不動産投資コラム

空き家と将来的な不動産市場への影響の検討 第二回 現在の「空き家」から発生する売却物件について

空き家と将来的な不動産市場への影響の検討 第二回 現在の「空き家」から発生する売却物件について

空き家には売買市場に影響を与えている数多くの売却物件がありますが、さらに現在は利用されていても将来は売却用の住宅となる予備軍も多々存在します。本章では現在の空き家が将来の売買市場に与える影響を検討します。

<サマリー>
・全国の「空き家」の売却用の住宅は、売りにだされているものが293千戸、潜在的な売却住宅が141千戸あると思われます。

・潜在的物件だけで年間の中古戸建・土地の販売数の56%の量となります。

・今後の空き家が増加傾向にあることもあり、地域によっては空き家による売り圧力が売買市場に大きなインパクトを与える可能性があります。

・集落の消滅も課題とされており、特に中部圏や四国圏でその傾向が強いと考えられます。

I.現在の売却物件の確認

総務省「住宅・土地統計調査」によれば、空き家のうち売却用の住宅(戸数ベース)は全国で293千戸、空き家のうち3.5%(下図赤太字部分)を占めるとされています。

II.現在の空き家の中の潜在的な売却物件数の検討

国交省の調査(回答者ベース)によると、「売却用」の区分以外で、今後の利用意向を「売却」と答えた回答数は、242となりました。その数は元々「売却用」であるとの回答数500に対し 48%となる大きな数値です。この結果より、今は売却用としていないが潜在的な売却物件として現在の売却物件の48%の量があると想定できますから、下記の通り算出することができます。

・潜在的な売却用の住宅:I「売却用の住宅」293千戸×48%=141千戸
・潜在的売却物件を含めた売却用の住宅:(293+141)千戸=434千戸

なお
・利用動向の中で「不詳」と回答した数も一定数あること
・「賃貸用住宅」の回答者は複数所有している可能性もあること※1
からさらに潜在的な売却物件は数多く存在する可能性があります。

※1:「賃貸用住宅」の回答者の平均所有棟数が1棟増加するごとに今後「売却」の数は11増加しますが、全体に占める割合が比較的小さい(増加11÷計242=4.5%)ため複数棟等所有していることを想定した場合分けはいたしません。

III.潜在的な売却物件が市場に与える影響

1.住宅等の販売量の確認
潜在的な空き家の売却物件が売買市場に与える影響を検討するにあたりまずは全体の市場規模を確認します。また空き家は更地のみの価値として売却されることも考えられるため、土地の市場規模も併せて確認したいと思います。

既存住宅販売量指数(国交省・所有権移転登記ベース)によると全国の既存戸建住宅(≒中古住宅)の販売量は年間約150千件※1とのことです。

また土地については、東日本不動産流通機構での戸建住宅と土地の販売比が概ね3:2であるデータ※2を活用し、年間100千件と想定しました。その結果既存住宅と土地の販売量合計を年間250千件と算出しました。

土地の販売量:150千件×2/3=100千件
既存住宅と土地の販売量:150千件+100千件=250千件

※1:なお単純に計算すると既存戸建はストックに対して年間1%以下、既存マンションは同じく2~3%の販売量となります(図表II-IV-1EF行参照)。
※2:東日本不動産流通機構へ未登録の契約も多々あるものと想定されるため、実数ではなく当該比率の採用に留めます。

2.潜在的な売却物件が市場に与える影響
i.潜在的な売り物件の影響
既にご説明したように空き家の中で潜在的な売り物件は141千戸、年間販売件数の既存住宅・土地250千件に対しては56%の比率と想定されます。単年で全て処分されるわけではないので、これらが5年かけて消化されるのであれば年間11%(56%÷5年)、10年であれば年間6%弱と、決して無視できない規模の売却希望物件の増加となります。

本レポートでは地域ごとの検討は行いませんが、全国平均より空き家率が高い地域は上記よりもより強いインパクトを受ける可能性があり、流通が滞れば地価の下落へとつながることが予想されます。

また今後の空き家自体の増加によりその傾向はより強くなると考えます。流通量の増加や購入需要量、それらに起因する価格の変化の程度も地域により異なると思われますが、長期にわたり売却物件の増加傾向が続くということが市場のコンセンサスとなってしまうと、大幅な価格下落傾向となる場所もあると思われます

ii.集落の消滅可能性
空き家の比率が一定以上となり、集落としての機能が維持できなくなればその消滅につながる可能性もあります。総務省の各集落へのアンケートにて行った令和2年の調査によれば、「10年以内に消滅」「いずれ消滅」と回答した集落は3,198件、全体の4.7%となりました。「当面存続」と回答した集落は86.1%、無回答が8.9%となりました。平成27年調査と比較して同様の傾向ですが10年以内に消滅が微減した他は数値の上昇がみられます。

人口減や少子高齢化が背景にあるのはいうまでもありませんがこのほかにも今後は地域のコンパクトシティ化や限られた地方公共団体の予算の中でインフラ更新の効率化や選別が進むと過疎化がより進む集落も発生すると考えます。

一方で廃村等となった地域全体が耕作放棄地等の課題を脱し大規模農地やエネルギー産業等住宅以外の別の用途に転換されることがあれば、空き家は解体されることとなり、結果空き家が増えたから空き家が減ることとなる可能性もあろうかと考えます。

ところで総務省のアンケートに対して無回答だった集落8.9%について検討したいと思います。

単に事務の都合があわなかっただけかもしれませんが、不都合な回答は発したくなかった可能性も否定できないと考えます。また「当面存続」の肢を選択できる集落は積極的に回答していることも考えられます。そのような意味でも「当面存続」の比率が低い地域にはより大きな課題があると考えます。

空き家問題は「点」としての人手不足を引き起こしますが消滅可能性集落は「地域一帯」としての課題となります。その深刻度は後者が大きくなりますが、「10年以内に消滅」「いずれ消滅」「当面存続」の状況から、総じて四国圏、中部圏は集落の消滅に他の圏域よりも課題を有していると考えられます。

住宅や地域サービス以外にも工場生産や介護・サービスを担う人材不足に直面する可能性がある地域となるため、その運営や引いては不動産の価値にまで影響が発生する可能性があると考えます。

<参考>戸数ベースの回答者ベースへの換算
総務省「住宅・土地統計調査」(I.章)の戸数ベースに対して、国交省「空き家・所有者実態調査」(II.章)は回答者ベースとなっています。回答者は複数棟、複数戸を所有している可能性があり、特に賃貸用の住宅に如実にあらわれると予測されます。

サンプリングの範囲や数を含めた双方の調査方法の違いにより必ずしも互いの調査母集団の類似性が限りなく高いとはいえませんが、ここでは賃貸用の住宅の数を合わせることにより、戸数ベースを回答者ベース≒棟数ベースに換算できるものと想定します。

その結果I.章で採用した「住宅・土地統計調査」に記載された現在の売却用の住宅の戸数ベースの比率3.5%(次頁図表II-参考2 赤字 ①部分)は棟数ベースで最大6.7%※1(次頁図表II-参考2 赤字 ②部分)と計算され、戸数ベースで受ける印象よりは大きな比率をしめるものと思われます。

なお下記図表II-参考1、参考2はこれらの算出過程を表にしていますが、各図表のd.二次的住宅とe.その他の住宅他の回答者≒棟数ベースの合計は、実態調査が82%(26.9%+55.1% 図表II-参考2 I列)、住宅・土地統計調査は89%(8.7%+80.0% 図表II-参考2 J列)となっており、両者とも80%を超える大きな比率となっています。差引き賃貸用と売却用はあわせても10~20%なので、社会的な空き家問題の本丸はd.二次的住宅他e.その他の住宅にあることになります。

※1:賃貸用の住宅の所有者の平均所有棟数を1と設定しております。実際には平均所有棟数は1より大きい可能性がありその場合には棟数ベースで売却が占める割合は6.7%より低位となります。下記(1)設定数値22の意義以下もご参照ください。

(1)回答者(棟数)ベースから戸数ベースへの換算
換算は、回答者数に乗じることで回答者ベースの賃貸用住宅の比率(4.6% 次頁図表II-参考1 赤字 ①部分)が戸数ベースの同比率(全体の51% 次頁図表II-参考1 赤字 ②部分)の近似値となる設定数値(分母も増えるため22と設定 次頁図表II-参考1 赤字 ③部分)を求め、実際にそれを乗じることで行いました。回答者ベースから戸数ベースへの換算は、賃貸用住宅の回答者数を22倍、他の数値は変更せずに行っています。

また設定数値22の意義は、
・賃貸用住宅の回答者(所有者)一人あたりの空き室=所有棟数×一棟あたりの空き室
ですが、上記の区分けにより本稿の論旨が変わるものではないことから各々の数値の設定は行っていません。賃貸用住宅の区分以外の回答者については、ほとんどが一人一棟のみの所有と想定し、出所に記載されたデータをそのまま採用しています。

(2)戸数ベースから回答者(棟数)ベースへの換算
戸数ベースから回答者ベースへの換算は、上記とは逆に賃貸用住宅の戸数÷22で求めています(図表II-参考2 ③参照)。

 

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