【問】 個人甲は、平成28年2月に母より家屋Aと宅地Bを相続しました。家屋Aは、甲の父が昭和55年に自宅として建築した一棟の建物で、宅地Bは家屋Aの建築の際に甲の父が購入したその敷地です。母は平成26年に父から相続により家屋Aと宅地Bを取得後、死亡直前まで一人で家屋Aに居住し、母の死亡後、甲は家屋Aをずっと空き家にしており、宅地Bも特に使用していませんでした。 甲は平成28年6月に家屋Aを取壊し、同年8月に宅地BをB1とB2に分筆の上、宅地B1を上場会社の(株)Xに対価6,000万円で譲渡しました。その譲渡について、租税特別措置法(措法)35条第3項の「相続した空き家の敷地を譲渡した場合の特別控除」(以下「本特例」)の適用要件を満たすことから、甲は平成28年分の所得税申告において本特例の適用を受け、譲渡所得の金額の計算上3,000万円を控除しました。 甲は宅地B1の譲渡後、宅地B2を特に使用しないまま所有していましたが、平成29年4月に(株)Xに対価5,000万円で譲渡しました。この宅地B2の譲渡により、甲の所得税の計算上、どのような問題が生じるのでしょうか。 |
【回答】
1. 結論
ご質問の場合、甲が平成29年に対価5,000万円で宅地Bの残地の譲渡を行うと、平成28年分の譲渡と平成29年分の譲渡に係る対価の合計が1億円を超えることから、本特例の適用を受けられなくなります。このため、甲は既に本特例を適用した平成28年分の所得税について平成29年の譲渡のあった日から4ヶ月以内に本特例を適用しない平成28年分の修正申告書を提出し、納付すべき所得税と復興特別所得税の合計額459万4,500円を納付することになります。
2. 理由
1.本特例の概要
相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたもの(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈(死因贈与を含む)により取得した個人(以下「居住用家屋取得相続人」)が、被相続人居住用家屋を取壊した後にその敷地を譲渡した場合は、一定の要件を満たすことにより本特例の適用を受けることができ、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できます(措法35条第3項2号、4項、措法施行令23条6項。)。
2.本特例の適用における、「譲渡対価が1億円を超えないこと」の要件
本特例の適用のためには、「その譲渡した資産(本問では宅地B)の譲渡対価が1億円を超えないこと」が要件の一つとされます(措法35条第3項)。この要件を満たすかどうかの判定においては、次の(1)~(3)の全てに該当することが必要です。
- (1)居住用家屋取得相続人(本問では甲)が本特例の適用対象となる資産(以下「対象資産」)を1回で譲渡する場合は、対価が1億円を超えないこと(同第3項)。
- (2)居住用家屋取得相続人が対象資産を1億円以下の対価で譲渡した場合でも、その年中に1回目の譲渡に係る対象資産と一体的に居住の用に供されていた他の対象資産を別途譲渡したときは、これら譲渡の対価の合計額が1億円を超えないこと(同第5項)。
- (3)居住用家屋取得相続人が対象資産を1億円以下の対価で譲渡した後、その譲渡の翌年以降3年目の年末(以下「制限期間」)までに、対象資産と一体的に居住の用に供されていた他の対象資産を別途譲渡したときは、1回目の譲渡の対価(1回目の譲渡をした年中に2回目の譲渡をした場合は、2回目の譲渡の対価も含む。)と制限期間内の全ての他の対象資産の譲渡の対価の合計額が1億円を超えないこと(同第6項)。
本問の場合、平成28年の宅地B1の譲渡と平成29年の宅地B2の譲渡は、これら譲渡の対価の合計額が1億円を超えることから、上記③の要件を満たすことができないので、甲は28年分の所得税の計算上、本特例の適用を受けることができない状態になります。
3.上記2(3)の要件を満たさないことにより特例の適用が受けられなくなる場合の修正申告
表題の場合、居住用家屋取得相続人(甲)は、その対価の合計額が1億円を超えることになった譲渡をした日から4ヶ月を経過する日までに、1回目の譲渡をした日の属する年分(本問では平成28年分)の所得税について、本特例を適用せずに計算した譲渡所得の金額による修正申告書を提出し、かつ、その期限内にその申告書の提出により納付すべき所得税額(甲の場合、3,000万円×15%=450万円)を納付する必要があり(措法35条第8項)、それにより復興特別所得税額(甲の場合、450万円×2.1%=9万4,500円)もあわせて納付する必要があります。