1. はじめに
組織再編成の当事者の組織再編成に係る法人税法上の行為又は計算の否認規定である法人税法132条の2の適用要件は、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たることです。
新聞などで大いに報道されたいわゆるヤフー事件の平成28年2月29日の最高裁判決で、上記の不当減少について「法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべき」だとしています。
つまり、「不当」とは(税制の)「濫用」だということです。そして、「濫用」性の判断は,「(1)当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、(2)税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当」としています。
2. 1の最高裁判決後の東京国税不服審判所の法人税法132条の2の適用に係る裁決事例(平28.7.7裁決)
表題の裁決の請求人(適格合併をした子会社の欠損金の引継ぎを否認された法人。上場企業である自動車部品メーカー)は、租税回避防止の観点から法人税法57条3項が定める親子間合併で繰越欠損金の引継ぎを制限なしで認める要件とされている「適格合併の日の属する事業年度の開始の日の5年前の日から継続して支配関係があること」を満たして欠損金を有する子会社を適格合併しましたが、同法第132条の2の規定を適用してその欠損金の引継ぎを否認する更正処分を受けました。
請求人は、同条は立法当時想定していないような租税回避行為に対して適用することが意図されたものであるという同条の立法趣旨に照らし、上記5年前の日から継続して支配関係がない場合は、支配関係が生じた事業年度より前の事業年度の欠損金の引継ぎは認めない、との内容の個別否認規定である同法57条3項により否認されない行為・計算は、立法当時想定していない租税回避行為ではないので、そのような行為・計算に同法第132条の2を適用することは許されない旨主張しました。
審判所は、要旨「同条は、組織再編成が、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから、組織再編成に係る租税回避を包括的に防止する規定として設けられたものであること、また、同条の規定上、同法第57条第3項によれば欠損金の引継ぎの制限を受けることにならない組織再編成に対して、同法第132条の2の適用から除外する規定も設けられていないことからすると、被合併法人の欠損金の引継ぎの個別否認規定である同法第57条第3項による否認(引継ぎ制限)を受けない、適格合併の日の属する事業年度の開始の日の5年前の日から継続して支配関係がある場合の適格合併についても、それが租税回避の手段として濫用するものであれば、同法第132条の2の規定の適用は認められる」としました。同法132条の2は、個別否認規定に該当しない(それで否認されない)行為・計算に対しても網を掛けるものだ、ということです。
3. 審判所の「不当」性(「濫用」性)の判断
審判所は、請求人の子会社の適格合併とそれに関わる一連の行為による法的・経済的効果の実体(ここでは詳細は割愛します) を観察し、1の最高裁の判示を踏まえ、まず、「本件合併には、被合併法人の権利義務を承継するといった通常想定される合併の実質が備わっておらず、実態とはかい離した形式を作出する不自然なものというべきである」などと判断しました。
そして、本件合併とそれに関わる一連の行為は、「組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであり、同法第57条第2項(適格合併等の場合に原則として合併法人等の欠損金の引継ぎを認める旨を規定)の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるものであって、当該規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、同法第132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当する」と判断しました。