1. はじめに
現行の通称タックスヘイブン税制は、日本の居住者や内国法人が一定割合の株式を保有している外国の会社で、税負担率が20%未満の国(又は地域)にその本店を置くものが、実体のある事業をその本店所在地の国で行っていないなどの場合に、日本の居住者や内国法人の所得の金額に、その外国の会社の所得を合算して申告することを求める制度です。
平成29年の税制改正でこの制度が大きく改正されます。新制度は、2で述べる合算対象になりうる外国子会社・孫会社(外国関係会社)の平成30年4月1日以降に開始する事業年度(外国関係会社が12月決算の場合、その平成31年12月決算)から適用されます。
新制度の基本的な制度趣旨は、現行制度のそれと同じですが、もはやタックスヘイブン税制というより、‘租税回避の想定度合いにより即した合算税制’に衣替えしたといえると思われます。
2. 改正外国子会社合算税制の概要
(1)外国関係会社の判定基準
新制度でも、現行制度と同様に、合算課税の候補となる「外国関係会社」に当たるか否かの判定から始まりますが、外国関係会社の当否判定の基準となる「株式等の保有割合」の定義が変わります。
合算課税の要否が問題となる日本の会社(親)が外国の会社(子)の株式の80%を保有し、その外国の会社が別の外国の会社(孫)の株式の51%を保有するという資本の連鎖関係があるとき、現行制度では日本の親会社は、外国の孫会社につき、子会社の持株割合51%に親会社の子会社に対する持株割合80%分を掛けて約40%を保有しているものとされ、日本の親会社にとって、この孫会社は外国関係会社の該当基準=50%超の持株割合に達しないので、外国関係会社に当たらない(合算課税の候補にならない)とされます。しかし、新制度では上記の掛け算なしで50%超の連鎖関係が続いているかどうかで判定することとなります。上の例では日本の親会社から80%、51%と50%超の株式の保有関係が孫会社まで続いているため、この外国の子会社と孫会社はともに外国関係会社になります
また、新制度では外国関係会社の当否につき、実質的な支配性の判定も加わることにも注意が必要です。それは、日本の居住者又は内国法人と外国法人との間に、その居住者又は内国法人が、その外国法人の残余財産のおおむね全部を請求することができる等の関係がある場合は、たとえ、法形式上、その外国法人の株式を保有していなくても、その外国法人は外国関係会社に当たるとされ、その居住者又は内国法人はこの合算課税の対象者に加えられる、ということです。
香港などでは、ノミニー(名義人)制度によって容易にノミニーを株主や取締役とする現地法人を設立・運営できますが、その法人は、ノミニーの株主や取締役に支配されているのではなく、真の所有者(会社の預金口座の資金移動や契約書へのサインのサイン権者)によって実質的に支配されています。現地法人に貯まった利益は、ノミニー契約により、ノミニーではなくその真の所有者に帰属し、同人はその請求権を有しています。登記等の公開情報ではそのことが分からないため、全世界的にノミニーが株主等になっている現地法人を使って投資を行い、そこに投資利益を無税で(いわば借名で)貯めておくといった租税回避が行われやすい状況にあり、それが現実に起きていることは、いわゆるパナマ文書によって明らかとなりました。
この問題に関しては、現在でも、租税特別措置法の通達66の6-2に「(注) 名義株は、その実際の権利者が所有するものとして同項の規定を適用することに留意する。」という取り扱いがありますが、これを更に明確化・拡大して、通達ではなく法令の中できっちりと規定しようというものだと思われます。
(2)外国関係会社の合算される所得の範囲等
次に、(1)により外国関係会社に該当する外国の会社は、1.その会社単位で、つまり、その会社の全所得に対して合算課税される会社、2.一定の受動的な所得についてのみ合算課税される会社の二つに振り分けられます。1に振り分けられるのは、現行の適用除外基準と同等の4つの基準(新制度では「経済活動基準」と呼ぶようです。) のいずれかを満たさない場合ですが、その外国関係会社のその事業年度の租税負担割合 (法定の基本税率でなく、所得の金額に対する租税の割合として一定の方法で計算。) が20%以上である場合は除かれます。ただし、ペーパーカンパニーや総資産に対する一定の投資利益の割合が高い会社などは、租税負担割合が30%以上でない限り除かれません。
2には、基本的に経済活動基準をすべて満たす会社が振り分けられますが、2の場合の詳細は、次の機会に説明させていただきます。