今は低金利の時代です。1%以下の低金利で不動産購入資金の融資を受けている一方で、3%前後、さらにそれ以上の金利で融資を受けている人もいます。融資の金利は、人によって大きく違うわけです。今回は、どのようにしていけば銀行サイドからみて安全な人・会社と思われ、低金利の融資をうけることができるかのノウハウをお話ししたいと思います。
積算評価とキャッシュフロー重視のメリット・デメリット
私は総額で8億円ほどの融資を受けていますが、最も安い金利は0.4%台、平均で0.7%台の金利になっています。もちろん、私も最初から低金利での融資を受けられたわけではなく、3%くらいの融資から始まりました。何年も不動産賃貸業をしっかりやり続けた結果、現在の金利で融資を受けられるようになりました。
銀行によって違いはありますが、基本的にリスクの低い人は低金利、リスクの高い人は高金利です。都銀や地銀では融資が通らなくても、ある程度リスクをとって高めの金利で融資する銀行などもあります
第4回「不動産購入のための融資戦略」では初級編として金融機関と付き合うための基本的な心構えをお伝えしました。今回は中級者向けに、融資を低金利で受けるための具体的なノウハウとして、私が実践してきたことについて次の4つのポイントをお伝えします。
1)強力な確定申告書・決算書を用意する
2)競争原理を利用する
3)ドミナントでの投資をする
4)経営者として信頼される人間になる
1)強力な確定申告書・決算書を用意する
金融機関が融資を決定する際の最も重要な資料となるのが、事業の確定申告書・決算書です。これらが金融機関に対してアピールできる内容になっているかどうかが重要です。ここでは「強い」確定申告書・決算書にするための具体的なポイントを紹介します。
(ア)黒字にする
不動産賃貸業をやっているわけですから、個人であれば確定申告書、法人であれば決算書が黒字でなくてはなりません。これは最低条件です。
赤字になれば節税ができるという人もいますが、融資を受けて不動産賃貸業を拡大するのであれば、必ず確定申告や法人の決算書は黒字にしていかなくてはなりません。金融機関も赤字の個人や法人に対して融資をし続けることはなく、融資を受けられたとしても、その融資が低金利ということは絶対にありません。きちんと納税して黒字を継続することが最終的に低金利の融資の獲得につながります。
(イ)自己資本比率をあげる
不動産賃貸業は自己資金が少なくても金融機関から融資を受け、レバレッジをかけられることが大きなメリットです。しかしながら、拡大を急ぐあまりレバレッジをかけすぎると、自己資本比率が低くなってしまいます。逆に、現金で小型物件を購入し続ける人もいて、その場合は自己資本比率100%ですが、これは事業としての効率はとても悪くなります。
統計的に見てみると、リーマンショックなどの大きな社会変動が起きた時に、倒産する会社はレバレッジをかけすぎている会社で、倒産せずに会社を維持できるのは30%以上の自己資本がある会社である、ということがわかります。(図1参照)
図1:倒産・生存企業の自己資本比率
2018年「倒産企業の財務データ分析」調査(東京商工リサーチ、2019年2月15日付)より引用
融資を受けて不動産賃貸業をスタートする場合、当初は自己資本比率が低いでしょう。少しずつ頭金を入れて購入し、返済が進むことで自己資本比率は上がってきます。焦らず継続して返済していくことが将来の低金利の融資につながります。
(ウ) 返済比率
不動産賃貸業では家賃で得た収入から融資の返済を行います。【家賃-ローン返済額】が50%以下なら安心と誤解している人が少なからずいますが、ローンの返済以外にも支払うべきものはあります。固定資産税、個人なら所得税、法人なら法人税などの税金の支払い、さらに管理費や修繕費の支出もあります。それらを支払うと家賃収入に対して80%くらいになる人もいます。そのような返済比率では一向にお金も貯まりませんし、金利の上昇や何か大きなトラブルがあった場合に破綻してしまいます。
返済比率は少ないに越したことはありません。少なくとも固定資産税や管理費、さらに所得税や法人税を払っても50%以下にしていくことが、最終的な財務の健全化につながり、低金利融資につながります。
(エ) 債務償還年数
債務償還年数とは、金融機関が融資案件を審査する場合に重要視している融資先の返済能力をみる財務指標です。債務償還年数の計算式は以下のようになります。
債務償還年数 =(有利子負債合計 - 運転資金)/(経常利益 + 減価償却額)
一般的には10年くらいになるのが優良企業ですが、不動産賃貸業の場合は15~20年くらいで優良といえるでしょう。最大でも30年以下に保つようなバランスになっていない場合は、利益の割には借り入れが多すぎると見られます。
2)競争原理を利用する
銀行も株式会社ですから、競争社会にいます。いかに多くの融資をして金利を稼ぐかを考えているわけです。もちろん、返済される見込みが低い個人や会社には融資をしませんが、安全な融資先には競って融資したがります。そのため、銀行が多い都市のほうが競争は起きやすいです。地域的には大阪や札幌などはバンクオーバー状態ですので、融資は出やすいです。
いくつかの金融機関に融資案件を持ち込み、それぞれで条件提示を受けてみてください。複数の金融機関に案件を持ち込んでいるうちに低金利での融資提案や既存融資の低金利での借り換えの提案を受けられるようになります
3)ドミナントでの投資をする
「ドミナント」とは、地域を絞って集中的に出店する経営戦略のことで、不動産賃貸業では購入する物件のエリアを絞ることになります。金融機関は融資に際し、すでに所有している不動産についてどの程度の資産価値があり、それに対して、どの程度の借入金があるかを精査します。近隣の物件であれば、現地で物件の入居状況や維持管理状態を確認します。それによって、金融機関もプラス要因を見出し、融資を実行できるように力を尽くすことが可能になります。
しかし、遠隔地の物件は現地確認が難しいので、積算評価から掛け目を厳しく入れて評価することがあります。そのため、遠隔地の物件が多くなると、なかなか所有物件全体の評価が上がらず、低金利での融資は受けにくくなります。もちろん、積算評価価格を大きく下回る物件を持っているのであれば、遠隔地でも心配することはありません。
4)経営者として信頼される人間になる
確定申告や決算書などの財務関係の数字が優れていることはとても重要ですが、金融機関はその経営者の考え方・資質などもきちんと見ています。高い志を持って、真摯に事業に取り組んでいる姿勢が感じられるかどうかはとても重要なことです。多額のお金を融資するわけですから、信頼のおける方に貸したいのは間違いありません。私もよく支店長さんなどとお話をしますが、常に現在の状況や今後の取り組みなども話すようにしています。
また、金融機関と話すときに限ったことではありませんが、信頼される人間やリーダーとして優れている人間は、資料を用意する場合も話をする場合も、課題やトラブルに対してもどうやって自分は解決しようとしているかなど主体的に話をします。
たとえば悪い結果がでていたとしても、「このような計画でしたが、○○が原因でこの状態になってしまいました。」ではなく、「このような状態になったのは○○が原因ですが、○○のような対策をすることで正常な状態にしていこうと活動しています」という話し方になります。金融機関側もこの姿勢を見ているのです。
不動産賃貸業をきちんと運営して利益を上げ、優れた確定申告や決算書を作り上げるという定量的な側面はとても重要です。さらに、経営者の資質や行動力などといった定性的な評価も金融機関は重要視しています。それさえ身に付けて継続的に活動し続ければ、必ず低金利の融資を受けられるようになると思います。