不動産投資コラム

底地の売買価格を基に時点修正した評価が認められなかった裁決事例

1.底地評価の相続税評価の争い

貸宅地の相続税評価を巡って、納税者が国税庁の決めた評価では高すぎるとして、争った事例が最近再び出てきました(国税不服審判所、平成30年1月4日)。

この事案は、国税庁の財産評価基本通達に基づき評価した金額(約2億1,900万円)で相続税を当初申告していた納税者が、相続後に底地7筆を一括して買取業者に売却、その売買金額を基に時点修正し更正の請求をして争いとなったものです。

問題になったのは、私道を含む貸宅地7筆約980m2の宅地です。納税者である相続人Aさんは、宅地を個別に管理し売却処分することがわずらわしいと感じ、相続当初から一括して売却することを考えていたといいます。

実際、平成26年になって買取業者B社に売却することに決め、他の買取業者からも買取金額の入った「買付証明」をもらった上で、B社に9,800万円で売却しました。Aさんは、この売却金額を基に、国土交通省が公表している地価の平均変動率を用いて逆算し、相続時点の貸宅地の評価額を約8,800万円として、申告時の評価額と逆算した評価額の差額に課税された相続税の還付を受けようと、更正の請求をしました。ところが税務署がこれを認めなかったことから、国税不服審判所での争いとなったものです。

Aさんはおおよそ、貸宅地を求める「需要者は底地の買取業者に限定されることも踏まえると(中略)時点修正した(中略)主張額は、相続開始日における本件各土地の時価を示すもの」として財産評価基本通達を適用することが著しく不適当と認められる特別の事情がある」と主張しました。

2.審判所の判断

国税不服審判所(以下、審判所という。)は、まず、相続税法上、相続財産の価額(評価額)は時価とされていることに関し次のような解釈を示しました。

(1)相続開始時におけるその財産の客観的な交換価値であること
(2)評価通達に基づく相続財産の評価の方法は、相続税法第22 条が規定する財産の時価すなわち客観的な交換価値を評価・算定する方法として一定の合理性を有するものと一般に認められており、評価通達の定めに従って相続財産の価額を評価したものと認められる場合には、その価額は「時価」であると事実上推認することができること

そして審判所は、このような場合、納税者が「財産評価の基礎となる事実関係に誤りがある等、その評価方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることを具体的に指摘して、(中略)相続財産に関する個別的な事情等を考慮したより合理的な方法により、評価通達の定めに従った評価が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の「時価」を適切に反映したものではなく、客観的な交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆すことがない限り、評価通達の定めに従った相続財産の価額が時価であると認めるのが相当」としました。

その上で買取業者B社について次のようなことを指摘しました。

①借地権割合60%(底地割合40%)の地域で更地価格の10%程度で買取価格を決定していること
②買取後1年以内に4筆を借地権者に売ったこと
③その時の金額は買取価格の1.5倍以上であったこと

こうしたことから国税不服審判所はAさんが「借地権者と個別に交渉し売却することが不可能であったものとはいえず、(中略)その取引方法を底地の買取業者に対する一括売却に限定するような事情も認められない」としました。

このため審判所は、売却価格が不特定多数の当事者間での自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を下回る(こととなった)」と認められるため、Aさんが売却価格から逆算して求めた評価額は時価ではないとして、通達の評価の適用を支持、Aさんの言い分を退けています。

3.特別の事情が認められたケース

貸宅地の相続税評価にあたって、「特別の事情」が認められたケースがあります。それは借地権付きマンションの底地のケースです(平成9年12月11日国税不服審判所裁決、他)。

この事例では、区分所有の建物とともに借地権を持つ人が多いため更地に戻る可能性が著しく低いことが特別の事情となりました。なかなか、底地にありがちな事情を汲んで財産評価基本通達の適用について不適当と認めてもらうのは難しいようです。

税理士法人タクトコンサルティング

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