不動産投資コラム

可能な限りリスクを減らしたサラリーマンの投資戦略

可能な限りリスクを減らしたサラリーマンの投資戦略

不動産投資は金額が大きい投資だけに、大きなリスクも伴うものです。
今回は、サラリーマンだった私がそのようなリスクを抑え、最終的に安定した経営を行うためにとってきた資産拡大の方法と、踏むべき3つのステップについて紹介します。

資産の拡大を急がない

一昨年あたりには仮想通貨で"億り人"と言われる人が多数生まれましたが、今は大暴落で資金を失った人も数多くいます。
不動産業界でいえば、"多法人隠しスキーム"と言う手法があります。これは個人口座に多額の預金を集め、それを複数の銀行に同時に見せて、それぞれの銀行には他の法人の存在を隠して、各法人に多額の資金があるように銀行に思わせて融資を引く方法です。

ここ数年で急速に不動産投資事業を拡大した人の中には、この手法を使って1年で10億円以上もの融資を引き出して物件を購入した人もいました。けれども実際には銀行へ虚偽の申告をしているわけで、彼らはその後、事実が露見して大幅に金利を上げられたり、融資を回収されています。

こうした手口は極端ですが、なんでも無理をして急速に拡大すると、失敗した時にダメージが大きいものです。数百万円の預金しかない状態で、一気に数億円もの物件をフルローンで次々と購入していくと、非常にリスクのある状態になってしまいます。
上手くいけば大当たり、失敗すれば破産。こんな形は「投資」ではなくて「ギャンブル」です。銀行も、現在では手持ちの資金が少ない人に億単位の融資をすることはあり得ません。

ステップを踏んで資産拡大をする

では資金の少ないサラリーマンはどのように物件を増やしていけばよいでしょうか?

まず始めに理解して欲しいのは、物件を増やすことにより家賃収入は増えますが、その分、借金も増えます。借金によって物件を買っている以上、そこには借りたお金を何十年間もきちんと返済し続ける責任が発生します。
そのため、堅実にサラリーマンで一定の収入を得ながら、そこで蓄積した自己資金に応じて段階を踏みながらしっかりと拡大していくことが、結果として確実な資産形成につながります。

不動産業界は先が読みにくい状況ですので、無理して一気に拡大しない、ということは重要だと思います。

拡大するための3つのステップ

それでは段階を踏んで資産形成をしていく過程をそれぞれ説明します。
イメージは図2のような考え方です。赤線は一気に目標の資産まで拡大した様子、黒線は段階を踏みながら拡大していく様子です。段階ごとに足固めをすることがポイントで、目標達成までの時間はかかりますが、万が一、トラブルや想定外のことが起きても被害は少ないです。

1stステップ:手元の自己資金を増やし、再投資に回す
自己資金が数百万円のサラリーマンが資産形成をするには、比較的安価な区分所有の物件を長い時間をかけて少しずつ買っていくか、もしくはある程度のリスクをとって自己資金を増やしていく方法を取るしかありません。

不動産投資のメリットは、購入予定の物件を担保にしながら融資を受けられることです。それを活かすには多少のリスクを取りながら、ある程度レバレッジ(テコの原理、投資においては少ない資金で大きな金額を取引すること)を使って資産形成をした方が良いと思います。

少ない自己資金でローンを組んで物件を購入して資産拡大を目指すのであれば、そこで発生するキャッシュフローに徹底的にこだわるしかありません。

キャッシュフロー=年間総収入-経費-ローン元本+減価償却費(- 所得税・住民税・事業税(法人税))

ここで大事なのが、ローンについての考え方です。

一般の方がローンについて考える場合は、ローン金利が安くて、総支払額が少なくなることを優先します。できる限り金利が低くて、融資期間を短くし、さらにお金が貯まったら繰り上げ返済をするわけです。
私も住宅ローンで自宅を購入した時は、ボーナスが出るたびに必死に繰り上げ返済をして残債と支払利子をできるだけ減らす努力をしました。

しかし、不動産投資の場合は、このやり方では借金は減りますが、短期的に手持ちの資金は増えません。手持ち資金が増えなければ、増えた資金を再投資して複利で収益を増やすことができません。不動産投資はここがポイントです。

そのため、できる限り金利が低くて、融資期間を長くして、さらに繰り上げ返済をしないという考え方に立つ必要があります。

シミュレーションを参照して詳しく説明します。表1は3000万円の資金を2%の金利で15年間の融資を受けた場合、表2は同額を3%の金利で20年間の融資を受けた場合のシミュレーションです。

■表1:3000万円を金利2%・返済期間15年で借りた場合

■表2:3000万円を金利3%・返済期間20年で借りた場合

※上記シミュレーションは、固定金利タイプ・元利均等返済の場合を想定しています。
※シミュレーションは諸条件により大きく異なる場合があります。
※「キャッシュフロー」は、条件入力の仮定数値に基づき計算している参考値で確実に得られる保証はございません。

手持ちの資金を示す「累計フリーCF欄」を比べてみましょう。1年目から10年目で、3%で20年間借りた方が累計キャッシュフローが多いことがわかります。これは毎月の返済額が少ないほうが、早い時期で運用資金を増やすことにつながるということです。

もちろん、支払利子の総額は大きくなりますが、不動産投資の場合は利子も経費です。

自己資金が少ない人の1stステップでは、手元の自己資金を短期的に増やし再投資に回すことが重要になります。

もちろん、自己資金が潤沢な人はこのステップを取る必要性はありません。

2ndステップ:買いの手を緩めて自己資本比率を高め、経営を安定させる
ある程度自己資金が増えてきたら、リスクのある状態から安全な状態にしていく必要があります。

私は常々自己資本比率が30%は必要であると言っています。なぜならば倒産しない企業は自己資本比率が30%以上であることが統計的にわかっているからです。

安定経営には自己資本を強化していくべきです。彗星のごとく現れた会社が翌年突然倒産するというのを見ても明らかなように、レバレッジをかけすぎると、翌年の売上ダウンや金利上昇で経営が立ち行かなくなることが多いのです。

家賃収入が1000~2000万円くらいになったときには一旦、レバレッジをかけた購入を抑え、次からは30%程度の頭金をいれて物件を買うようにすべきだと思います。

このような方法をとることで、過去に購入した物件も返済が進み、高かったレバレッジも年々小さくなります。さらに、頭金を入れて購入している物件もどんどん返済が進み、所有物件全体として自己資本が30%くらいになってくれば、とりあえず安全圏に入ったと言えると思います。

ある程度の規模まで買い進めたあとで一定の期間、買いの手を緩めて資金を潤沢にする時期を設けることで、多少のトラブルや経費の増加があっても十分乗り切れる筋肉質の経営にシフトできます。

また、このステージでは資金を潤沢に貯めることを優先しますが、単に資金を寝かせておくのではなく、その資金を利用して、受けている融資の金利の交渉をすべきだと思います。

過去には、資金を持っていないがゆえに銀行も高い金利でリスクを取らざるをえませんでしたが、潤沢な資金を持つようになれば、銀行からみても安全な貸出先に変わってきているはずです。そうであれば、リスクが減少した分、低金利にしてもらうようにお願いすることは問題ありません。黙っていては金利を下げてもらえないので、資金を示し、交渉する必要があります。

私はこの時期に潤沢になった資金を金利削減交渉に利用して、平均して1%以上融資金利を下げてもらいました。こうすることで物件を増やさなくてもキャッシュフローは増加し、より潤沢な資金が手に残るようになります。

この後は、また少し自己資金を少なめにして買い進めるか、このまま常に一定の頭金を入れながら買い進めるかはその人の目標金額にもよると思います。

買い進めるにしても2000万円の物件の次は5000万円、8000万円、1億円と、ある金額が来たらまた資金を潤沢にしてより筋肉質にしていくことをしっかりやっていくことが不動産投資を安全に進めていく方法だと思います。

確かに、ここ10年くらいは結果として無理してでもレバレッジをかけて大量に購入し続けた人が大きな資産を形成したのも事実です。
ただ、それはまれにみる金利の下落、さらに不動産投資家の急増や不動産バブルによるところも大きく、安全なやり方とは言えないと思います。

3rd ステップ:資産性を重視し、競争力のある物件に入れ替えていく
このあたりに来ると、自分の資産形成としてはかなり目標に近いところまで来ていると思います。しかし、油断せずに資金面に関しては安全性をより強固にしていくことを目指しましょう。30~50%の自己資本比率を確保して、新規に物件を購入しても30%を割ることがないようにすべきです。

さらに、ここでは物件の入れ替えについても検討しましょう。具体的には利回りよりも資産性を重視して物件を入れ替えていくことです。
もうすでに自分にとって必要十分なキャッシュフローが得られていると思います。そのため、将来の人口減などによる競争激化に対しても生き残っていけるように、利回りよりも競争力のある物件にシフトしましょう。
立地は都市の中心部、駅から徒歩5分以内など、より資産性の高い物件に切り替えることが、相続においても将来の安定性においても重要になってくると思います。

資産を拡大する方法に近道はない

不動産投資は大きな金額を動かすものですから、決して無理せずにステップを踏みながら拡大していきましょう。家族を抱えながら不動産投資をやる以上、大切なのは少しずつでも確実に収入を増やして豊かな生活を送ることです。お金に踊らされることなく、財務体質を強化して、筋肉質の経営ができるようにしていくことが大切だと思います。
これから不動産投資を始める方、検討している方は資産を拡大する方法に近道などはないことを理解してください。しっかりと賃貸業の運営を行い、足場を固めながら資産を拡大していくことが、将来の豊かな生活につながると思います。

赤井 誠
赤井 誠

赤井 誠

1985年、北海道大学大学院工学研究科卒、大手電機メーカーに27年勤務、2004年より不動産投資を開始し、その後、サラリーマンを退社、専業大家となる。16棟117室所有。家賃収入は年間1.2億円。不動産会社を経営しながら、そこで得た知識や情報をブログやコラムで全国に発信し、またセミナー講師としても活動中。著書は「ゼロからの不動産投資」「本気で始める不動産投資」(すばる舎)。

 

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