前回に続いて今回は「国・エリア・プロジェクトの選び方」についてお届けします。海外不動産を検討する上で、外国人の不動産所有制度や慣習は各国で異なります。また、日本と異なり法制度や税制度は頻繁に変更になることも多いため投資家として最新の情報を取得した上で投資検討をすることが必要です。
今回は、国の選び方にあたって検討すべき要素についてお伝えをしていきたいと思います。
経済成長と人口成長
第1回の「海外不動産投資の魅力とリスク」において、日本と比較して海外不動産はキャピタルゲインを得やすいとお伝えしました。キャピタルゲインを得やすい要因は、各国の経済成長と人口成長によるところが大きいといえます。
経済成長はGDP成長率によって確認することができます。2020年はコロナパンデミックで各国大きなマイナス成長を記録しました。コロナ後を見据えた経済成長の予測においては、IMFが定期的に発表している2025年までGDP成長率の予測があります。
新興国・成長国においては、コロナ前までの回復が予測されます。先進国においても成長率の回復が見込まれています。残念ながら先進国の中で最も低成長となるのが日本となっています。
出所:IMF 2020 より筆者作成
GDP成長と連動するのが、物価の上昇と賃金の上昇です。この2つの要素の上昇により賃料と不動産価格の上昇が期待できます。賃料と不動産価格においては、賃料の上昇の上下幅よりも、不動産価格の上下幅のほうが大きくなります。経済成長局面では不動産価格の上昇のほうが強くなり、賃料は緩やかに上昇していきます。
人口成長が不動産価格に与える影響は、学術的な分野でも検証されています。人口成長もしくは人口ボーナス*は安定した労働人口の増加と、都市人口の増加をもたらします。
*人口ボーナス:総人口に占める生産年齢人口の割合が上昇し、労働力増加率が人口増加率よりも高くなり、人口に対する労働力が豊富な状態となることで経済成長が促進されることを指す。
仕事を求めて都市に出てくる人口流入は、都市人口率を高め、都市部の交通インフラ、オフィス、住宅開発が促進されます。人口増加は、需要の増加による不動産価格上昇につながります。
出所:PopulationPyramid.netのデータを基に筆者作成
マレーシア | タイ | フィリピン | ベトナム | インドネシア | 日本 |
---|---|---|---|---|---|
2050 | 2031 | 2062 | 2041 | 2044 | 2005 |
出所:PopulationPyramid.net 国際連合 JETRO
このように経済成長と人口成長の予測を知ることで、不動産価格上昇を享受しやすい国を検討するのが良いでしょう。
各国不動産保有制度とカントリー・リスク
日本は外国人が容易に不動産を保有することが出来ますが、各国によって制度は異なります。先進国であれば自由に取引ができると思いがちですが、近年では不動産価格の高騰により外国人の不動産所有規制や追加税を課す国や地域が増えてきました。
思いがけない取得コストや売却コストが発生することもあるので、事前に保有制度を確認しておきましょう。例えばオーストラリアは新築住宅しか購入することができなく、売却時はオーストラリア人にしか売却することができません。また、州毎に異なりますが追加印税(不動産購入時に外国人が支払う印税)が8%発生します。隣国のニュージーランドでは永住権を持たない外国人の不動産購入が2018年から禁止されました。
東南アジア各国でも同様で外国人が制限なく不動産を購入することはできません。近年価格が高騰しているシンガポールなどでは、外国人が購入する場合は売買価格の20%の追加印税と短期譲渡に対して最大12%の譲渡税を課す「クーリングメジャー」という価格抑制策行っています。
マレーシア | シンガポール | タイ | フィリピン | ベトナム | |
---|---|---|---|---|---|
外国人不動産保有 | マレーシア○ (土地も可能) |
シンガポール○ (区分権のみ) |
タイ○ (区分権のみ) |
フィリピン○ (区分権のみ) |
ベトナム○ (区分権のみ) |
外国人保有制限 | マレーシア約2600万円以上 | シンガポール無制限 | タイ全戸数の49%までだが 1戸単位は100%の所有権 |
フィリピン全戸数の40%までだが 1戸単位は100%の所有権 |
ベトナム全戸数の30%までだが 1戸単位は100%のリース権 |
不動産消費税 付加価値税 |
マレーシア0 (6%が廃止) |
シンガポール20% | タイ0 | フィリピン12% | ベトナム10% |
譲渡税 譲渡益税 事業税 |
マレーシア譲渡益に対して契約から5年超10% 契約から5年以内30% |
シンガポール売買価格の12% (保有1年以内) 8% (2年以内) 4% (3年以内) |
タイ売買価格の3.3% (保有5年以内) |
フィリピン売買価格の6% | ベトナム売買価格の2% |
プロパティアクセス作成(一般的な適用条件として作成しており、エリアや州によって異なる場合があります)
成長する東南アジアの国選びにおいては、カントリーリスクも考慮しておく必要があります。比較的安定している民主主義国もあれば、クーデターが発生したミャンマーのように将来的な不動産取引が制限される可能性のある国もあるため安定している国を選ぶことが重要です。
為替と手数料
海外不動産投資の注意点としてまず理解しておくべきなのが、為替リスクです。話を思い切り単純化して説明すると、たとえば1ドル100円の時に、10万ドル(1千万円)で海外不動産を購入したとします。
購入した不動産が10万1千ドルになれば1千ドルの利益が出ていることになります。しかし、そのときに1ドルが90円になっていれば、円に換算すると909万円(10万1千ドル×90円)です、つまり91万円損することになるわけです。
1ドル=90円時 | 1ドル=100円時 | 1ドル=110円時 | |
---|---|---|---|
購入時 | 1ドル=100円時10万ドル=1000万円 | ||
不動産1千ドル値上 | 1ドル=90円時10.1万ドル=909万円 | 1ドル=100円時10.1万ドル=1010万円 | 1ドル=110円時10.1万ドル=1111万円 |
日本円換算損益 | 1ドル=90円時91万円の損失 | 1ドル=100円時10万円の利益 | 1ドル=110円時111万円の利益 |
←-------------- | 為替変動リスク | --------------→ |
このように為替の状況によっては、不動産の価格が上がっていても損失が生まれるおそれがあります。為替の変動が激しい国の不動産に投資する場合には、こうした為替リスクが高まる可能性があります。そのため、物件を売却したい時に為替の状況が思わしくないような場合には、為替が回復するまで待つことも必要になります。同様にインフレをしている国の通貨は通貨の競争力が落ちてくる(通貨安)になることがあります。
一方で日本円との為替を比較した場合に、インフレしている国の通貨だからといって一概に通貨安になるものでもありません。成長国の不動産を購入する前に、その国の通貨の為替を見ていく必要があります。
東南アジアなどでの新興国の通貨はマイナー通貨と呼ばれるように、為替手数料が米ドル等と比較して高いことも注意点です。物件購入の支払のタイミングや、売却後日本円に転換する場合、現地通貨を事前に購入して送金をするか、送金後に現地通貨に転換するかどうか、それぞれのケースや利用する銀行のレートは随時確認をして最適な方法により為替リスクを最小限にする必要があります。
少なくとも過去10年の円との為替変動を確認し、円に対して弱くなり続ける通貨の不動産は避けておくのが無難です。
エリアとプロジェクト選び
国選びを行った後にはエリアとプロジェクト選びを行います。エリア選びで重要なのは、どのような賃借人を想定するかどうかです。
海外のように土地勘がない場所では、エリアごとの特徴や居住者層を把握することは容易ではありません。特に都心部の中でも治安や公衆衛生面が良い場所と良くない場所も多く、エリア内の格差も激しいため、一見アクセスが良さそうな場所で手頃なプロジェクトを購入すると賃借人の質がわるく滞納リスクも高まります。
その土地に地縁がある場合を除いて、エリア選びをする上では日本人が居住する可能性があるエリアから選定すると安心です。日本人以外の外国人や現地のアッパーミドル層も居住するようなエリアも良いでしょう。
フィリピンにおいては、野村不動産が住宅開発事業を行っているマニラのBGC(ボニファシオ・グローバル・シティ)地区は外国人及び現地のアッパーミドル以上にとても人気の高いエリアです。日本人学校もBGCにあり、野村不動産の「The Seasons Residences」から徒歩で通学することができるため、日本からの駐在員とその家族が借りるにあたり、第一選択をする物件になるはずです。
プロジェクトにおいては、大手不動産デベロッパーのプロジェクトが安心です。海外ではプレビルドと呼ばれ、購入者が支払う手付金や中間金を工事代金に充当しながら工事が進んでいきます。売れ行きが著しく悪くかつデベロッパーの資金力が乏しい場合は工事が途中で中断され、最悪の場合は竣工しなかったり、予定の竣工よりも5年ほど遅延してしまうということもありえます。新興国に限らずオーストラリアなどの先進国でも同様の方法でプロジェクトが進行します。建物のクオリティも大手と中堅では大きく差が生じることもあります。
最初の海外不動産投資で上記のような失敗を避けるため、エリアとプロジェクトの選定にはこだわりを持ち、安かろう悪かろうではなく、良いエリアで安心できるプロジェクトを選ぶようにしましょう。
日系の注目プロジェクト「The Seasons Residences」について
前述したフィリピンの注目プロジェクトについて取り上げたいと思います。マニラのBGC地区は近年、シャングリラホテルやグランド・ハイアットホテルなどの高級ホテルも開業した、マニラで最もホットなエリアと言われています。
商業、オフィス、教育、官庁ゾーンに分けられており、電線・電柱は地中化され町並みが整備されています。
特に、フィリピンの低中所得者の「足」であるジプニー(格安乗り合いバス)がBGC地区内へ乗り入れが禁止されているなど、本地区は街の美化・治安の力を入れていることが伺えます。
そのため多くの外国人駐在員が住むBGC地区。グランド・ハイアットホテルの隣区画に建設中の高層コンドミニアムが野村不動産、三越伊勢丹ホールディングス、フェデラルランドと開発する「The Seasons Residences」です。
共同事業者に三越伊勢丹ホールディングスが入っていることからわかるように、低層部分には商業施設「MITSUKOSHI三越モール」が開業。モール直結の4棟のコンドミニアムが「The Seasons Residences」です。
4棟のタワーの名称はそれぞれ「Haru(春)」、「Natsu(夏)」、「Aki(秋)」、「Fuyu(冬)」となっており、Haruから分譲がスタートされ現在はNatsuを中心に分譲されています。
「The Seasons Residences」は、日建設計等日本の設計会社と協業した外装計画や、ゲストルームなどに於いて日本の四季を感じさせる空間を創出する"JAPAN CONCEPT"の各種取り組みや、各タワーに制震ダンパーを設置した地震や台風などの自然災害に強い建物設計といった特徴があります。
上記取り組みを評価され、2021年度には「The Seasons Residences」は世界の優れた不動産プロジェクトを表彰する「International Property Award」のResidential High-rise Development分野に於いて、フィリピンの最優秀賞ならびにアジア・パシフィック地域におけるFIVE STAR(最優秀候補)に選出されており、フィリピン国内からだけではなく世界からも注目されている物件です。
フィリピンの住宅は売れ行きや一定の時期を経過後に価格が上昇します。昨日まで4,000万円の販売価格が翌日から4,200万円といった具合です。現地ショールームは非常に大きく、1ベッドルーム、2ベッドルーム、3ベッドルームのすべてのタイプのモデルルームを確認することができます。
現地ショールーム 2020年2月筆者撮影
現在はコロナ禍で現地に行くことは容易ではないため、バーチャルショールームも用意されています。ご興味のある方は是非こちらのページもご覧ください。