1.はじめに
消費税の課税標準(税率が乗じられる価額)である「課税資産の譲渡等の対価の額」(消法 28 条①項)と、仕入れに係る消費税額の控除の計算の基礎になる「課税仕入れに係る支払対価の額」(同法 30 条①⑥。但しこちらは税込み)は表裏一体です。そして、それらはその時価とされているのではなく、取引の当事者間で授受することとした対価の額(対価として収受し又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外のモノの経済的な利益の額)です。
したがって、消費税法においては、法人税法と違い、時価と乖離した対価であっても時価に直して税額を計算することはしません。しかし、消費税法上、建物と土地を一括して同時に譲渡する場合、その全体の譲渡対価として合意した価額を土地と建物への割り振る場面では、それぞれの時価が必要になる場合があります。
それを規定しているのが下記2の政令の条項です。建物の譲渡は消費税の課税対象となる一方で、土地の譲渡は非課税とされるので、その割り振りによって、その建物と土地の譲渡に係る消費税額が違ってきます。
2.消費税法施行令第45条第3項の定め
事業者が消費税が課税される建物と非課税とされる土地を同一の者に対して同時に譲渡した場合、表題の条項は、これらの資産の譲渡の対価の額が建物の譲渡の対価の額と土地の譲渡の対価の額とに合理的に区分されていないときは、その建物の譲渡に係る消費税の課税標準は、土地と建物を合わせた全体の譲渡対価に、これらの資産の譲渡の時におけるその建物の価額とその土地の価額(いずれも時価)との合計額のうちに課税資産である建物の価額の占める割合を乗じて計算した金額とすると定めています。
つまり、契約書で建物と土地の対価の額が合理的に区分されていれば、その区分された対価の額の通り(建物についてのみ)消費税を計算すればよいのですが、その区分が合理的と認められない場合は、上記の通り時価の比率で按分するということです。
3.建物と土地の価額が合理的に区分されているかを判断するための実務上の判断法
事業者が建物と土地を同時に譲渡する場合、その契約書に消費税額を明記することが通例でしょうから、契約書上で、建物と土地の価額が把握できない事例は少ないでしょう。
そうすると、上記政令45条3項に関して、契約書で明らかにされているそれぞれの譲渡対価の額の区分が不合理でないならば、消費税額を計算するために税率を乗じる建物の対価の額もその契約書上の区分によることとなりますが、契約書上の対価の区分の合理性についての判断は必要です。
その判断のために実務上比較的容易に実行でき一定の合理性も認められる方法が課税当局と納税者の間で共有されていることは双方にとって有益と思われるところ、その代表的な方法が建物と土地の固定資産税評価額の比で按分した結果と契約書上の区分を比較してみるという方法です。
固定資産税評価額は通常の意味での時価とは違いますが、同評価額は、土地と建物のそれの算出機関(市町村)と算出時期が同一であり、建物と土地の固定資産税評価額は、いずれも同一時期の時価を反映していると認められます。
よって、その比率は、通常の意味での時価の比率に近いものになると推認され、通常の意味の時価を把握するための労力とコストを考慮すると、固定資産税評価額の比で按分する方法には一定の合理性があると考えられます。よって、この方法は、法人税や所得税で対価の区分が問題となった裁判等でも採用されています。
また、固定資産税評価額の比に代え、相続税評価額の比で按分した結果を採用することも同等程度に合理的と思われます。すなわち、固定資産税評価額の評価替えは3年ごとであるのに対し、土地の相続税評価額は毎年改定されるので、土地の同評価額はその時の実勢価額を反映し、建物の評価額は固定資産税評価額となりますが、相続税法における評価ではそれを建物の時価とみており、また、建物の価額は比較的安定しているということを前提とすれば、相続税評価額の比による方がよいという考え方もあって、実際に税務の裁判等で採用されることもあります。
なお、それらによって区分してみた結果と契約書上の対価の区分に差があっても、その差が通常のばらつきの範囲内である場合や個別事情に基づく合理的な理由があると認められる場合は、契約書上の区分がそのまま認められるべきでしょう。