不動産投資コラム

M&A直前の相続で取得した株式の相続税評価に係る裁判は納税者勝訴で確定

目次

1.はじめに

東京高裁は令和6年8月28日、M&A直前に開始した相続で、相続人が取得した取引相場のない株式について、財産評価基本通達6項(以下、財産評価基本通達を評価通達、同6項を評価通達6項という)による財産の再評価・追徴を認めないとした今年1月の東京地裁判決を支持する判決を下しました。国側は控訴を見送ったため、同裁判は確定しました。
争われていたのは、中小企業のM&A目前に企業オーナーが亡くなり、オーナーが生前に取りまとめていたM&Aを相続人が実行し、同社株式を同業他社に売却した事案です。相続人は売却前の株式を評価通達により評価したが、その評価額と、M&Aで合意された売却金額との間に「著しいかい離」があるとして、税務署が売却価額約10万円に近い約8万円で更正したことで争いになっていました。

2.事案の概要

判決によると、事案の概要は次のとおりです。

  • (1)被相続人は平成26年5月、経営する会社の株式の譲渡に向けて買収会社と協議、基本合意書を締結した。会社の株式は1株約10万円で譲渡するとしていたが、法律的に拘束するものではないことを確認していた。
  • (2)被相続人は基本合意書をまとめた後に死亡。相続人3人のうち被相続人の配偶者が売却する株式の発行会社の代表取締役になる一方、買収交渉を再開し、同年7月に相続人の一人に全ての株式を集めたうえで、全株式を買収会社に基本合意書の価格(約10万円)で譲渡した。
  • (3)相続人らは相続税の申告では評価通達に基づき「取引相場のない株式で大会社のもの」として評価し、1株約8千円として申告した。
  • (4)所轄税務署は、評価通達6項により平成30年8月に国税庁長官の指示に基づき、上記株式について、専門家によるDCF法の評価(約8万円)で更正処分等をした。

3.国税の主張

東京高裁における国側の主な主張は次のとおりです。

  • ①評価通達6項を適用すべき根拠として、問題の相続株式につき通達評価額と相続開始日における客観的な交換価値との間に著しいかい離があり、被控訴人がそのことを十分に認識することが可能であった。
  • ②売買契約が成立しその所有権が買主に移転する前に、問題の株式の所有者である売主が死亡した場合、売主の相続財産は売買代金債権になり、その価額は原則として売買相当金額で評価される(最高裁昭和56年(行ツ)第89号 昭和61年12月5日)とした上で、相続開始時に売買契約が成立していなかったとしても、近い将来、売買契約が成立し売買代金債権に転化する蓋然性が高い場合には、当該株式の価値としては、その売買代金相当額が基準になり得る。

4.東京高裁の判断

東京高裁は、①の点について次のように述べました。

  • ・ 「取引相場のない株式の客観的な交換価値は、本来、専門的評価を経ない限り判明しないものであって、外形的事実によって取引相場のない株式の交換価値を合理的に推測することが可能であるとは必ずしもいえない。」
  • ・ その理由として「M&Aが行われる場合においては、高度な経営判断や双方の交渉の結果等により株式の売買代金が決定されるのであって、売買代金が交換価値を反映しているとは限らない」

その上で東京高裁は、譲渡予定価格約10万円や更正処分の株価約8万円等が「通達評価額(約8千円)と大きくかい離しているからといって、更正処分の時点までさかのぼって、譲渡予定価格が交換価値を反映したものであるとして評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)が存在したということにはならない」としました。②について東京高裁は、「昭和61年の最高裁判決は、本件のように売買契約がまだ成立していない場合とは明らかに状況を異にする」と指摘、「仮に、上記蓋然性の程度を基準とすることが許容されると解したとしても、本件相続開始日において、被控訴人らと買収会社)との間で本件相続株式の売買契約が成立し、譲渡予定価格による売買代金債権に転化する蓋然性が高かったと認めることはできない」と判断しました。
というのも、基本合意では、ア譲渡予定価格に法的な拘束力があることは明確に否定されている、イ相続開始後に買収監査等が行われているから、買収会社が「譲渡予定価格により取得する確定的意思を有していたとは直ちに認め難い」というわけです。
このほか、東京高裁は、「本件被相続人及び被控訴人らによる相続税の負担を減じ又は免れる行為があったとは認めがたい」ことなどを指摘。国側の控訴に理由はないとして、税務署の更正処分を取り消した一審判決を支持しました。

税理士法人タクトコンサルティング

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