不動産投資コラム

2024年に変わる「タワマン相続税評価」解説|改正後の節税ポイント5つ

 2024年に変わる「タワマン相続税評価」解説|改正後の節税ポイント5つ

タワマン(タワーマンション)による節税は、タワーマンションを購入して相続を行うことで、相続税を軽減できる手法です。特に富裕層に人気があり、活用されているケースも多い印象です。一方、行き過ぎた節税策によって裁判になった事例もあり、課題も残されている状況です。この課題に対し2024年、タワマンにおける相続税の評価方法について、改正が入ることとなりました。いままでのように、評価額を下げる効果は少なくなることがわかっています。とはいえ、節税効果が一切なくなるわけではありません。そこでこの記事では、タワマンを使用した相続税の節税について、改正内容と具体的な計算例をわかりやすくご紹介していきます。

タワマン節税とは?

タワマン節税は、タワーマンションを購入して相続を行うことで相続税を軽減できる手法です。節税効果は、主に以下のふたつです。

1.マンションの評価が、「購入額(時価)>相続税評価額」となることを利用し、財産としての価格を抑えます。
2.タワーマンションの購入時に借入れを行い、相続発生時に残っている借入金の残高を、相続税計算上「債務」として財産の価格からマイナスし、財産の価格を抑えます。

このタワマン節税について、この後紹介する裁判例では、購入価額(時価)に対して、相続税評価額が4分の1程度にまで圧縮されてました。財産としての価値を約7割も評価減できており、かつ、銀行借入金を債務としてマイナスしたため、実質的に無税で次の世代に引き継げることに。不当な税逃れにあたると問題視されており、議論になっていました。

タワマンの相続税評価の改正

タワマンの相続税評価については、財産評価基本通達に定める評価方法により評価します。マンションの「相続税評価額」については、「時価(市場売買価格)」との大きな乖離が生じているケースも多く、市場価格との乖離の実態をふまえ、評価額の適正化を検討する準備に入っており、今後導入される予定です。ここでは、タワマンの相続税評価額と市場価格の乖離や新たな評価方法を紹介します。

タワマンの相続税評価改正の内容

まずは、いままでの動向から確認し、今回の改正内容を見ていきましょう。

・相続税評価額と市場価格の乖離の実態
まず、相続税評価額は、相続等で取得した財産の時価(マンションの評価額)について、不動産鑑定価格や売却価格が通常は不明であることから、建物の固定資産税評価額と敷地に対する路線価をもとに算定します。その場合、相続税評価額と市場価格の乖離が起こり、その乖離率は平成30年時点で2.34倍。ここ数年でも軒並み2倍を超えている状況です。

引用:国税庁「マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率の推移」

乖離の主な要因は、以下と考えられています。

〇建物
建物の評価額は、「再建築価格」をベースに算定されますが、市場価格は「総階数」「所在階」も考慮されているほか、評価額へ「築年数」の反映が十分でないと、評価額が市場価格にくらべ低くなる傾向にあります。よって、従来の建物の評価方法では、建物の効用の反映が不十分であったと考えられています。

〇敷地利用権
敷地(敷地利用権)は、共有持分により按分した面積に平米単価(路線価等)を乗じて評価されます。そして、この面積は一般的に高層マンションほどより細分化され狭小となりますので、立地条件が良好な場所でも、評価額が市場価格にくらべ低くなる傾向にあります。よって、従来の敷地利用権の評価方法は、立地条件の反映が不十分であったと考えられています。

・見直しのイメージ
今回の改正による見直しイメージは、相続税評価額を市場価格(市場価格理論値)で除して得られた「評価水準」の値が60%未満の場合と100%超となる場合に調整が加えられることとなります。

まず、評価水準が60%未満の場合は、市場価格理論値の60%になるように評価額を補正することになります。この評価水準は、先で見た「乖離率(市場価格÷評価額)」が1.67倍を超えるものとなり、一戸建ての平均値1.66倍とのバランスを考慮する形となっております。

なお、平成25年以降の乖離率の推移でも分かるように、乖離率の一番低い平成25年でも1.75となっており、平成30年現在では、約75%のマンションが1.75倍を超えている状況であることから、今後発生する相続において、相当数のマンションが今回の改正に伴う補正計算の影響を受けると考えられます。

引用:国税庁「マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率の推移」

今回の改正では、評価水準が100%を超える(相続税評価額が市場価格を超える場合)場合において、100%になるように評価額が減額調整されます。よって、相続税評価額が市場価格理論値を超えている場合は、従来では市場価格を超えた相続税評価額により相続税を計算することになっていましたが、今後は市場価格理論値を相続税評価額とするよう減額して評価することができ、相続税の負担を抑える効果が期待できます。

行き過ぎたタワマン節税の判例紹介

ここでは、今回の改正のきっかけとなった、タワマンの裁判例について紹介します。

裁判例の内容
甲不動産 乙不動産
取得年月 平成21年1月 平成21年12月
購入価格 8億3,700万円 5億5,000万円
借入金額 6億3,000万円 3億7,800万円


その後、約3年後に相続が発生。

相続税の申告
甲不動産 乙不動産
相続税評価額 2億0,004万円 1億3,366万円
課税価格 2,826万円
相続税額 0円


タワマン2物件を約3億3,000万円と評価したうえで、その他の財産と債務を控除して相続税の課税価格を2,826万円と計算し、基礎控除の結果、相続税の総額を0円として申告しています。

こちらの例では、相続人側は、相続税の財産評価基本通達に示されている原則通りの計算をして相続税を計算し、なんらの問題もないと主張しています。一方、国税側は、このタワマンの購入と借入がなければ、相続税の課税価格は6億円を超えるものであったことから、原則通りの評価では、他の人と比較して税負担が不公平と考えられ、原則的な評価方法ではなく「特別な事情」がある場合の鑑定額による評価方法を採用し、相続税額を計算するよう主張しました。

その結果、以下の通りの裁判の結果となりました。

裁判による相続税の計算
甲不動産 乙不動産
相続税評価額 7億5,400万円 5億1,900万円
課税価格 8億8,874万円
相続税額 2億4,049万円


裁判により、タワマン2物件の評価額が12億7,300万円となり、相続税の課税価格が8億8,874万円となり、相続税の総額が2億4,049万円となりました。結果的にタワマン2物件は、約14億円で購入して、3年分の減価償却相当額を引いた約13億円弱が合理的な金額であると司法が判断したこととなります。

この例での国税側の決め手は、財産評価基本通達第1章総則6項となります。いわゆる、国税側の伝家の宝刀といわれている規定です。その規定は、以下のように記載されています。「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」

この規定により、評価額が著しく低い場合は、原則的な評価額ではなく、国税庁長官が価額を決められるということです。よって、今回の例でも9億円以上も評価額が増額しました。

また、今回の例では、相続が発生した後、9カ月後に乙不動産を5億1,500万円で売却したことと、亡くなられた被相続人が高齢であり、近い将来相続が発生することが容易に予想でき、税負担を減らす、または免れる効果があることを知り、その効果を期待してタワマンの購入と借入を企画したと認められ、そのことが結果的に著しく不適当と認められる財産の価額であるという材料を提供してしまった形となりました。

本件の場合、財産の計算上は、規則に則った計算がされており、その計算自体は特に法に違反したわけではなかったけれども、その評価額は不適当と認められた事例となります。

今回の改正により、ご紹介した裁判例のような節税は、ほとんど効果がなくなることと、もし、わずかに節税ができた場合も、価額は国税側により決定されてしまうリスクと、隣り合わせであると理解しておくことが重要です。

タワマンの相続税計算

ここでは、タワマンの相続税計算について見ていきましょう。

従来のタワマンの相続税計算

・現行の評価方法
【1】 建物 固定資産税評価額 × 1.0
【2】 敷地 敷地全体の面積 × 共有持分 × 路線価等
【3】 【1】+【2】

・建物部分の評価方法
一般的に、固定資産税評価額は、公示価格の7割程度に調整されています。よって、相続発生時に現金で持っておくことにくらべ、3割程、資産を圧縮することができます。

・土地部分の評価方法
基本は、「単価×面積」となります。まずは、単価については、路線価を用いることが多いです。この路線価は、公示価格の8割程度とされています。面積については、マンションの敷地全体から所有している敷地権の割合となります。

ここでひとつ問題になるのが、一人あたりの面積が小さくなることです。マンションの場合、敷地全体を自分自身の持分で計算するため、タワーマンションなどの高層建物になると、持分を按分する人数が増え、結果として一人あたりの面積が小さくなる傾向にあります。このような状況から、マンションの評価額は低くなる傾向から改正が行われています。

改正後のタワマンの相続税計算

現行の相続税評価額 × 当該マンション一室の評価乖離率 × 最低評価水準0.6(定数)

新たな相続税計算を行う場合の評価方法は、従来の相続税評価額にマンション一室あたりの評価乖離率と定数の率0.6を乗じて計算することになります。この評価乖離率を算定することにより、相続税の評価額と市場価格の乖離を補正し、市場価格に近づけるような調整がされています。

評価乖離率とは

・評価乖離率(【1】~【5】の合計)
【1】 築年数 × △0.033+
【2】 総階数 ÷ 33(1.0超は、1.0) × 0.239+
【3】 所在階 × 0.018 +
【4】 敷地利用権面積 ÷ 専有面積 × △1.195 +
【5】 3.220(国税庁にて指定の数値)

・築年数
築年数は、古くなればなるほどマイナスが大きくなり評価額が下がる傾向にあります。1年あたり、3.3%減少する計算です。

・総階数
33階を超えると、一律23.9%加算です。逆に、33階以下だと1階あたり約0.7%減少する計算です。

・所在階
1階ずつ上がるに連れて1.8%ずつ上昇する計算です。よって、低層階である程、加算率が抑えられる計算です。

・敷地持分狭小度
マンションの敷地に対して自分の持分が小さければ小さいほどマイナスが小さくなっていきます。自分が所有している部屋の広さに対し敷地が何%かの割合により変動し、割合が1%変動するごとに約1.1%評価が増減する仕組みです。よって、敷地に対して総戸数が少なければ、マイナスが大きくなり評価額が下がる計算になります。

タワマンの節税効果

ここまでの内容をふまえ、タワマンの節税効果を見ていきましょう。

タワマンの相続税

・相続税計算の具体例
築年数:3年
総階数:45階
所有階:30階
マンションの敷地面積:2,000m2
持分:0.1%
敷地利用権:2m2
占有面積:70m2

【1】 3年 × △0.033 = △0.099
【2】 45階 ÷ 33階(1.0) × 0.239 = 0.239
【3】 30階 × 0.018 = 0.54
【4】 2m2 ÷ 70m2 × △1.195 = △0.034
【5】 3.220(国税庁にて指定の数値)
【1】~【5】の合計=  3.866(乖離率)

上記の例では、最終的には「3.866」という乖離率が算出されました。よって、仮に相続税評価額が5,000万円だった場合、5,000万円×3.866×0.6=1億1,598万円となってしまいます。金額にすると、倍以上となってしまう計算です。注意が必要なのは、これは富裕層が節税目的で買った場合だけでなく、居住用で済んでいる場合でも階数や築年数によっては、影響があることです。

2024年版!タワマンの評価額を下げる節税ポイント・5つ

ここまで見て分かるように、従来のような相続税評価額が低くなる傾向は、少なくなると考えられます。そこで検討したいのが、以下5つのポイントです。

現在所有しているタワマンについて、評価額を下げる方法として着目したいのは「築年数」と「路線価」。これからタワマンを購入する場合には、「総階数」や「所在階」に着目するとともに、「総戸数(敷地持分狭小度)」を考慮しながら購入することで、将来的な評価額を下げる効果が期待できます。

築年数

すでに所有しているタワーマンションの場合に、将来的に評価額を下げる最も有効な方法が「築年数」となります。この築年数は、1年経過するごとに3.3%ずつ評価額が減少していきます。仮に10年経過すれば、評価額が33%減少します。また、この築年数は、1年経過するたびに、確実に3.3%評価減するので、計算の予想もしやすいのが利点です。

よって、活用するケースとしては、将来的に贈与で移転を考えているような場合は、1年でも遅らせることで、評価額を下げることが可能になり、自らの意思で贈与時期をコントロールすることが可能です。

路線価

次に評価額を下げる効果として「路線価」があります。こちらは、国税庁が公表している1㎡あたりの価格となります。ただし注意が必要なのは、この価格は自分でコントロールすることができず、かつ、上昇することもあり得ます。よって、タワーマンションが建っている地域によって、路線価が上昇傾向にあるのか下降傾向にあるのかによって左右され、評価減として計算するのは難しい数値となりますが、路線価が下降傾向にある場合は、大きく評価減が期待できます。

総階数

これから新たにタワーマンションを購入する際に、考えたいのが「総階数」「所在階」「総戸数(敷地持分狭小度)」です。これらの要素は、購入の際に、一度決まってしまうと変動することのない要素となり、また、評価乖離率に大きく影響を与える要素です。よって、購入時にそれらを理解したうえで、購入することが有効となります。

総階数は、33階を超えると一律23.9%評価額が上昇します。逆に、33階を下回る場合は、1階ごとに0.7%評価額が減少していきます。こちらは、評価額を上昇させる要素となりますので、できる限り総階数が低い物件を選ぶことで、評価額の上昇を抑制することが可能です。

所在階

所在階も、評価額を上昇させる要素です。こちらは、1階上がるたびに確実に1.8%ずつ評価額が上昇していきます。10階上がると18%上昇していきますので、可能な限り低層階にすることで上昇率を抑制することができます。

ただし、上層階の部屋からの眺望は、タワーマンションの魅力のひとつだと思いますので、評価額を下げることばかりが優先されると、本末転倒になりかねません。こちらはバランスを取りながら検討することが望ましいと考えられます。

総戸数(敷地持分狭小度)

最後は、総戸数(敷地持分狭小度)です。この要素は、評価額を下げる効果がある要素となります。具体的には、敷地持分狭小度は、以下の算式で算出します。

敷地持分狭小度=マンション1室に係る敷地利用権÷マンション1室の専有面積

この算式で分かるように、マンション1室あたりの敷地利用権と、マンション1室あたりの専有面積との比率を求めています。敷地利用権が専有面積に対して大きくなればなるほど、評価額が減少していきますので、総戸数が少ないほうが有利に働く傾向にあります。

以下では、築年数が同じである、それぞれ違うタイプのマンションを例にあげ、評価額がどのように違うのか試算してみました。

ワンルームマンション タワーマンション 郊外型低層マンション
全体の敷地面積 270m2 3,700m2 2,600m2
1室あたりの土地面積 5m2 11m2 156m2
1室あたりの専有面積 15m2 75m2 120m2
築年数 5年 5年 5年
総階数 9階 36階 4階
所在階 7階 20階 4階
現行の相続税評価額 2,000万円 3,500万円 6,000万円
【1】築年数 △0.165 △0.165 △0.165
【2】総階数 0.065 0.239 0.029
【3】所在階 0.126 0.360 0.072
【4】敷地持分狭小度 △0.398 △0.175 △1.554
評価乖離率 2.848 3.479 1.602
新評価額 3,417万円 7,305万円 6,000万円
倍率 1.70 2.08 1.00


※【1】~【4】は、前項「タワマンの節税効果」で紹介した計算式、【1】~【4】にあたります。

上記の試算のように、敷地持分狭小度の影響が大きく、マンションの専有面積と敷地利用権の面積が近似値であるほど、評価額は低くなる傾向にあり、総戸数の少ない郊外型の低層マンションのほうが評価額は下がっています。購入の際には、総戸数を念頭に入れて物件選びをすることが重要となるでしょう。

まとめ

今回の改正により、さまざまな補正計算が必要となり計算も複雑となっています。そして、従来のような評価額の大幅な減額による節税も期待できなくなりました。よって、過度な節税を目的としたタワマンの投資をすることは避け、今後は購入する物件が投資対象として正しいのか、また、購入時に評価乖離率がどの程度になるかを事前に試算することが重要です。将来の想定相続税評価額を正しく把握し、そのときに備えていきましょう。

末永 寛
末永 寛

末永 寛税理士

一般企業における経理事務を約25年経験した後、大手税理士法人勤務を経て税理士事務所開業。フリーランス・中小企業専門の税理士として、税務業務のみならず、将来の企業運営も含めた経営サポート業務を提供。また、近年の電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も含めたITツールの導入にも積極的に導入サポートを行っている。
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