不動産投資コラム

売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

1.はじめに

売却する不動産に遺品が残っている場合があります。これら遺品の整理業務については、最近では専門の遺品整理業者が多数存在しており、それだけニーズが多い状況であることがわかります。

それもそのはず、遺品を残したままでの引渡しでは買主が通常、嫌がるからです。当然、売買契約書では、遺品の整理について売主側での処理を前提に引渡しを実行する契約を締結することが良く行われるようです。

この場合、売主側で気になるのが、遺品の片付け・整理費用が税務上、譲渡費用になるかどうかという点です。最近、この点を争点として、結論として遺品片付け費用が譲渡費用と認められなかった裁決事例が明かになっています(国税不服審判所、令和5年9月11日)。今回はこれを紹介します(本件はこれ以外の争点もありますが、割愛します)。

2.事案の概要

請求人Aさんは、父親と母親から賃貸不動産(土地・建物)と親と住んでいた住宅(土地・建物)などを相次いで相続し、平成30年7月に買主との間で、上記不動産を売却する旨の契約を締結し、平成31年1月25日、上記不動産を買主に引き渡しました。

その際、建物の中に残存していた遣品の片付け費用として300,000円を支払い、遺品は、Aさんが引き取り、自宅で保管していたといいます。

申告では、添付した「譲渡所得の内訳書」には、上記不動産を譲渡するために支払った譲渡費用として、仲介手数料及び収入印紙代のほか、遺品片付け費用300,000円等がそれぞれ記載されていました。

3.税務署の対応

所轄の税務署は、令和3年に調査し、「遺品片付け費用は譲渡所得の計算上、讓渡費用には該当しない」として所得税の更正処分・過少申告加算税の賦課決定をしたところ、これを不服としてAさんが国税不服審判所(以下、「審判所」という。)へ審査請求したものです。

4.審判所の判断

争点は、遺品片付け費用は、不動産の譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用に当たるか否か。

審判所は、「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみて、その譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものであると解される」と譲渡費用についての基本的な考え方を示しました。

次に審判所は、所得税基本通達33−7について、「譲渡費用とは、資産の譲渡のために直接要した費用及び当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいうものと定めた上で、当該資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する旨定めている」と指摘し、譲渡費用の基本的な考え方に沿うものとしました。これを前提に審判所は、次のような事実関係を指摘しています。

「売買契約における特約事項(動産の撤去の特約)においては、不動産の建物内に構築物、動産がある場合は、不動産の引渡日までに売主(請求人)の責任と負担において処分・除去するものとし、また、不動産の引渡し時において残存する構築物、動産等一切について、売主(請求人)はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主(本件譲受人)による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められている」。

また、買主の取締役が答えたところによると「上記特約は不動産を売買する場合に一般的に使用する条項」だといいます。

これを受けて審判所は、Aさんがした遺品片付けは「特約事項に基づいて、請求人の責任と負担においてされたもの」と認定しましたが、「売買契約における代金に対し請求人の主張する遺品片付け費用は300,000円にすぎない」こともあって、「不動産の引渡し時において残存する構築物や動産等一切について、売主はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められていることからすると、仮に遺品の片付けがされていなかったとしても、特約事項を理由に、不動産の譲渡が実現しなかったとは認め難い」としました。

さらに審判所は「遺品は請求人が引き取り、自宅で保管している」ことも指摘し、最終的に「遺品を整理する目的で遺品片付け費用を支出したとみるのが相当であり、特約事項の内容に照らしても、客観的にみて、譲渡を実現するために遺品片付け費用が必要であったとは認められない」と判断しています。

税理士法人タクトコンサルティング

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