか。なお、甲の相続財産中に土地X以外に宅地等はなく、配偶者居住権が設定されてない場合の土地Xの自用地としての相続税評価額は7,200万円であり、敷地利用権の相続税評価額は2,400万円、敷地所有権の相続税評価額は4,800万円です。
【回答】
2の下線部の取扱いを踏まえ、さらに国税庁が令和2年7月に公表した「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)」の(事例1-1)で示した取扱いに基づき、甲に係る相続税の小規模宅地等の特例の適用について検討すると、次の通りになります。
(1)相続人が取得した宅地等の面積
①乙が取得した敷地利用権の面積:
240m2(土地Xの面積)×2,400万円(敷地利用権の相続税評価額)÷7,200万円(土地Xの自用地としての相続税評価額)=80m2
②AとBが取得した敷地所有権の面積:
240m2×4,800万円(敷地所有権の相続税評価額)÷7,200万円(土地Xの相続税評価額)=160m2
(2)相続人ごとの特例対象宅地等の区分
①乙が取得した敷地利用権(特定居住用宅地等)
相続税評価額:2,400万円、面積:80m2((1)①)
②Aが取得した敷地所有権(特定居住用宅地等)
相続税評価額:4,800万円(敷地所有権全体の評価額)×1/2(Aの持分)=2,400万円
面積:160m2((1)②の面積)×1/2(Aの持分)=80m2
③Bが取得した敷地所有権(注)の相続税評価額:
4,800万円×1/2(Bの持分)=2,400万円
(注)Bは甲の相続開始直前に甲と別生計かつ自己所有の建物に居住しており、Bが取得した敷 地所有権は特定居住用宅地等の要件を満たさないことから、特例の適用を受けることができません。
(3)限度面積要件の判定等
80m2((2)①)+80m2((2)②)=160m2≦330m2
よって乙は敷地利用権80㎡、Aは敷地所有権80m2につき、他の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。