不動産投資コラム

~事例紹介(9)~ 築古のビジネスホテルを収益物件として捉え直し、売却に成功

一口に「収益物件」と言っても、マンションやアパートとは限りません。最近では、都心はもちろん地方都市などでもホテルの需要が旺盛で、収益物件としてホテルが売買されています。

大きな国際イベントの開催や、政府主導の施策が不動産市場に与える影響は無視できません。今回は、こうした世の中の流れを掴み、古家付き土地から収益不動産に方針転換して、売却に成功したビジネスホテルの事例をご紹介します。

台東区に建つ築40年のビジネスホテル

今回ご紹介するのは、RC造・客室数55部屋のビジネスホテルの売却事例です。

ここ数年、都心ではホテルやホテル用地の売買が活発になってきていますが、最初にご相談いただいた2013年当時は、ホテルの売買が今ほど活発ではありませんでした。ご相談のきっかけは、「ホテルの売却を考えているお客様がいる」という金融機関からの紹介です。

売主様は、その金融機関から融資を受けており、所有するホテルを売却して返済に充てたいとのこと。詳しくお話を伺ってみると、ホテル経営がうまくいっていないこと、また、24時間・365日の営業で気が休まらないこともあり、ホテル業を廃業して別の事業を始めたいという意向をお持ちでした。

古家付き土地では買い手が見つからず、収益物件へ方針転換

お話を受け、私の方で売却の準備を進めることになったのですが、なかなかスムーズにはいきませんでした。2013年当時、建物は既に築35年と築古であったことと、売主様は売却と同時にホテル運営もやめたいとのご希望だったため、建物部分の資産価値を考慮しない土地(古家付き土地)として売り出しました。しかし、強気の価格設定だったこともあり、条件の折り合う買い手が現れなかったのです。

デベロッパーを中心に実に100社近くに営業しても売却先が見つからず、壁にぶつかっていたちょうどその頃、2020年のオリンピック開催地が東京に決まりました。すると、売主様から「オリンピック開催期間中の部屋を押さえてほしいという依頼が、もう来てるんだよね」というコメントが。また、訪日外国人旅行者数をさらに増加させる政策も、活発化していました。このような世の中の流れから、オリンピックに向けて都心のホテルニーズは増加すると確信しました。そこで、古家付き土地としての売却から、売主自らが借主となってホテル経営を続け、収益不動産として売却する方針へと、大きく舵を切ることを提案したのです。

将来の需要増を期待してホテル経営を継続

収益不動産として売却する方針を立てたものの、いくつか問題がありました。まず、売主様にホテル経営を続けてもらわなければなりません。難色を示されるかと思いましたが、売主様からは意外とあっさり了承が得られました。インバウンドなどによる需要増が期待できることを理解していただけたようです。また、廃業するとなると従業員に辞めてもらわなければなりませんが、売却後も経営を続けるのであれば、数年間の猶予が生まれます。もちろん、売主様の別事業への夢もあるので、営業はオリンピックが終了する2020年8月末までとし、賃貸借契約もそれまでの定期賃貸借とすることを提案しました。

費用負担を細かく決めて実質利回りを向上

さて、次に問題となるのが、賃料設定です。売主様にこれまでの収支表を提示していただきましたが、ホテル経営を知らないと、収支表の数字が適正なのかどうか判断できません。そこで、私は前職の人脈を活用しました。実は、私は不動産業界に入る前は、ホテルの営業マンをしており、当時一緒に仕事をしていた人々との付き合いが続いていました。彼らから、ホテルの経営として適正な家賃の割合などのアドバイスを得ながら、賃料の設定を行ったのです。

売却価格については、50前後の投資家資産管理会社にヒアリングを行い、設定した賃料から期待する利回りで逆算した価格を算出して決定しました。さらに、売主様と相談して、売主様(借主様)と、買主様(貸主様)のどちらが何の費用を負担するか、細かく決めていきました。通常、建物に関して売却後に発生する費用は貸主が負担しますが、運営に伴うホテル内の修繕や管理について、軽微なものから費用負担の大きいものまで売主様(借主様)負担としました。こうすることで、一般的な収益物件より表面利回りと実質利回りの差が少なくなります。買主から見て収支計画が立てやすい収益物件となりました。

資産会社へ売却が決まり、融資を一括返済

収益物件としてのさまざまな条件を整え、改めて40社前後の不動産会社や資産管理会社に打診しました。最終的に、弊社と以前からお付き合いのあった資産管理会社へ売却することが決まり、2014年に売買契約、引き渡しが完了しました。

この売却によって売主様は融資を一括返済され、新たな事業に投じる資金も得られたため、非常に喜んでいただけました。また、ホテル経営についても「これからしばらく頑張るよ」と、意欲的に語ってくださいました。実際、最近の経営状況をお聞きしたところ、部屋単価で約60%アップ、稼働率で約10%アップとなり、経営的には随分と改善されたそうです。

定期賃貸借の期限を一年残して再度売却

資産管理会社が所有者となって4年と少しを経た2019年、このホテルは改めて売却されることとなりました。売却は当初から想定されていたことでしたが、このタイミングになったことには理由があります。まず、都心の開発用地が不足しており、この時期であれば高値売却が見込めること、また、一年後には定期賃貸借の期限がくるため、収益が得られるのもそれまでと決まっていたからです。

売却にあたっては、他の仲介会社も興味を示していたようですが、現テナントである元売主様の事情もよく知っている弊社にと、お声をかけていただきました。私の方でも、近々売却されるだろうと予測していたので、購入していただけそうなデベロッパーを水面下で探しておくという準備はしていました。実際に話をしたところ、すぐに購入意思を示していただき、売買が成立しました。

売却条件として、2020年の8月末までは建物を維持してホテルの営業を続けることになっています。元の売主で現在は借主であるホテル経営者の方も、もともと売却の可能性は了承しており、定期賃貸契約書の条文にもそうした内容を入れていました。そのため、大家さんが変わるという印象だけで、特に抵抗感もなかったそうです。

売主様の利益を最大化することを心掛けて

同一物件の2回にわたる取引が成功した理由として、次のようなことが挙げられます。

<2014年の取引>

  • オリンピック開催、インバウンド需要など、世の中の流れを踏まえた提案ができた
  • 古家付き土地から収益物件への方針転換を行い、必要な環境を整えた
  • 賃料、売却価格の算定には、収支表のチェックのほか、各所へのヒアリングを行った
  • 売主様・買主様の費用負担を細かく決め、収益性を高めた

<2019年のお取引>

  • 近々売却されることを想定して、事前に買主候補を探していた
  • 定期賃貸借の期限が一年後であっため、主にデベロッパーを対象に声をかけた

私は、常に売主様の利益を最大化するよう心掛けています。そのためには、周囲の助力が欠かせません。実際、今回の事例でも前職の同僚に様々なアドバイスをもらいましたし、各所へのヒアリングも行いました。案件の情報を提供してくれる金融機関や士業の方々とのコミュニケーションも密に取るよう心掛けています。また、社内のメンバーにも、いつも助けられています。私たちのチームには実に多様なメンバーが揃っており、その多様な経験、ノウハウ、コネクションで、さまざまなお客様のさまざまなニーズに対応することが可能です。

不動産売却で、何かご不明な点やお困りのことがございましたら、是非一度お話をお聞かせください。

大島 秀仁
大島 秀仁

大島 秀仁野村の仲介+
御茶ノ水営業部 コンサルティング一課
専任課長

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