不動産投資コラム

前回、実際の建物の状態からみた注意点をお話しました。
今回は建物に瑕疵がなく良好な状態を前提とし、代表的な構造である木造、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)についての特徴を考えてみましょう。

建物の寿命について

木造22年/鉄骨造34年/RC造47年
これが税法上に定められた耐用年数であり、減価償却はこの年数に基づき計算されます。

しかし、築30年、40年の木造住宅にお住みの方もたくさんいますし、関東大震災後1920年後半に建てられたRC造の同潤会アパートも一部現存しています。

その一方で2003年に日本建築学会に発表された「竣工記録に基づいた事務所建物の寿命調査」によると50%残存率(建物の半分が取り壊される年数)は、RC造で39.68年、鉄骨造で34.41年になっており、実際には税法上の耐用年数以下でも取り壊される建物も多くあります。
しかし、これは経済的な観点から解体されているものが大半であり、寿命で取り壊したということではないのです。

この「建物の寿命が来ていないのに取り壊された」理由を私なりに推測すると、今ある建物の物理的な寿命はまだあるが、建物の用途としては、経済的観点から見て、現状のままで運用するよりも建て替えたほうが合理的と判断されたからだと思います。

物理的には木造より鉄骨造、鉄骨造より RC造のほうが寿命は長いと推測されますが「具体的に寿命はあと何年あるか」を予測するのは困難です。

不動産投資はもちろん経済的な観点から行うものですから、たとえば「築30年の木造ならまだ入居者は見つかるが、築50年の木造で果たして入居者を確保することができるのだろうか」のように考え、その建物の経済的な寿命を判断し、賃貸物件として「商品価値のある期間」と「物理的な寿命」を総合して考えることが必要です。

これは私見ですが、今現在、建物に大きな問題がなく運用されている中古物件であれば、経済的な寿命が物理的な寿命より早く到達するのではないかと私は考えています。
であれば、築年数こだわるのではなく、購入後にどのようなメンテナンスが必要で、そのターム、費用はどのくらいかかるのかを検討することのほうが大切なのではないでしょうか。

構造ごとのメンテナンスのターム

では、実際に物件を購入したとして、その後に必要になるメンテナンスとタームについてお話します。

●木造

木造で必要になるのは、外壁と屋根のメンテナンス、具体的には定期的な塗装工事が必要となります。

一般的には15年から20年に一度のタームで外壁、屋根ともに行いますが、塗装の状態は個別に違いますのでブルーミングの状態(触ってチョークの粉のようなものが手についたら塗装が必要です)、また壁と壁とのつなぎ目のコーキングの状態(爪で押して弾力性がなければ寿命です)を見て個別に判断します。

●鉄骨造

外壁については木造と同様ですが、鉄骨造の場合はむき出しになっている鉄骨部分の塗装の剥がれや錆がある場合は、経過年数に関わらずすぐに部分補修することが必要です。

その際、素人のDIYによる補修は禁物。専門業者に錆の有無を確認し、適切な防錆処理を施してもらう必要があります。

●RC造

塗装外壁の場合は木造と変わりません。ただし、RC造の塗装皮膜は木造に比べ厚く塗布してあることが多く(建築業界ではタイルを使っていないのですが「吹きつけタイル」と呼んでいます)、表面の劣化は遅い傾向ですので、状態がよければ20年~25年くらいのタームでも問題はないと思われます。

ただし、塗装表面の劣化が進んでいなくともクラックが入っている場合には、その隙間からコンクリート表面へ水が浸透する可能性もありますので、ブルーミングだけでなくクラックには注意を払う必要があります。

また、タイル張りのものも良く見られます。タイル張りの場合はまず、建物全体を見渡し、剥がれがないか探します。

数個程度の剥がれでも、その周辺のタイルの接着が弱くなっている可能性がありますので、金属の棒などで軽く叩いてみます。剥がれる可能性がある部分は周辺と音の違いがありますので、どこまで補修が必要かを判断することができます。

また大きく剥がれている箇所があるときは、単純にタイルの接着が原因の場合と、建物の構造、もしくは躯体の施工に問題があり、ひずみによって剥がれている場合の二つの可能性が考えられます。 後者の場合、その建物には大きな瑕疵があると判断されますので、建物のゆがみを測量などで検査してもらう必要があります。

近年はタイルの接着剤の性能が向上していますので、築10年程度でタイルが剥がれることは稀になってきています。

もし、築浅物件でタイルが剥がれているものがあったら、慎重に対処する必要があるでしょう。

タイル壁は剥がれもなく、接着状態も良好と判断される場合、表面の汚れ除去と伸縮目地のメンテナンス程度で良好な状態を長く持続できます。
状態の良いタイル張り物件は価値のある建物と判断されます。

屋上防水について

木造ではほとんど見られませんが、鉄骨造、RC造の屋根は平屋根で歩行可能な屋上となっている場合が多いでしょう。
屋上は当たり前ですが、建物の屋根となっていますので、素人でも簡単に状態を確認でき、問題点の発見も容易です。

一般的にはゴムシートを敷き詰め、シートの間をシーリングし表面をゴムシートの保護のために専用の塗料を塗布した仕上がりとなったものや、防水層としてアスファルトを利用したアスファルト防水などがあります。
ここでは、素人でも比較的判断が容易なシート防水についてお話します。

シート防水でのチェックポイントはシート同士の隙間がしっかりシールされているか、シートの破れ、剥がれがないか、塗料の皮膜が薄くなっている部分がないかなどです。

特にシートの破れ、剥がれは雨漏りに直結しますので発見したらとりあえず補修テープなどで応急処置をし、専門業者と相談する必要があります。

状態によっては部分的なゴムシートの張替が必要になる場合もあります。屋上は、こまめにチェックし問題を発見次第、補修していくことによって小修繕で良好な状態を保つことができます。

オーナーの心がけ次第でメンテナンスコストに大きく差が出る部分になります。

エレベータ保守点検について

鉄骨造、RC造の中高層物件にはエレベータがついているものも多いでしょう。エレベータは人命がかかっていますので、その保守点検には最大限の注意を払う必要があります。

エレベータの保守点検は専門の業者と契約を結ぶのですが、その契約方式は2種類あります。

<POG契約>

ショートパーツ(Parts)、オイル(Oil)、グリース(Grease)等の消耗品は保守点検代に含まれるが、それ以外の部品と修理については実費負担となる保守点検契約

<FM(フルメンテナンス)契約>

すべてのメンテナンス費用、修理費用(部品代含む)一切を含む保守点検契約

このふたつに分かれるため、エレベータ付の中古物件を購入する際には、どちらの契約形態なのかを確認する必要があります。

もしPOG契約だった場合、将来エレベータに関して大規模な修繕が必要になると全額自己負担となってしまいます。
一方FM契約の場合は、その契約をそのまま引き継ぐことができれば、毎月の保守費用だけ支払っていれば大規模修繕となった場合でも追加の費用負担は免れることができます。

また、エレベータ自体の寿命は25年から30年といわれています。エレベータは毎日稼動するものですし、安全の観点からも重要です。
必要な時期に一定のコストはかかることを予め予測しておく必要があります。

このように構造によって、また設備によってメンテナンスのターム、費用に差が出てきます。

しかし賃貸物件は商品ですので、商品力としての魅力を別にして一概にコストがかからない構造のほうが良いとはかぎりません。

そこで、賃貸物件の商品力と建物の構造について考えてみましょう。

賃貸物件としての商品力と建物構造

入居者が物件を比較検討するとき、立地は別として建物として評価する点はどこでしょうか。設備が良い、間取りが良い、外観がきれいなど様々な点があります。

間取り、外観、設備などの変更は費用の問題を考えなければ対応は可能でしょう。これは賃貸経営を進めていくうえで総合的に検討していくべきことです。

しかし、物件の構造によってほぼ決まってしまう部分で、賃貸物件としての居住性に大きく影響するものに遮音性があります。そこで、この遮音性と建物構造の関係について考えてみましょう。

建物構造と遮音性

遮音は、外部の音の軽減と建物内部・各部屋間の音を遮断する性能のふたつに分かれます。

外部の音の侵入は外壁の厚みによるところが大きいため、木造で軽量のサイディング(外壁に使われる壁板)を使用しているものより、鉄筋コンクリートの壁で囲われたRC造のほうが遮音性は高くなります。※窓(サッシ)の遮音性能による影響も大きい

また、木造であっても、セメント系やセラミック系サイディングと吸音材、石膏ボードの組み合わせや外壁にALC(軽量気泡コンクリート)を使用するなどの工夫がされていれば、RC造に匹敵する遮音性能を得ることもできますが、賃貸アパートでそこまで工夫してある物件は少ないのが実情です。
鉄骨造についても、外壁材に何が使われているかによって性能に差が出てしまいますので、実際の仕様を確認する必要があります。

内部の音、具体的には隣戸の話し声やテレビの音が聞こえてこないか、また上の階の生活音、たとえばスリッパで歩く音、椅子を動かす音などが伝わってくるかどうかは、その構造によって大きく左右されます。

これも基本的にはRC造が有利だとされ、RC造の中でも壁面で建物を支える「壁式構造」は壁が厚くなるため隣戸との界壁の遮音性は高いと言われています。

しかし、RC造でなくても界壁に一定の防音対策がされている場合もありますので、"RC造でないから劣っている"ということではありません。建設当時の図面をみれば防音対策がされているかどうかがわかりますので、入手が可能であればぜひ依頼してみてください。

エレベータも賃貸物件としては魅力的

メンテナンスコストの点からは不利と思われるエレベータですが、今後の高齢化社会を考えるとプラスαとして魅力ある設備です。

今後、エレベータが無ければ一階にしか住むことができない人も多くなってくるのではないでしょうか。コストだけに捉われず、商品力からの評価も加えることが大切です。

将来の転用可能性について検討する

冒頭でもお話しましたが、建物の取り壊しは経済的な観点から解体されているものが大半であるという結果が出ています。

これは、裏を返せば「構造面で再生、変更が可能な建物であり、経済的にもそのような変更が合理的と判断できる物件」であれば、「建物の寿命が尽きるまでまだまだ使える」、つまり「まだまだ稼げる可能性」があるということです。

現在の不動産投資はインカム(家賃収入による利益)を狙い、そのために長期保有を前提と考えるべきでしょう。
そのためには、メンテナンスによって寿命を延ばすことができ、また将来の賃貸需要の変化にも対応できる「物件を見分ける選別力」をつけることが必要になるのではないでしょうか。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。

 

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