不動産投資コラム

不動産投資物件の査定、どんな仕組みで価格はどう決まる?

不動産投資物件を選ぶ際に「割高ではないか」という疑問を持つ投資家も多いでしょう。その判断の参考になるのが、査定価格です。収益物件の査定のしくみや価格の見極め方を考えます。

価格査定の基本は収益還元価格

中古市場で流通している不動産の価格査定には、表1のような3つの方法があります。居住用で一般的な「取引事例価格」以外に、一棟マンションやアパートの場合には、賃料収入などの収益をもとに算定する「収益還元価格」も使われます。

収益還元価格は、その物件の年間賃料収入を、「還元利回り」で割り戻すことで計算できます。

表1.収益物件の価格の種類と算出方法

収益還元価格(収益還元法) 年間賃料収入÷還元利回り
※還元利回り...エリアや物件ごとに投資家が期待する利回り
積算価格(原価積上法) 土地...路線価(+公示価格)
※必要に応じて取引事例価格も考慮
建物...再調達原価を築年に応じて減価償却
取引事例価格(取引事例比較法) 近隣の類似物件の成約事例を比較して調整



「還元利回り」は、実際に取引されている成約事例の平均利回りではなく、エリアや物件種別、築年ごとに想定されている割合で、「キャップレート」ともいいます。

たとえば、年間家賃収入が約1,000万円の一棟マンションだと、築年が新しければ4%で2億7,000万円、古ければ6%で1億8,000万円という具合です。

但し、実際の収益不動産の売り出し価格に、キャップレートを基にした査定額が採用されることはほとんどありません。マーケット動向や買い手・売り手の需給バランス等を良く見る必要があるからです。投資家心理を踏まえ、売主、買主が合意し、成約が予想される利回りでの査定額が採用されています。

収益還元法、キャップレートの考え方は、物件価格の妥当性を判断する方法として覚えておきましょう。

積算価格は、金融機関の対応を知るために算定

収益還元価格と併せて「積算価格(原価積上法)」も計算します。物件の担保力を評価するにあたって積算価格を重視する金融機関もあるからです。

積算価格は、土地と建物の原価を基にした考え方で、それぞれの価格を割り出して合計します。土地の評価は、金融機関の場合は路線価で行いますが、不動産会社の価格査定の場合には、より実勢価格に近い公示地価でも計算することが多いでしょう。

建物の評価は、現時点で同等のものを建てるのに必要と想定される「再調達原価」を、築年数に応じて減価償却したものです。現在の再調達原価は、RCの場合で1m2当たり20~25万円程度、木造で同約15万円程度が目安となります。

実は、収益還元価格と積算価格では、差が出ることが珍しくありません。特に極端な例示しました。

■収益還元価格と積算価格が乖離する例
ケースa)収益還元価格>積算価格
都心・準都心で土地が狭く、建物の築年が古い
還元利回り:8%(満室)
土地:面積=130m2、路線価=40万円/m2
建物:木造・築22年、ワンルーム10戸(1室6万円)
〇収益還元価格:年間賃料720万円÷8%=9,000万円
●積算価格:土地=5,200万円、建物=0、計5,200万円

ケースb)収益還元価格<積算価格
郊外で土地が広い
還元利回り:10%
土地:面積=1,000m2、路線価=10万円/m2
建物:木造・築10年、ワンルーム10戸(1室4万円)
〇収益還元価格:年間賃料480万円÷10%=4,800万円
●積算価格:土地=1億円、建物=1,000万円、計1億1,000万円

ケースaの例では、収益還元価格が9,000万円、積算価格が5,200万円と4,000万円近い差があります。こうしたケースで、積算価格を重視する金融機関からの借り入れでは、最高で5,200万円、実際には担保掛け目の調整が入り、4,000万から5,000万円の借り入れ可能額となるでしょう。

逆に郊外で土地面積が広大な物件では、積算価格が収益還元価格を大幅に上回ることもあります。1m2当たりの路線価は10万円と、都心部の数分の1しかなくても、土地面積が1000m2もあると、土地だけで積算価格は1億円を超えてしまいます。ケースbのアパートは、満室想定でも、収益還元価格が積算価格の半分以下に過ぎません。実際の稼働率に応じた収入で、必要経費を差し引いた純利益をベースに計算した場合、もっと低くなる恐れもあります。

収益還元価格と積算価格の両方を知った上で、総合的に判断する必要があるわけです。

投資物件の査定価格と売出価格のデリケートな関係

投資物件の価格を査定するためには、不動産市場や金融機関の融資姿勢に係る最新情報、現場調査の経験なども不可欠です。

また、売主が実際に売り出す価格は、必ずしも査定価格をそのまま反映しているとは限りません。査定価格を参考に、最終的には「どれくらいの利益が出るか」という売主自身の希望条件によって決まることが多いといえます。

「適正価格」は、購入者の目的と希望条件で変わる

投資物件の場合は、物件ごとの個別性が高いだけでなく、購入者の目的や価値基準が千差万別です。キャッシュフロー重視の資産形成が目的なら、利回りが重要でしょう。利回りを指標にする場合でも、何パーセントまでを「買い」と判断するかは、購入者によって分かれます。国内では、都心部でも表面利回り4%台が下限と一般には考えられています。しかし外国人投資家から見れば、2~3%台でも本国に比べると魅力があると映るようです。

また、相続税対策を目的とする購入者なら、利回りよりも相続税評価額の低減効果が重要になります。たとえ利回りが10%以上と高くても、評価額があまり下がらなければ購入する意味はありません。逆に利回りが4%以下と低くても、相続税評価額を大きく下げられる物件であれば購入する可能性があります。

購入目的に合致し、希望条件を満たしているなら、その人にとって、その物件の価格は適正といえるでしょう。

厳しい状況でも売主と価格交渉をする道はある?

不動産市況として、値下げ交渉が難しい状況であっても、「利益を出す」ことが目的の一般的な売主とは別の理由で売り出される物件もあります。「相続税の納税期限が迫っている」「法人が本業の資金繰りのために早期に現金化が必要」などの場合には、多少の価格交渉ができることがあります。たとえば、現金で即支払う、決済時期を相手に合わせる、瑕疵担保を免責するなど、売主にとってメリットになる条件を提示することによって譲歩を引き出せることがあります。

こうした交渉をするには、売却の理由を知る必要があります。それはインターネットで物件検索をしているだけでは判断できません。そのような物件の売主は、収益物件の売却実績がある不動産会社に、広告などはせずに売却することを求めるからです。こうした物件情報を豊富に持つ不動産会社を通じて物件探しをする必要があります。

結論として、収益物件の「適正価格」はいくらとはっきり言うことはできないということになります。また、居住用の不動産と比べて、その振れ幅も大きいといえます。査定価格の計算方法を知った上で、購入したい物件の売出価格について納得できる背景があるか、自分の購入目的や価値基準に合っているか、もちろん、情報収集と現場を見て決めるのが「正解」といえるでしょう。

宮澤 大樹
宮澤 大樹

宮澤 大樹野村不動産ソリューションズ株式会社 プライベートコンサルティング営業部

1998年から不動産業界に携わり、首都圏のマンション販売・投資用マンションの販売を経験。 その後、2005年より主に一棟マンション・ビル等の投資事業用不動産を中心とした仲介業務に従事。

 

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