1.農地等の相続税の納税猶予及び免除制度の概要
農地等の相続税の納税猶予及び免除制度は、農地等の贈与税の同制度とともに、農業の後継者の税負担を大きく軽減し、農地等の細分化を防ぎ、その後継者が安心して農業経営を続けていけるようにすることを狙いとした相続税の特例(租特法70の6)です。
すなわち、①農業を営んでいた被相続人から、②農地等を相続や遺贈により取得した相続人で、相続税の申告書の提出期限までにその農地等で農業経営を開始し、その後引き続き当該農業経営を行うと認められるとして農業委員会の証明を受けた人(農業相続人)が、その農地等で農業を営む場合に、③一定の手続きを履行することを条件に、〈その取得した農地等の通常の評価額-それよりかなり低い農業投資価格による評価額〉の残額に対応する相続税額につき、農業相続人が死亡する日等の一定の納税猶予期限まで納税が猶予されます。
また、一定の手続き要件等を満たすことで納税猶予の期限が到来した税額の免除も受けられます。
2.相続した農地等を誰かに貸し付けた場合
農業相続人が相続で取得した農地等を誰かに貸し付けると、その農業相続人自身は農業経営を廃止したことになるので、原則として納税猶予が終了し、猶予中の税額の納付を求められることになります。しかし、その貸付けが一定の法制度に基づく他の農業経営者に対するものであるなどの場合は、特例的に農業経営を廃止していないとみなされ、納税猶予は継続されます。
農業経営を廃止していないとみなされる貸付けのうち主なものは、平成30年度税制改正前は次の3つ(同法70条の6の2①)でした。生産緑地の農地(以下、生産緑地といいます)は市街化区域にあるので、そもそもそれらの対象外ですから、生産緑地の貸付けをすると納税猶予の終了に繋がることになっていました。
(1)農地中間管理事業の推進に係る法律の規定による、いわゆる農地バンクを通じた貸付け。
(2)農業経営基盤強化促進法の規定する農地利用円滑化事業の一つとして、その事業を行う市町村・農協等が、農地等の所有者の委任を受けて行う貸付け。
(3)(2)の法律の規定する利用権設定等促進事業の一つとして、その事業を行う市町村が、農地等の所有者とそれを借りたい他の農業経営者の同意を受けて農用地利用集積計画を作成し、その計画に則って行う貸付け。
3.農地等の貸付けに係る新たな特例的取り扱いの創設
平成30年度税制改正により、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」(*)が今年の6月に成立したことなどを前提に、農業経営の廃止に当たらない、すなわち納税猶予が継続できる生産緑地を含む農地等の貸付けが新たに認められることになりました(同法70の6の4の新設)。
すなわち、農地等の相続税の納税猶予を適用している人が、その適用対象の農地等の全部又は一部について、「認定都市農地貸付け」又は「農園用地貸付け」を行って、これらの貸付けを行った日から二カ月以内に、一定の内容の記載をした届出書を納税地の税務署長に提出した場合は、これらの貸付けはなかったものと、農業経営を廃止していないものとみなされ、納税猶予も継続されます。この改正が適用される農地等は、*の法律の施行日(今年の9月1日)以後の相続により取得したものであり、それより前に取得したものには適用されません(改正法附則)。
ここで、「認定都市農地貸付け」とは、賃借権又は使用貸借による貸し付けで、*が定める「認定事業計画」に従って行われるものです。「認定事業計画」とは、都市農地=生産緑地を対象に、その賃貸借等をしようとする者(借り手)が市町村に耕作に関する計画(「事業計画」)を作成し、これをその農地の所在地の市町村に提出しその認定を受けるものです。
その認定を受けるためには、都市農地の耕作・利用の内容が、都市農業の有する機能の発揮に有効なものとして農林水産省令で定める基準に適合しているかなどのいくつかの認定基準に適合していることが必要で、申請を受けた市町村が審査し認定の可否を決定します。
「農園用地貸付け」とは、農地をいわゆる市民農園(相当数の者が定型的な利用料を払って、営利を目的としない農作物の栽培をするなどの要件を満たす農園)として利用するために、納税猶予の適用者が直接、又は、市町村や農協などを通じて又貸しをするもの(3類型)ですが、その農地の立地、規模、貸付けの条件等が上記市民農園としてふさわしいか市町村の農業委員会から特定農地貸付法上の承認を得ることなどが必要です。この貸付けは、農地であればよいので生産緑地であっても利用可能です。