サラリーマンで不動産投資を考えている方は多いもの。不動産投資は収入を増やせるとともに、その仕組みを理解し、上手に利用すれば節税も可能になります。
節税とは、一般的に収入から差し引かれる経費や所得控除などを活用して、課税所得を減らすことをいいます。 節税によって納付する税金を減らすことができれば、手元に残るお金を増やすことができ、不動産投資ではこの仕組みを上手に活用することが重要です。そこでこの記事では、不動産投資における節税の仕組みや、サラリーマンが不動産投資した場合のシミュレーションをご紹介していきます。
目次
サラリーマンも節税できる
サラリーマンなどの給与所得者の場合、給与だけで節税することは難しいですが、副業をすれば一定の節税が可能になります。不動産投資も副業のひとつと考えて良いでしょう。
不動産投資を簡単に言うと、マンションや土地を自ら購入し、貸し与えることで、賃貸収入を得ることです。毎月一定額の収入があるとともに、維持するために経費がかかるので、赤字になることもあります。その一方で、経費や控除を上手に活用すれば、人によっては数百万円単位で節税することが可能です。
不動産投資で節税できる仕組み
不動産投資を行ううえでは、ある程度の税金に関する知識が必要になります。ここでは、所得税や住民税がどのような仕組みかについて簡単に見ていきます。不動産投資との関連を理解しましょう。
節税できるのは所得税・住民税
サラリーマンが不動産投資をすると、その人の所得税と住民税に大きく影響します。所得税は、会社からもらえる給料や、自分で事業をして得たお金などに対してかかる国税です。1月~12月までの1年間のすべての所得から所得控除を差し引き、残りの課税所得に対して税率をかけて税額を計算します。ここで、所得税率は課税所得に応じて5%から45%の7段階に分かれて区分されています。
一方、個人住民税は、教育・福祉・消防・ごみ処理などにかかる地域社会の費用の負担を、その地域に住む住民が広く分かち合う「地域社会の会費」のような性格を持つ税金です。個人住民税には市町村民税と道府県民税があり、1月1日にその市町村(都道府県)に住所を有する人に対し当該住所地の団体が課税。個人住民税も基本的に所得に税率(10%)を掛けて計算します。
課税所得を少なくすれば所得税・住民税が減る
税法上、所得には10種類が定められています。サラリーマンが会社からもらう給料は税法上、給与所得にあたり、また不動産投資から得られる所得は税法上、不動産所得にあたります。そして、給与所得も不動産所得も税額を計算する際、それぞれの所得の合計を計算し、その合計額に税率をかけて税額を計算します。
給与所得がマイナスになることはまずありませんが、不動産所得の場合、各種経費・控除・減価償却費を収入から差し引くことができ、その結果、不動産所得がマイナスになることもあるでしょう。この場合、給与所得のプラスと不動産所得のマイナスを相殺(損益通算)することが税法上認められており、この制度を利用して、全体の課税所得を減らすことで、所得税と住民税の節税が可能になります。
不動産所得の決まり方
不動産所得は、以下の算式で計算されます。
不動産所得 = 家賃収入 – 必要経費
不動産投資を始めて最初の頃は、収入より経費の方が多く、また、減価償却費を計上することで不動産所得は赤字になるケースが多いでしょう。この場合、給与所得の黒字と不動産所得の赤字を相殺して、課税所得から給与所得分のいくらかを減らすことができます。
例えば、給与所得600万円のサラリーマンが不動産投資を始めた年に300万円の赤字がでたら、他の所得がないとすれば課税所得は300万円になります。不動産投資をしていなければ、給与所得600万円に対して所得税・住民税額が計算されますが、不動産投資をすることで、相殺後の課税所得の300万円から所得税・住民税額が計算されることになりここで節税が可能となります。
不動産所得で計上できる経費
不動産所得は、収入から控除する必要経費が多ければ多いほど減るので、経費が多いほど節税が可能です。ここでは節税できる主な経費を紹介します。
1.減価償却費
建物は一般に長期にわたって利用することが可能ですが、年数の経過により、少しずつ劣化していきます。この考え方を、税金の計算にも取り入れようとしたものが減価償却費です。つまり減価償却費とは、建物を買ったとき一度に経費にせず、何年かにわたって毎年少しずつ経費として計上していくことをいいます。
何年で経費に計上していくかについては、税法上、建物の構造により償却期間が決まっており、例えば木造は22年、軽量鉄骨は27年、重量鉄骨は34年、RC(鉄筋コンクリート)は47年となっています。
不動産投資が節税可能であるという理由に、この減価償却費が大きく関わってきます。つまり、マンションなどの建物は通常、数千万円をかけて購入することがほとんどです。そして、その購入金額に対する減価償却費として毎年、数百万円を経費に計上していきます。これにより多額の費用を計上できるため、不動産所得はマイナスになりやすい仕組みになっています。
2.不動産取得税・固定資産税・都市計画税
不動産に関する税金は、所得税や住民税以外にもいくつかあります。不動産を購入する際には、不動産取得税や登録免許税がかかりますし、不動産を維持するために固定資産税・都市計画税が毎年必要です。これらの不動産にかかわる税金は経費として計上することができます。
3.管理費
マンションなどの場合は、エレベーターや電気設備などの建物の維持に付随する設備の保守・点検、共用部分の清掃費用などの管理費用があります。これらにかかった費用はすべて経費にすることができます。
4.修繕積立金
区分マンションの場合、通常将来の建物の劣化などに備えて、計画的に管理組合に一定額を積み立てで支払う必要があります。この積立費用も経費にすることができます。
5.損害保険料
不動産投資では将来の天災が起きた際に備えて、火災保険や地震保険に加入するのが一般的です。この火災保険料や地震保険料もその支払額を経費にすることができます。
6.借入利子
不動産を購入する際、ローンを利用する場合も多くあるでしょう。ローン借り入れ後は、毎月一定額の元本の返済に加え、借入利子も支払うことになります。元本の返済については、経費とすることはできませんが、借入利子については経費に計上することができます。
借入利子については、金利が上昇した場合に支払額が増えることになります。しかし、この場合、経費として計上できる金額が増え、その分、収める税金が減ることになります。つまり、金利の上昇による支払額の増加と、収める税金の減少が互いに相殺され、金利上昇分をある程度リカバリすることができることも不動産投資のメリットと言えるでしょう。
7.リフォーム費用
マンションなどの場合、入居者が退去した後の壁紙変更や破損部の取り換えなど、細かいメンテナンスが必要になります。このメンテナンスに使われるリフォーム費用も経費として計上できます。
8.賃貸管理代行手数料
一般的に、サラリーマンが不動産投資をする場合、家賃の徴収や修繕の必要性などの管理業務は、自分で行わず、専門の賃貸管理会社に依頼することがほとんどです。この賃貸管理会社に支払う代行手数料も経費にすることができます。
不動産投資で節税すべきサラリーマンとそうでない人
不動産投資では、節税による効果が大きい人とそうでない人がいます。ここではどのような人が節税による効果が大きいのか、その違いを解説していきます。
課税所得が900万円以上の人は不動産投資で節税がおすすめ
上で述べた通り、不動産投資により不動産所得の赤字を利用して、サラリーマンでも節税効果が期待できます。不動産所得がマイナスになれば、給与所得と損益通算することができるからです。
それとは別に、不動産投資で節税が可能となるのは、減価償却費を経費に計上することにより、その分だけ所得を圧縮できることにつきるでしょう。言い換えれば、毎年の減価償却費に所得税率・住民税率を掛けた金額だけ節税されることになります。
所得税率は、課税所得が大きければ大きいほど税率が上がる仕組みになっています。例えば、給与所得500万円の人は20%、給与所得700万円の人は23%で、これに住民税が10%加わります。それゆえ、給与所得が高ければ高いほど、減価償却費の影響により、節税効果が高いと言えます。
目安として給与所得が900万円以上の人(所得税率33%)は、不動産投資をすることによる節税効果が大きいと言えるでしょう。
税所得900万円未満のサラリーマンは不動産投資の節税効果は薄い
一方で、給与所得900万円未満のサラリーマンは所得税率も23%程度であり節税効果も薄いと言えます。不動産投資で多額の借金をする場合もありますが、そこまでして不動産投資をするメリットが薄いと考えられるため、不動産投資はあまりおすすめできません。
サラリーマンの不動産投資節税シミュレーション
ここではサラリーマンが不動産投資をした際の税金をシミュレーションしてみましょう。すべて同じ人物でという前提のもと、同じ条件でシミュレーションしてみました。
給与所得:900万円
不動産の購入金額:4,000万円
(1年当り減価償却費:100万円)
20年後の売却金額:2,500万円
不動産所得:
1年目の不動産収入:100万円/年
2年目から4年目の不動産収入:300万円/年
5年目から20年目の不動産収入:500万円/年
1年目から20年目までの不動産経費:300万円/年
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
---|---|---|---|---|---|
不動産収入 | 100万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 500万円 |
不動産経費 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
減価償却費 | 100万円 | 100万円 | 100万円 | 100万円 | 100万円 |
不動産所得 | ▲300万円 | ▲100万円 | ▲100万円 | ▲100万円 | 100万円 |
1年目
1年目では不動産所得が赤字になるため、給与所得と相殺することにより課税所得を減らし、節税が可能となります。
・不動産投資を行っていない場合
所得税額=900万円×33%-1,536,000円=1,434,000円
・不動産投資を行った場合
課税所得=900万円-300万円=600万円
所得税率=600万円×20%-427,500円=772,500円
不動産投資による節税額は
1,434,000円-772,500円=661,500円
となります。
5年目
5年目になると、不動産所得はプラスになっていると考えられるため、給与所得と損益通算することはできませんが、減価償却費などの経費計上により不動産所得に対して節税が可能になります。
・不動産投資を行っていない場合
所得税額=900万円×33%-1,536,0000円=1,434,000円
・不動産投資を行った場合
課税所得=900万円+100万円=1,000万円
所得税率=1,000万円×33%-1,536,000円=1,764,000円
(減価償却費100万円を計上することで、100万円×33%=33万円の節税が可能)
20年後に売却した場合のシミュレーション
不動産所得に対して節税効果が認められるのは、減価償却費の存在にあります。つまり、減価償却費は経費として計上することができ、家賃収入から差し引くことができますが、現金の支出を伴わないため、その分節税効果があると言えます。
給与所得が900万円の人が、不動産投資を始めて20年後に不動産を売却した場合、その間の減価償却費による節税効果の金額は総額で「100万円×20年×33%(所得税率)=660万円」となり、この金額の節税が内在していたことになります。これに赤字の年があれば、その分給与所得との相殺が可能。さらに節税が可能となるでしょう。
他にもできる節税対策・効果
不動産投資で節税が可能であることはすでに述べた通りです。じつは他にも節税が可能な方法があります。ここでは他にもできる節税対策を見ていきましょう。
1.青色申告
不動産投資が事業的規模(基準として5棟10室以上)になった場合、税務署に届け出ることで青色申告事業者になることができます。青色申告事業者となれば最大65万円の特別控除を受けることができ、経費を最大65万円追加で計上することで、大きな節税効果を得ることができます。
また、事業的規模でなくても、青色申告事業者になれば最大10万円の控除は可能です。年収900万円未満のサラリーマンでも、青色申告事業者でなければ65万円(10万円)の特別控除は利用できないので、不動産投資をするなら青色申告を利用したいところです。
2.赤字の繰越し
上で述べたように不動産所得で赤字が生じた場合、本業の給与所得等と損益通算を行うことで所得金額を圧縮できます。そして、不動産所得で大きく赤字となり、給与所得と損益通算を行っても、なおマイナスとなる場合(純損失となる場合)は、その損失額を次年度以降の所得額から控除できる仕組みです。これにより、次年度以降の納税額を減らすことが可能となります。なお、純損失は翌年以降3年間にわたって繰越が可能です。
3.相続税の節税対策にもなる
相続税の計算にあたり、現金を相続するよりも、不動産として相続したほうが、相続税は安くなります。これは遺産の価値を評価する際、現金はそのままの金額が遺産の価値として評価されますが、不動産は一般に時価よりも相続税評価額は低く、また小規模宅地の特例など評価を大きく下げる制度があるためです。
現金をたくさん保有している人が不動産投資を行って、現金を不動産に代えた場合、相続税の節税が可能になるでしょう。
不動産投資で賢く節税しましょう
不動産投資はうまくいけば大きな収入源になり、サラリーマンの資産形成に大いに役立ちます。ただし、不動産投資の仕組みや税金対策などには、かなりの知識を要します。ひとりで理解するのはなかなか難しいものです。
きちんと理解して始めなければ、失敗ということにもなりかねません。不動産投資を始めるのであれば、知識を身に着け、緻密なシミュレーションを行う必要があることを認識いただき、しっかり準備したうえで進めていきましょう。