個人の購入者自らが居住する実需用不動産に比べ、法人が所有する不動産の中には、何らかの問題を抱えているものも少なくありません。このような物件の売却を成功に導くためには、知識や経験、コネクションなどを駆使した問題解決力が求められます。
多くの中小企業において経営者の高齢化が進み、後継者問題が発生しています。やむを得ず廃業せざるを得ない中小企業も多い昨今、この解決策として期待を寄せられているのがM&Aなどによる事業承継です。
今回は、この事業承継に伴い、様々な問題を抱えていた法人所有不動産の売却に成功した事例をご紹介します。
目次
築浅、法人所有の投資用ビル
今回は、法人が所有する一棟ビルの売却事例をご紹介します。
この物件は、5年前に都内で投資用として売り出された一棟ビルで、本業補完用の不動産として中堅企業が購入され、保有されていました。
この企業がM&Aによる売却を進めており、その過程で不動産を売却する必要が生じたオーナーから、当社へ売却相談があったのです。
M&Aプロジェクトと不動産売却の背景
景気の大きな流れの中で、最近は中小企業の経営悪化が顕著になってきています。特に、「倒産」よりも「休廃業・解散」の件数が多いのが特徴で、今回の売主様に当たる法人も、後継者問題を抱えながら、今後の取引減少が予測され、高値での事業売却が見込める今のうちに他社へ事業承継したいという意向がありました。
そのような背景で進められた法人売却でしたが、買収元との交渉過程で、本業と無関係で、しかも金融機関からの借り入れが残っていた投資用不動産の存在がクローズアップされることになりました。この不動産を売却することがM&A成立の条件となっていたのです。
厳しい売却条件
相談を受け、実際に物件を所有するオーナー企業の社長と話してみると、売却に当たっては、いくつかの条件があることが分かりました。
まず問題となったのがスケジュールです。法人の売却期限に合わせて不動産を売却しなければならないため、非常に短期間で売却先を見つけ、売買契約を締結および引き渡しまで完了することが求められました。
次に、売却希望価格です。株価評価の過程で本件不動産価格を外部評価機関に委託しており、その金額を基にM&A価格もまとまっていたため、最低でもその金額を超えることが売却価格の最低条件となりました。
様々な要因が重なり、売却先候補は限定的に
そもそもこの案件は、M&Aに絡んだ不動産売買のため、情報を公にすることができません。スケジュール的にもスピードが求められたため、事前に守秘義務契約の締結が可能な当社の既存取引先の不動産会社、中でもフットワークの軽い小規模な不動産会社に売却先候補は絞られました。また、諸事情があってその後の転売が困難な物件のため、自社で保有してもらうことも条件の一つでした。
さらに、権利関係の複雑な物件であったこともあり、通常であれば時間をかけて行う対応も短期間で対応せざる得ないため、私の方で関係各所に連絡を取り、売却に必要な書類を揃える必要がありました。
デメリットも隠さずに伝え、融資が付いた企業に売却決定
プロでも尻込みするようなイレギュラーな案件でしたが、売却先の候補となる会社には、不利な情報も含め、すべてを包み隠さず正直に伝えるよう努めました。万が一、売買契約が成立した後に、何か買主様に不利益を及ぼすような情報が発覚すれば、大問題になり、M&Aにも影響が生じます。そのため、売主様に何度もヒアリングを行い、知り得た全ての情報を事前にお伝えした上で、納得して購入していただく必要があったのです。
そのようにして、当社と取引のある不動産会社の中から十数社をピックアップして、リスクが高いことをお伝えしつつ、購入を打診したところ、3社が有望な売却先候補として浮上してきました。
この物件の魅力としては、都心の築浅物件であること、現状満室であり、賃貸ニーズは高いことなどが挙げられます。このような点を加味して当社でシミュレーションを行い、売却先候補の3社に対して、「この利回りで、このくらいの融資が通るのであれば、御社にもメリットがあります」という提案を行いました。当社の方であらかじめ融資条件の目安を示すことで、金融機関との交渉がスムーズに運ぶことを期待したのです。
その結果、3社のうち財務状況の良好な1社で無事に金融機関の融資がおり、その不動産会社が購入することに決定しました。スケジュール的にも、売却価格的にも、売主様の希望通りの取引が成立しました。
豊富な経験とコネクションで、問題を抱えた物件の売買でも成功に導く
今回の事例で取り上げた物件の売却が成功した理由として、次のようなことが挙げられると思います。
- 日頃から多様な顧客と取引があったため、条件に合致する売却先候補が見つかった
- 問題を抱えた「難あり物件」を扱う機会が多く、知識と経験が豊富にあった
- 買主様の視点に立ち、金融機関の融資シミュレーションを行った
- M&A絡みの案件では重要となる守秘義務のケアを徹底した
M&A絡みの案件が他の案件と大きく異なるのは、特に情報を慎重に扱う必要があることです。不動産売買の情報からM&Aが進行中であることが公になれば、M&A自体がとん挫することになりかねません。当然、買収先企業の従業員にも法人売却の計画を知られてはいけないため、不動産の売買も極秘裏に進める必要がありました。
また、今回の案件のように「難あり」と言えるような物件を扱うには、豊富な知識と経験、そして様々なコネクションが必要となってきます。特に今回は、厳しい条件を全て受け入れ、リスクの存在を承知の上で購入を決断できる優良な取引先とのコネクションが大きかったと言えます。
私の所属する日本橋営業部のコンサルティング一課では、金融機関や提携先からの紹介による収益物件、大型の土地、権利関係が複雑な物件など、売却を実現するには一工夫が必要な物件を多く取り扱っています。そのため、問題を抱えた物件の売買を相談されるケースも多く、今回の取引でも日々の業務を通じて培ってきた知識や経験が活かされたように思います。
現在、中小企業の事業承継問題は、社会的にも大きなトピックスとなっています。当社でも、事業承継をテーマにしたセミナーを開催するなど、お客様への情報提供に努めるとともに、関連する不動産売買のサポートを積極的に行っています。
特に、様々な問題を抱えた不動産は、高値売却だけに捉われると大きな事故に繋がりかねません。リスクとリターンをきちんと把握し、総合的な提案を行えるのが私たちの強みだと自負しています。
不動産売却で、何かご不明な点やお困りのことがございましたら、是非一度お話をお聞かせください。