不動産投資コラム

「立地も良い、利回りも良い、入居率もよい、担保価値もある」となれば「よし、投資しよう」と考えるのも無理のないことです。
私もせっかちな性格なので、つい「すぐ買い付けを出そう」と考えることもあります。でも、不動産投資ではここで一呼吸おくことが大切なのです。
立地はメーター、利回り、入居率は%、担保価値は円という数字で表されます。つまり、すべて数字ですね。為替や債権の投資なら数字だけで十分ですが、不動産投資は土地、建物という現物に投資するのですから数字だけでは見えない部分が大きいのです。特に建物の造り、現在の状態は実際に見てみなければわからないものです。
そこで、今回は建物の種類とチェックポイントを構造別にお話します。

賃貸物件には様々な構造がある

賃貸物件には様々な構造があります。主に次の4つです。
 
 木造鉄骨造鉄筋コンクリート(RC)造鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造

 これを詳しく分けると

 木造 ・・・ 軸組工法(在来工法)、枠組壁式工法(2×4工法)
 
 鉄骨造 ・・・ 軽量鉄骨造、重量鉄骨造
 
 鉄筋コンクリート ・・・ 壁式構造、ラーメン構造
 
 鉄骨鉄筋コンクリート造
 
となります。

木造のチェックポイント

木造には日本の伝統的な木造建築方法の軸組工法と2×4工法などの壁式工法があります。
新築住宅の建築現場で最初は柱、梁と屋根だけが出来ている状態を見かけることも多いと思いますが、その大半は、この軸組工法です。
壁式工法は壁で建物を支えていますが、中古物件の場合、その強度が維持されているかどうかが一番のポイントです。
しかし、構造部は外から見ることができませんので、できる範囲でのチェックポイントをお話します。

基礎部分

これは木造に限ったことではありませんが建物を支える基礎の部分に注目してください。一般的に基礎は地面から100~200mm程度露出し、基礎の上に土台の材木が設置され、建物が造られています。
この露出した基礎の部分は見ることができますので、その部分に注目し、表面の状態を見ながら一周回ってみてください。

その際、気をつける点はクラック(ひび割れ)です。コンクリートは微細なクラックは発生しますので、髪の毛程度のものであればあまり気にする必要はありません。

しかし、爪が入るほどのクラックがあれば要注意、その隙間から水が浸入し、中の鉄筋が錆びている場合があります。錆びが進行していれば基礎は強度不足になっていますので危険な建物の可能性があります。

柱、梁

これは外からは見ることができませんので、周りの状況から推定することになります。そのポイントは水とシロアリです。

木造で、一番建物にダメージを与えるのは水の浸入です。水が繰り返し柱や梁にかかってしまうと柱が腐ってしまいます。 また適度な湿気はシロアリの棲家として最適です。柱や梁がダメージを受けてしまえば、耐用年数は極端に短くなってしまいますね。シロアリが入居していても、家賃は入りませんので注意が必要です。

実際にチェックするには床下に入って土台や柱の状態を見るのが一番なのですが、これは素人には難しいですし、所有者の協力も必要です。実際には空室があった場合にその部屋を見せてもらえる程度でしょう。

その際には部屋の中だけを見るのではなく、できればその裏、具体的には天井裏を覗けると異常が発見できることがあります。たとえば、その部屋がユニットバスであれば、ユニットバスの天井が点検口になっている場合があります。
ちょっとずらして天井裏を覗くことができれば梁を実際に見ることができるでしょう。また柱と梁の接合部の状態、断熱材の有無など水以外にも様々な情報を得ることができます。

また天井裏を見れなくても、湿気、カビ臭、天井の状態(染み)などをチェックすることはできます。何か気になることがあったら納得がいくまで調べ、場合によっては建築士などに調査してもらうことも必要です。

建物外観

基礎部分、柱、梁に問題がないと判断したら外観(外壁、屋根)を見てみましょう。一般的に木造の外壁はサイディング(金属やセラミック、セメントなどの素材を板状にしたもの)が貼られています。
表面には塗装が施されているのですが、この塗装は15年程度で劣化しますので再塗装が必要となります。すぐに再塗装が必要かどうかの判断は、実際に壁を手で触ってみることでわかります。

チョークの粉のようなものが手についてきたら、これはブルーミング現象を起こしています。この状態の場合はすぐに塗装が必要になりますので、購入価格+建物塗装代金が投資総額になると考えておく必要があります。

屋根は登って触るわけにもいきませんので、遠くから目視するだけになってしまいます。
一般的にはカラーベストが多く使われています。30年以上の耐久性があると言われていますので、あまり神経質になることはないと思われますが、外観が損なわれると物件のイメージに大きく影響してしまいますので外壁塗装の際は同時に塗装する必要があると考えてください。

鉄骨造のチェックポイント

鉄骨造には大手ハウスメーカーのアパートに多用される軽量鉄骨造とマンションなどに使われる鉄骨(重量鉄骨)造があり、鉄骨の厚み(6mm以下が軽量鉄骨、以上が重量鉄骨)によって区別されています。

基礎部分

クラックなどのチェック方法は木造と同じですが、鉄骨の場合は基礎のコンクリートと鉄骨の柱をつなぐアンカーボルトの状態を確認したいところです。

しかし、一般的には耐火被服によって鉄骨の柱周辺は囲われていますので見ることは困難です。そこで鉄骨の場合は「錆」に注意し、基礎の周辺部分に赤茶けた錆のあと「錆汁」の痕跡が残っていないかをチェックします。
もし、柱を中心に錆汁が大きく広がっていましたら専門家に判断を仰ぐことが必要でしょう。

柱、梁

一階がピロティー(駐車場など)になっていれば鉄骨の表面を見ることができますので、錆に注意して見てみましょう。塗装が剥げ落ち、錆が見えている場合には、その侵食具合を見ます。
表面だけで地金に影響が無ければさびを落とし錆止めを塗れば問題はありません。錆が見えなくても、塗装が膨らんでいる部分があれば、その下で錆が進行しているかもしれませんので注意が必要です。

ハウスメーカーの軽量鉄骨の場合、使用されている鉄骨は強力な防錆処理がされている場合がほとんどですのであまり心配する必要はないと思いますが、風呂、台所まわりについてはどうしても湿気の進入が予想されますので、木造の場合と同じくユニットバスの点検口から柱、梁の状態を見ることが有効です。

建物外観

鉄骨の場合も木造と同様に壁にサイディングを使っているものが多いと思いますが、他にALC(軽量気泡コンクリート)などを使ったものもあります。

ALCは、コンクリートがスポンジ状になっていますので、素地のままでは吸水性があるため表面を塗装してありますが、経年変化により塗装皮膜が劣化してくると、中に水が浸透してしまい、強度にも影響する危険性がありますので、特にALC外壁で塗装のメンテナンスがされていないものは注意が必要です。

鉄筋コンクリート(RC)鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)のチェックポイント

RCは鉄のもつ引張り強さとコンクリートの持つ圧縮強さという長所を生かし、コンクリートに鉄筋を組み合わせることによって成り立つ構造です。さらに鉄筋の芯部に鉄骨を利用したものがSRCであり、RC以上に強度を向上させることができます。

RCには2種類あり、柱や梁によって建物の強度を維持しているラーメン構造と壁や床によって支える壁式構造のふたつがあります。
どちらにも一長一短がありますが、とりあえず、RCといっても二つの構造があることは憶えておきましょう。

基礎部分 柱 床

RC、SRCとも、まず見るべきところは壁と床です。木造の基礎の部分と同様に表面のクラックの状態を見ます。水が染み込んでしまうほどのクラックを見つけたら要注意、壁や床の中に水が入り、中の鉄筋が錆びている可能性があります。

水が入ってしまっているかどうかはクラックだけでなく、一部分に石灰が溶け出したような粉の後が見られたり(エフロエッセンス)表面が盛り上がったり、裂けて茶色く変色していたら(膨爆)間違いなく水がコンクリート内部に入っている証拠です。

しかし、中古物件でクラックもエフロエッセンスも膨爆もまったくない物件を見つけるのは難しいでしょう。

なんらかの問題は発生していると考え、その状態が構造上深刻な影響を与えているのかどうか、またエポキシ樹脂を注入するなどでリカバリーが可能かどうかを判断することが必要です。

建物外観

一般的に外壁はタイル張り、塗装(吹付タイルと言います)、コンクリート打ちっぱなし(表面防水処理)の3種類が大半です。

タイル張りの場合はタイルが剥がれていないか、また剥がれていなくても浮きがないかをチェックします。剥がれは一箇所数個程度でしたらタイル施工時の問題と思われ、補修すれば良いと思われますが、広い面積が剥がれている場合にはタイル施工時のミスではなく建物の構造的なひずみによって剥がれている可能性もありますので、専門家の調査が必須です。

塗装、コンクリート打ちっぱなしの場合はチョーキングなどの劣化の度合いを見て判断します。特に打ちっぱなしは防水が切れ、中に水分が浸透し汚れている場合はその上から防水処理をしても汚れは消えませんので塗装を施すなどの対応が必要になります。

RC、SRCで特に注意する点 給排水経路のチェック

RC、SRCで特に築年数の古い物件の場合、給・排水管が埋め込まれているケースがあります。 特に排水管が埋め込まれている場合は、その管からの漏水で建物が大きなダメージを受けている場合があります。

また目詰まりなどで最悪の場合は使用不可能になれば、すべて排水経路を作り直さなければなりません。この場合は多大な費用が発生します。とりあえずは問題なくても時限爆弾を抱えているようなものかもしれませんので注意が必要です。

 

以上、大雑把ですが、建物を見る際の注意点をお話しました。 しかし、今回お話した内容以外にも100%大丈夫であると言い切るには様々な箇所をチェックする必要があり、実際にはチェック不可能でしょう。

中古物件を購入する場合は、建物に多少の問題はあることは当たり前だと考える必要があります。

そのうえで、その問題はリカバリー可能かどうか、可能であればどのくらいの費用がかかるのかを知り、その費用も含んだ上で投資総額が適切なのかどうかを考えることが大切です。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。
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