不動産投資コラム

資金調達におけるツボとは? その一

不動産投資では購入資金の一部を借入れることになりますが、誰でも無条件に融資を受けられるものではありません。年齢、職業、年収、資産状態によって大きく違ってきます。
しかし、銀行も書面だけの審査で融資を決定するのではなく、プラスαを考慮して最終結論が出てくるのです。
今回は、そのプラスαを最大限勝ち取る方法を考えてみましょう。

どこに相談に行くのが良いか? 窓口の支店について

では、不動産投資初心者のAさんを例にあげて考えてみましょう。

Aさんは新宿区に住んでいました。物件は電車で30分ほどの近隣の町(品川区)にあります。新宿区にはAさんが給与振込に使っているN銀行の新宿支店があり、品川区にも品川支店があります。この場合、Aさんが融資の相談に行くなら新宿支店が良いでしょう。

次に、物件が他県の長野市にある場合を考えてみましょう。

長野市は新宿区から電車で3時間以上かかりますがN銀行の長野支店があります。
このケースではAさんにとっては大変なのですが長野支店に相談するほうが良さそうです。

なぜでしょうか?これを判断するキーワードは「保全」とその根拠となる「調査」です。

銀行の支店ネットワークの性質

投資用物件に限らず銀行が不動産に対して融資する場合、融資希望者と物件が営業テリトリーの範囲内であることが基本(転勤等での移動は問題なし)です。

なぜなら、銀行は融資に対して万が一債務不履行となった場合を考え、元金を回収するために不動産を担保にしたり、保証人を設けるなど、いわゆる「保全」という手段をとることによって回収不能のリスクを極力減らそうとするのですが、そのためには、物件の状況確認が容易にできることや、個人の所在確認、サラリーマンであれば勤務先の確認ができることが大前提となっているのです。

しかし、そうであれば、営業テリトリーの範囲内はどこに申し込んでも同じだと思われるかもしれません。
ところが、ここでどの支店を選ぶのかでプラスαが違ってくるのです。

評価する物件が給与振込先の近隣にある場合

<給与振込先はN銀行新宿支店、評価する物件は近隣の町・品川区(N銀行の最寄の支店は品川支店)>

このケースでは新宿支店はAさんの収入状況が容易に把握できますのでAさん個人の調査は容易です。
また物件は近隣の町ですので、たとえ品川支店があったとしても新宿支店の担当者が直接物件の調査に行くことが可能です。

品川支店も同じ銀行ですからAさんの収入状況は把握でき、条件は一緒なのですが、支店間では営業成績の競争もあります。新宿支店の担当者からすれば、融資の可能性のある自分の支店の顧客を品川支店に取られることは避けたいという心理が働きます。
もし、Aさんに対して消極的な立場をとり、Aさんが品川支店に相談に行き品川支店で融資が決定した場合には、新宿支店の担当者は立場が無くなります。場合によっては上席から「何をやっているんだ。他行に取られるのならまだしも身内にとられるなんて...」と言われるかもしれません。
融資担当者にしてみればそんな事態はできれば避けたいものです。
では、どうしたら良いのでしょう。
その解決策は、Aさんに対して最大限優遇した融資条件、つまり一般的な条件+αの条件提示をすることなのです。そうしておけば、新宿支店の条件に納得せずAさんが品川支店に相談に行っても、品川支店がそれ以上の条件になることはありませんから、少なくとも品川支店に融資を取られることはないのです。つまり、新宿支店の担当者としてはプラスαの条件提示をすることが最善の選択なのです。

評価する物件が給与振込先から遠隔地にある場合

<給与振込先はN銀行新宿支店、評価する物件は遠隔地・長野市(N銀行の最寄の支店は長野支店)>

では、物件が遠隔地(長野市)にある場合はどうでしょうか。

新宿支店に融資を申し込んでも新宿支店担当者は長野市まで物件の調査に行くことは基本的にできないでしょう。そのため、長野支店に調査の依頼をすることになります。

さて、新宿支店から物件の調査を依頼された長野支店ですが、調査だけでは長野支店の成績になるわけではありません。融資が成立したとしても新宿支店の成績ですから、依頼された調査を淡々とこなすことになります。

ここで長野支店が調査をしてくれるのであれば新宿支店であっても良いのではないかと思われるかもしれません。ところが、その淡々と行われる「調査」に問題があるのです。

実際の融資現場では、融資申込本人の信用の大きさ(専門用語では与信と言います)と物件の担保評価によって融資の条件、限度額が決まりますが、差がつきやすいのは物件の担保評価です。

実は、この物件の担保評価、一定の基準は決められているのですが、最終査定金額は立地や建物の状態などで変わってくるのです。
しかし、長野支店の成績とならない物件の調査で、あえて前向きな評価をする意味があるでしょうか。
積極的な評価をして、あとで何か問題があれば、評価をした担当者の責任も問われるでしょう。ですから調査は淡々と保守的な結論になる傾向があります。

逆に、長野支店への融資申込みの場合、融資成立は長野支店の成績になります。前向きの調査によって積極的な評価になる可能性が出てくるのです。

このように同じ銀行でも、融資を依頼する支店によって対応は違ってきます。どこを窓口にすればプラスαの融資条件を提示してもらえるのか、慎重に検討することが大切です。

 

※注 今回の例はすべての支店が、立地以外の条件が同一であることを前提としています。実際には融資担当者や支店の融資方針によって大きく異なります。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。

 

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