不動産投資コラム

所有物件 調査・購入ドキュメント(1) 前編

今回の連載では、ぼくが実際に購入した物件を例に挙げて、情報取得の経緯や調査方法、価格交渉、実際に購入して運営を軌道に乗せるまでの詳細について説明をすることになりました。1年間の連載で、4つの購入物件についてご紹介できる予定ですので、ぜひご期待ください。
最初のドキュメントは、人口46万人の県庁所在地で2006年に購入したマンションです。

当時の状況

不動産投資の手法はいろいろありますが、一部の例外を除けば、どれが合っていてどれが間違っているというようなことはありません。ただ、「自分に合っているか合っていないか」という判断があるだけです。

この「自分に合っているかどうか」は、資産や収入・属性なども影響しますし、どのくらいの時間を不動産投資に費やすことができるか、さらには受容できるストレスなどによっても変わってきます。合わないスタンスで投資を続けようとすると、物件の取得がなかなか進まないのはもちろん、不動産投資がご自身を幸せから遠ざけてしまうことにもなりかねないので注意が必要です。

さて、この物件を検討し始めた時点で、ぼくの持ち物件は区分を入れて31戸。年間の家賃収入は1600万円程度でした。キャッシュフローでいうと、450万円くらいとそこそこのレベルになっていました。居住している県内に2つの物件を取得して、それに伴うチーム作りも進んでいたので、しばらくの間は同じエリアで物件を増やそうという方針が固まっていました。

投資エリアが決まっていると、地元の不動産会社さんとの関係作りに注力することができます。地道な活動が日の目を見て、この頃には市内周辺の売り物件情報をかなり頻繁にもらうことができるようになっていました。ただ、それまで比較的ハイペースで物件を取得し、自己資金はかなり枯渇していましたので、実質的にはフルローンが狙える物件に絞って購入を検討していました。

物件概要

地元で見つけた不動産会社さんから紹介いただいた物件は、下記のようなものです。

  • 重量鉄骨造 5階建て共同住宅 1K28戸
  • 敷地面積 431m2
  • 延床面積 799m2
  • 平成4年8月築(購入当時 築14年)
  • 売出価格 8,800万円

外観的にも高級感があり、なかなか良さそうです。

紙の調査(1) ~積算価格を出す~

不動産を購入する際には、必ず現地で物件の建物や周辺の様子をチェックするべきですが、ぼくの場合は「現地に行くまでの調査」も非常に重視しています。いわゆる「紙の調査」ですね。現地を見て、いくら建物の状態が良くて住みよい環境であることが分かっても、その物件の投資指標が購入に値しないものであれば、現地を観に行く価値がないからです。

そこでまずは、不動産会社さんからいただいた資料をじっくり検討するのですが、まっさきに確認するのは「物件の積算評価」です。積算価格とは、土地値と建物の残存価値を合計したものであり、銀行が融資の可否や金額を判断するにあたって最重視している指標でもあります。ぼくは上述の通り、基本的にはフルローンが可能な物件に絞って購入を検討していたこともあり、積算評価>購入価格となっている物件であることが必須の条件でした。

この「積算価格」というのは、もちろん金融機関によって評価方法が違います。土地を路線価で計算するところもあれば、公示地価や固定資産税評価額で計算するところもあります。建物の評価は、さらに金融機関ごとの差が出ます。
ですので、理想をいえばご自身が融資を受けようと思っている金融機関の融資基準を把握しておき、それに合わせた物件選択ができるのが良いのですが、そうでない場合は「まあ、これが一般的な基準だろうな」という指標で積算評価を計算します。(このコラムでも、その基準を使って説明します)

このマンションの積算評価を計算してみると...

  • 【土地】
    路線価(8.0万円/m2)× 敷地面積(431m2)= 3,448万円
  • 【建物】
    重量鉄骨のm2単価14万円 × 延床面積(799m2)= 11,186万円
    経済耐用年数30年で経年減価させると5,593万円
  • 【合計】
    3,448 + 5,593万円 = 9,041万円

と、売り出し価格とほぼ同じくらいでした。収益性はあるものの積算評価が出にくい物件というのは、意外とたくさんあります。

紙の調査(2) ~レントロール~

紙の調査でチェックするべきところは、積算価値のほかには「レントロール」です。家賃や敷金・礼金などの受領金、入居時期などをまとめたレントロールは、物件購入の判断をするにあたって欠かせない資料です。ぼくは、このレントロールをかなり読み込みますが、もしこの貴重な資料を、入居率と家賃の確認くらいにしか使っていなかったとしたら、とてももったいないことです。

まず着目するべき点は、「家賃のばらつき」です。「利回り●%」をうたわれていても、それは以前の高い家賃のまま入居している方が、そのまま住み続けた場合の数値であって、物件本来の実力ではありません。正しい利回りは、直近で成約した家賃を全部屋に当てはめて算出するものだと思っているので、その「正確な利回り」を、まず算出します。

また、家賃の下落が激しいかどうかも確認します。地方物件の場合は、都心部に比べて経年による家賃の下落が激しいため、しっかり見ておくことが重要です。

この物件のレントロールで特徴的だったのは、まず非常に高い空室率でした。全28室中15部屋に空きがあり、なんと空室率は53%。一方、家賃の下落はほとんどなく、入居が決まりにくい閑散期の家賃が若干低い程度でした。おそらくこのマンションは、長期に渡って家賃の見直しがされておらず、その結果空室が拡大していったのだと判断できました。また、適正な家賃水準で募集すれば、入居率を改善させることができるかもしれないという予測もできました。

紙の調査(3) 間取り図

間取り図もしっかり見ておきます。3点ユニットの人気が極端に低い地方においては、バス・トイレが別であるかどうかは必須の調査項目です。そのほかにも、「窓の方角」「居室の広さ」「水回りの配置」などを重点的にチェックします。致命的な欠点がないかどうかの確認と、部屋ごとに間取りや面積がどう違っているかを把握して、レントロールと見比べることを目的としています。

この物件の場合は、全部屋1Kの間取りでありながら、25~31m2と広めに造られており、バス・トイレもセパレートで競争力は維持できていると判断しました。また、部屋の広さが異なっていても、家賃の差はあまりついていないという特徴も把握することができました。要するに、「大家さんの経営力的にイマイチ」だということです。

事前調査での購入判断

上記に加えて、インターネット上から取れる地図情報や駅情報などもくまなくチェックし、ようやく現地を見に行くことになるわけです。ここまでの段階で、自分なりの購入判断は以下のような感じでした。

  • 利回り的には合格水準。積算価格と売り出し価格はほぼ同じ。これだけ空室が多いのだから、価格交渉はできるはず。
  • 大家さんの経営レベルは高くないだろう。
  • 建物や設備的には問題ないので、空室の原因は家賃水準か?購入後に家賃を下げても問題ない価格で購入しよう。
  • 長期の空室があるはずなので、その部屋のリフォーム状態は要確認。
  • 主な入居者層は学生だと思われるが、具体的な募集サイクルについてヒアリングしよう。
  • 管理会社がちゃんと募集を頑張っていたかどうかを聞いてこよう。

現地確認と不動産会社さんへのヒアリング、買い付けから運営までについては次回に続きます。

寺尾 恵介
寺尾 恵介

寺尾 恵介

大手保険会社に12年間勤務。2004年から不動産投資を始め、2008年3月までに7物件・94戸の不動産を購入し、サラリーマンを卒業。現在は大家業の他、不動産投資ブロガーとしても活躍中。著書『満室大家さんのヒミツ』(ぱる出版)他。
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