住宅取得資金だけでない非課税でできる6つの生前贈与
2019年04月03日
あくまでも資産が多い親を持つ場合に限られますが、親の側も相続税の節税になり、子どもの側も、一定の範囲であれば非課税でサポートを受けることができる生前贈与があります。それは家を買うときだけに限りません。今回は、非課税でできるさまざまな生前贈与について整理しておきます。
暦年贈与は年110万円までは非課税
贈与税は、1年間に贈与を受けた金額に対して課税されます。「暦年贈与」とは、1月1日~12月31日まで、暦上の1年間に受けた贈与を指します。その年に複数回、贈与を受けた場合は、その合計額に対して課税されます。ただし、贈与には110万円の基礎控除があり、課税されるのはこの基礎控除を超えた分です。つまり、1年間の合計が110万円以下に収まる贈与であれば、贈与税はかかりません。
相続税対策として、暦年贈与を使って、子どもや孫に贈与することはむしろよく行われていることですが、実は、注意が必要です。例えば、贈与をする人が、贈与をする子や孫の通帳や印鑑を持っていると、「名義預金」(名義を借りているだけで実際はその人の預金)と判断されてしまうこともあるのです。また、贈与は契約なので、もらう側も知っている必要があります。
他にも、「毎年、同じ日に、同額を、〇年間贈与する」といった約束をしていたとすると、仮に税務署の調査が入ったときには、最初からその合計分を分割して渡していたとみなされ、合計額に対して贈与税がかかる可能性があります。なお、何かの時に説明ができるよう、振込の記録を残しておくか、あるいは、110万円を少しだけ超える額を贈与して、あえて確定申告をして記録を残すのも1つの方法です。また、信託銀行などが扱っている「暦年贈与信託」というサービスもあります。3親等内の親族への暦年贈与を実行することが可能ですので、そうしたサービスを活用する方法もあります。
住宅取得資金の贈与の特例で3,000万円まで非課税
父母や祖父母など直系尊属から、自宅を新築、増改築等するための資金を贈与された場合、要件を満たせば、限度額までは非課税です。この限度額が、2019年3月末までは、一般住宅700万円(基準を満たす省エネ等住宅1,200万円)まででしたが、4月以降2020年3月31日までに契約した場合は、消費税が10%適用される物件は2,500万円(同3,000万円)まで拡大されます。実際には、基礎控除の110万円をプラスした3,110万円までの贈与が非課税です。
贈与を受ける子や孫は1月1日時点で20歳以上、合計所得額2,000万円以下で、贈与を受けた年の翌年3月15日までに自分が住む家であること、床面積が50m2以上240m2以下で、床面積の1/2以上が居住用であることなど、条件があるので確認しましょう。要件を満たす物件であれば、中古住宅も対象です。
非課税の適用を受けるには、贈与を受けた翌年2月1日~3月15日の間に、贈与税の申告書やその他の必要書類を税務署に提出しなければいけません。この手続きを忘れると、非課税での贈与は受けられませんので注意が必要です。
売主を個人とする中古住宅の場合は、建物に消費税は課税されず、下表では「それ以外」に該当します。一定要件を満たせば、住宅取得資金の贈与の特例も受けることができます。
家屋の取得に関する契約日 | 省エネ等住宅* | 一般住宅 | ||
---|---|---|---|---|
消費税率10% | それ以外 | 消費税率10% | それ以外 | |
~2019年3月31日 | - | 1,200万円 | - | 700万円 |
~2020年3月31日 | 3,000万円 | 1,200万円 | 2,500万円 | 700万円 |
~2021年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 500万円 |
~2021年12月31日 | 1,200万円 | 800万円 | 700万円 | 300万円 |
*一定の耐震性能、省エネ性能またはバリアフリー性能等を有する住宅
20年以上連れ添った夫婦間の居住用不動産の贈与
婚姻期間が20年超の夫婦の間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与した場合、110万円の基礎控除のほかに、最高2,000万円までの配偶者控除が利用できます。つまり、2,110万円までは非課税で贈与を受けられます。
ただし、贈与を受けた翌年3月15日にはその家に住んでいて、その後も住み続けることが条件です。この贈与は、同じ配偶者からは一生に1回のみです。税務署への申告も必要ですのでお忘れなく!
父母や祖父母からの教育資金の一括贈与で1,500万円まで非課税
30歳未満の子・孫への教育資金の一括贈与は、1,500万円までなら非課税で行うことができます。対象となる「教育資金」には、学校に納める入学金や授業料、給食費や修学旅行の費用なども含まれます。塾やお稽古ごとなど学校以外の支出は500万円まで対象です。
贈与をする父母や祖父母が信託銀行などに子・孫の名義の専用口座を開設し、贈与する資金を預けることで贈与が完了します。資金を引き出すには、金融機関にかかった領収書を提示します。子や孫が30歳になった時点で残った額がある場合は、贈与税の対象になります。次項の結婚・子育て資金の一括贈与との併用も可能です。
この制度は2021年3月末まで延長されましたが、次の点が変更されます。
<2019年4月~>
・贈与を受ける子・孫の前年の合計所得額は1,000万円以下という条件が追加
・23歳以上の子・孫に贈与した後に父母や祖父母が亡くなった場合、死亡前3年間の贈与のうち、教育費として使わずに残った分は相続財産として課税
<2019年7月~>
・23歳以上の子・孫はスキルアップにつながる講座や大学・大学院などに限定され、趣味やスポーツなどの費用は対象外
結婚・子育て資金の一括贈与は1,000万円まで非課税
20歳以上50歳未満の子・孫への結婚・子育て資金の一括贈与は、1,000万円まで非課税です(結婚資金は300万円まで)。対象となる「結婚資金」は、挙式や結納、新居を借りる資金、引越し費用などで、「子育て資金」は、妊娠・出産や不妊治療にかかる費用、産後ケアの費用、小学校入学前の子の医療費や保育料・幼稚園代など。
贈与をする父母や祖父母が金融機関に子・孫名義の口座を開設し、一括して資金を預け入れます。資金を引き出すには、金融機関にかかった領収書を提示します。
期間中に贈与者が亡くなったときは、残額は相続税の対象になります。また、子・孫が50歳になった時点で残額があるときは贈与税の対象になります。前項の教育資金の一括贈与と併用することもできます。
制度は2021年3月末まで延長されるとともに、次の点が変更になりました。
<2019年4月~>
・贈与を受ける子・孫の前年の合計所得額は1,000万円以下という条件が追加
「相続時精算課税の特例」は慎重に選択を
生前贈与の手段として、もう1つ、「相続時精算課税制度」もあります。60歳以上の父母・祖父母から、20歳以上(2022年4月1日以降は18歳以上)の子・孫に贈与をした場合に利用することができる制度です。
用途に関係なく、累計2,500万円までは非課税で贈与することができ、2,500万円超は20%の贈与税を支払います。この制度を利用する場合、贈与を受けた翌年の3月15日までに贈与税の申告を行う必要があります。
実は、この制度の本質は相続であり、相続が発生した時に「精算」をします。贈与者が亡くなると、相続時精算課税制度で贈与を受けた分も贈与時の価格で相続財産にプラスして相続税を計算します。将来的に値上がりするものを贈与するのであれば節税にもつながります。
この制度を利用する際の注意点としては、1度この制度を利用してしまうと、その後は前述の暦年贈与が使えなくなってしまいます。よく検討してから利用することが大事です。
生前贈与をする側の老後資金不足に注意
5つの生前贈与を見てきましたが、贈与する側も贈与を受ける側も、こうした制度があるからとあげすぎたり、あるいは、もらいすぎたりしないように注意が必要です。
親や祖父母の資産状況によっては、贈与をしたことで、将来の老後資金が不足する結果に陥ることもあり得ます。しっかりと、老後資金・介護資金分を残した上で、さらに余裕があるならこうした生前贈与を考える、という順番を忘れないようにしましょう。自分で判断ができないときは、専門家に相談することも大事です。
ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー
FPラウンジ ばっくすてーじ代表。経済誌・女性誌等のライターを経て94年よりFPとして独立。「家計の永続性」をテーマに、個人相談や講演・研修、雑誌や新聞、サイトへの寄稿、監修などを行う。「住宅ローン賢い人はこう借りる」(PHP研究所)、「50代家計見直し術」(実務教育出版)など著書多数。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。
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