不動産投資コラム

賃貸物件と地震のリスク対策

みなさん、こんにちは。

3月11日に起こった東日本大震災の影響で、甚大な被害を被った大家さんがたくさんいらっしゃいます。地震は賃貸経営を行う上で最大のリスクと言っても過言ではありませんが、正しい知識とリスクヘッジのノウハウがあれば、致命的なダメージを回避することができます。

既存の所有物件についてはもちろん、これから物件を購入する際にも今回のコラムを参考にしていただければ幸いです。

地震のリスクヘッジいろいろ

地震の対策というと地震保険が頭に浮かびますが、地震の対策として考えられる方法は他にいくつもあります。

地震の発生するリスクの低い場所に物件を持つ。万一の被災の際も耐えられるよう地域を分散して物件を持つ。できるだけ被害が大きくならないよう、耐震・免震の物件を選択するなども、立派な地震対策です。
(特に「耐震」については重要で、今回の地震で震度7を記録した地域であっても、新耐震基準を満たしたRCマンションの大半は、崩壊せずに残っていることからも、今後の物件選択においては耐震基準を重視せざるを得ないと思いました)

これらのリスク対策をできる限り行った上で、保険を含む「お金の対策」を考えるのが正しいリスク対策です。

地震保険の必要性

先ほど「地震の発生するリスクの低い場所に物件を持つ」と書きましたが、そもそも日本という国自体が地球を代表する地震多発地域であり、国内でどれだけ保有エリアを吟味したところで、大したリスクの軽減にはなりません。

日本の国土は、地球全体の面積における0.2%の割合しか占めないのですが、地球上で発生するマグニチュード6以上の地震の20%は、日本とその近海で発生します。ですので、どれだけ対策をしたとしても、災害発生時の金銭面での対策はしておく必要があります。その代表的なものが地震保険となる訳です。

ぼく個人では、地震保険は土地値以下で購入した木造物件以外の、全ての賃貸物件に必要だと考えています。「地震保険不要論」として色々な理由付けがありますが、ここで否定してみようと思います。

耐震の築浅マンションなので、強い地震でも倒壊しない。
どんなに揺れに強いマンションでも、火災があれば燃えます。一般の火災保険では、地震を原因とする火災による損害は免責(=保険支払いの対象外)となっているので注意が必要です。阪神・淡路大震災での広範囲な火災や、今回の震災での気仙沼市など、火災を原因とする損害は、時に地震自体の損害より大きくなることもあります。

首都圏に大地震が来たら保険会社が倒産するので、地震保険はどうせ払われない。
地震では保険会社は倒産しません。地震保険は日本地震再保険という機構を通じて政府などにリスクの分散を行っており、各会社の支払い余力を超えることはありません。地震より、大きな台風の方が保険会社の経営にとっては痛手です。

地震保険には全社の支払い限度額があるので、首都圏の大規模地震の時は意味がない。
確かに、地震保険は1災害あたりの全社合計の支払い限度額を、5.5兆円(執筆時)と定めています。それを超える支払いが発生した時は、各契約への支払いを案分で削減することになっています。

首都圏に直下型地震が発生した場合の経済損失は100兆円レベルになるという予測ですから、心配になるのもムリはありません。

しかし、ここで言う経済損失とは、家屋の倒壊だけでなく、道路や鉄道、電気やガスなどのインフラ、農作物やお店が営業できないことでの機会損失などを含んでの数字です。また、地震保険の加入率は地域によって差があるものの、高い地域でも30%未満です。

阪神・淡路大震災では、ここでいう「経済損失」が約10兆円だと言われていますが、この震災で保険会社全社が支払った地震保険金の合計額は783億円で、現在の限度額のわずか1.4%に過ぎません。兆円を大幅に超える地震保険金支払いが発生する確率は、極めて低いと思います。

地震保険の加入方法

地震保険の上手な加入方法についてまず知っておかなければならないことは、一般の地震保険は、専用住宅(共同住宅を含む)、または併用住宅のみを対象としているということです。事務所や店舗、倉庫などについて地震保険を契約することができません。

地震保険の対象とならない物件を購入する際には、災害発生時に最大いくらの損害が出て、それが経済的に耐えられるのかをよく見極める必要があります。

そして、地震保険に加入する場合は、その契約金額(保険金額)が重要です。地震保険は、その主契約となる火災保険の10~50%の範囲内でしか加入できないことになっているので、普通に契約していると金額不足になってしまうことが多いです。

火災保険には「価格協定」といって、今から建て直したらいくら掛かるかという金額(再調達価格)で契約をすることができます。中古物件を購入した場合でも再調達価格で火災保険に加入し、地震保険を高めにしておくことでリスクを軽減することが可能です。

できれば、建物が全壊してしまった場合でも、更地にした土地を売却した金額と地震保険金を合わせて債務が完済できるくらいの金額で契約すると良いでしょう。

大家さんの賠償責任

大家さん自身の被害だけでなく、賠償について心配されている方が多いので説明しておきます。

例えば地震によって持ち物件が倒壊したことが原因で、入居者さんが死傷したとします。その場合、大家さんが賠償責任を負うと勘違いされている方もいらっしゃいますが、そうではありません。

地震を含めて、天災は「不可抗力」ですので、損害賠償の要件である「故意または過失」にあたらず、賠償責任が生じません。(民法第709条)もちろん、入居者さんの安否を確認する前に考えることではありませんが、まずは安心してください。

ただし、建築当時の耐震基準を満たしてないなど、持ち物件が違法の建築物だった場合には、大家さんの過失で、入居者さんが死傷したと解釈できる可能性があります。(新耐震基準を満たしていなくても、当時の基準を守っていれば大丈夫です)

実際、阪神・淡路大震災のときでも、倒壊した建物の下敷きになって死亡した入居者の遺族が訴えた訴訟で大家さんが敗訴し、賠償責任が確定してしまった判例もあります。

このような賠償責任を補償してくれる保険はありませんので、持ち物件の耐震診断をしておくことをお奨めします。

寺尾 恵介
寺尾 恵介

寺尾 恵介

大手保険会社に12年間勤務。2004年から不動産投資を始め、2008年3月までに7物件・94戸の不動産を購入し、サラリーマンを卒業。現在は大家業の他、不動産投資ブロガーとしても活躍中。著書『満室大家さんのヒミツ』(ぱる出版)他。

 

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