不動産投資コラム

一言で利回りといっても、表面利回り、実質利回りなどいろいろな計算方法があります。とはいえ、表面も実質も経費を差し引くかどうかの差でそれほど難しくはありません。しかし、それだけで利回りを「理解した」と思うのは危険なことです。本当に利回りを理解するためには長期の収支からの検討が必要になります。
そこで今回は、表面的に「見える利回り」と、最初は見えなくても一定期間経過後に見えてくるが今だけでは「見えない利回り」について考えてみましょう。

「見える利回り」「見えない利回り」とは何ぞや

不動産の広告を見ると、"表面利回り10%!"などと書いてあるものがよく見られます。この場合は管理費、固定資産税、火災保険などの経費を引かれる前の家賃を基準とし、満室を前提として計算されてるケースがほとんどです。

また実際の状況に合わせ経費分を控除して計算された利回りは、一般的に実質利回り(ネット利回り)と言われています。
もっと詳細に収支を検討する場合は、さらに入居率を考慮して算出した家賃収入で利回りを出す場合もあるでしょう。

入居率は将来の予測なので100%正しい値とは限りませんが、一定の精度で利回りを把握することができます。

ここまで計算すれば「正確な利回りが計算できた」と思われるかもしれません。確かに現時点でわかっている情報を集めて算出していますので、間違いではありません。

でも、これは「今見えている情報」から算出された「今見える利回り」です。この「見える利回り」だけで投資判断をするのは早計なのです。

では「見える利回り」ではなく「見えない利回り」とはなんでしょう。それは将来の売却(物件価格変動)を考慮した利回りのことです。

利回りと物件価格

物件価格が5,000万円で仮に家賃、経費、入居率などが正確にわかり、手元に入ってくる家賃収入(税引前)が400万円だとします。そうすると利回りは8%(400万円÷5,000万円)となります。これが「見える利回り」です。

さて、この物件を購入し10年間所有したとします。10年後、その間には建物も古くなり、その分耐用年数も短くなってきますので、家賃が下がらず入居率も変わらなかったとしても、物件価格は下がっていると考えられます。その価格が1,000万円下がって4,000万円だった場合、利回りはどう考えたら良いでしょうか。
物件価格が下がらなかった場合と比較して考えてみましょう。

<前提条件>
物件価格5,000万円 年間家賃収入400万円(利回り8%)
10年分の家賃収入合計4,000万円

(1)物件価格が下がらなかった場合に10年間の利回りはどうなるでしょうか。

『10年分の家賃収入』から『物件価格の値下がり』を引く(この場合値下がりはゼロ)と10年間に得られた家賃収入から物件の評価損を差し引くことになります。つまりこの値が10年間で得られた正味の収益ということになりますね。

このケースの場合は
『10年分の家賃収入4,000万円』-『物件価格の値下がり0円』=4,000万円です。
この4,000万円は10年間で得られた収益ですので10年間で割ると1年当り400万円(4,000万円÷10年)となります。
この400万円を購入価格5,000万円で割れば8%となりますので、当初見込まれた利回り8%がその通り実現しているということになります。

(2)次に物件価格が10年後5,000万円から4,000万円に下がった場合はどうなるでしょう。

『10年分の家賃収入4,000万円』-『物件価格の値下がり1,000万円』=3,000万円となります。実際に10年間に得られた家賃収入は4,000万円ですが、10年間の間に物件そのものの価値が1,000万円下がったのですから、この1,000万円は収入のマイナスとして捉える必要があるということです。

このため4,000万円ではなく3,000万円を10年間で得られた収益と考えます。この3,000万円を10年間で割ると1年当り300万円(3,000万円÷10年)となります。
この300万円を購入価格5,000万円で割れば6%となります。つまり当初見込まれた利回り8%は、家賃収入上は達成されていても物件価格自体が値下がりした場合には、その評価減を利回りに反映させると当初見えていた利回りより下がることもある、ということになります。

つまり、実際に「見える利回り」がどちらも8%であったとしても、その物件価格の違いによって「見えない利回り」は違ってくるということです。

実際には売却しなければ表面化しないものですし、この例では利回りは下がったとしてもプラスの利回りとなっていますので、長期に所有し続ける前提であれば大きな問題にはならないとも考えられます。しかし、次のケースとなると不動産投資をすること自体に疑問を感じます。

<前提条件>
物件購入価格5,000万円 年間家賃収入200万円(利回り4%)
10年間の家賃収入合計2,000万円で物件価格が5,000万円から4,000万円に下がった場合

(10年分の家賃収入2,000万円-物件価格の値下がり1,000万円)÷経過年数10年=100万円(1年当りの収益)
100万円(1年当りの収益)÷5,000万円(物件購入価格)=2%

この場合、毎年4%の利回りが得られているように見えても、物件価格の値下がりを利回りに反映させると、実際には2%の利回りにしかならないということです。

10年ものの国債利回りが1.4%程度であること、不動産投資のリスクをとっていることを考えれば、あまり良い投資であるとは言えないでしょう。

見えない利回りが投資の鍵

利回りと言っても、今「見える利回り」だけを考えて投資をするだけでは、その投資の良し悪しがわからないケースがあります。
とはいえ、「見えない利回り」を考えるためには、その物件の将来の価格を推測しなければなりません。これは今「見えている利回り」を計算することより非常に難しいことでもあります。

しかし、物件の立地や建物の構造と状況、また将来の需要動向などを勘案することによって、「見えない利回り」の輪郭を見えるようにすることはできるのではないでしょうか。

たとえば築年数の経過した一棟売物件で、価格の大半が土地評価分だとしたら、年数の経過に伴う建物の減価部分は相対的に小さくなります。そうすると、このような物件の将来の価格変動は、土地価格の変動とほぼ同様になるとも考えられますので、土地価格のみの変動幅を考えれば良いことになります。

また、賃貸需要が将来的にも安定している地域で入居率の良い築浅のRCマンションであれば、法定耐用年数が47年の長期間であるということも考慮すると、経年による建物の減価はあまり大きくないものと判断されるでしょう。

このように「将来のことはわからない」→「見えない利回りは推測できない」と考えるのではなく、将来予測を今の手がかりから捜していくことが大切なのです。"見えないものを見えるようにする推理力、洞察力で見えるようにすること"。これが不動産投資の醍醐味なのかもしれません。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。
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