1. はじめに
スクイーズ・アウトとは、会社の株主政策(誰に株主でいてほしいか)の見地から、株主でいてほしくない株主がいる場合に、その株主の保有する株式の全部を金銭等を対価として取得し、株主でなくする、あるいは、株主にならないようにすることをいいます。
スクイーズ・アウトは、例えば、相続等により株式が分散し、少数株主が多数存在する会社において、経営者の支配権を強化し、その上で経営権の承継を進めたい場合、子会社と100%の支配関係を構築して、経営効率の一層の向上を図りたい場合、グループ法人税制や連結納税制度の適用を受けたい場合、また、株式交換で子会社となる会社の現株主を親会社となる会社の株主にしたくない場合などに行われます。
2. スクイーズ・アウトの主な手法
実務上よく用いられる代表的なスクイーズ・アウトの手法として、下記のものがあります。
(1) 株式併合を利用した金銭交付
会社法では、株式併合を行った際に1株に満たない端数が生じた時は、その端数をまとめて競売等の方法で売却(発行会社の買取りも可)し、売却代金を各少数株主に、その端数に応じて金銭で交付することとされています(会社法第235条)。株主でいてほしくない株主の持株が株式併合後に1株未満となるよう株式併合の割合を決め、株式併合後に上記の様に売却代金を交付し、それらの株主を株主でなくします。
(2) 金銭等の交付を伴う株式交換
会社法では、株式交換の際に株式交換完全子会社となるA社の株主に対して、株式交換完全親会社となるB社の株式に代えて、相応の金銭等を交付することも一定の手続きの下で認められています(会社法第768条第1項二号)。A社の株主に金銭等を交付し、同株主が株式交換後にB社の株主とならないようにします。
平成29年度税制改正によりこれらの手法を含むスクイーズ・アウトが行われた場合の課税について見直しが行われました。今回の改正は、平成29年10月1日以降に行われる組織再編成について適用されます(改正法附則第1条3号)。
3. 一定の株式併合を株式交換と同列に扱う改正
今回の改正により、株式併合を行った会社がその併合後に法人株主との間に完全支配関係を有することとなる株式併合を、株式交換などと同列に、法人税法上「株式交換等」として組織再編成の一種として取り扱うことになりました。上記完全支配関係を有する法人株主は、株式交換等完全親法人とされ、株式併合を行った会社は株式交換等完全子法人とされます(新法人税法第2条・12の6の2、同12の6の4、同12の16ロ)。株式併合を行った法人が個人株主との間に完全支配関係を有する場合は株式交換等に含まれません。
改正前は、株式併合を起因として、株式併合を行う会社自体に特段の課税関係が生じることはありませんでした。しかし、今回の改正により、株式交換等に含まれる株式併合の場合は、その際に金銭の交付があることにより、非適格の株式交換等となるので、有する時価評価資産(一定の不動産や有価証券など)を株式交換等が行われた時の時価に洗い替え、その評価損益を所得金額とする必要が生じることになりますので、留意が必要です(新法人税法第62条9)。
4. 株式交換が適格となるための対価要件の緩和
株式交換が適格株式交換とされるためには、株式交換完全子法人の株主に交付される対価は、原則として株式交換完全親法人株式又はその親法人株式でなければならず、金銭等を交付しても適格判定に影響しない(他の要件を満たせば適格株式交換とされる)場合は、改正前は、剰余金の配当等として交付される金銭等、株式交換の反対株主からの買取請求に基づく金銭等、株式交換比率に端数が生じた場合の端株の譲渡代金として交付される金銭等の3つに限られていました(旧法人税法第2条12号16、同基本通達1-4-2)。
よって、株式交換時に2の(2)のA社の株主に金銭交付を行うと、非適格株式交換となり、株式交換完全子法人であるA社の有する時価評価資産を株式交換が行われた時の時価に洗い替え、その評価差益は株式交換が行われたA社の事業年度の所得金額とする必要が生じるという問題がありました(旧法人税法第62条9)。
今回の改正により、適格判定に影響しない金銭等の交付の中に、‘株式交換完全親法人が株式交換直前に株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を有する場合に、株式交換完全親法人以外の株主に交付される金銭等’が追加され(新法人税法第2条12号17)、2の(2)の金銭等の交付を伴う株式交換によるスクイーズ・アウトを行う際の上記の問題が解消されました。