不動産投資コラム

物件選びで利回りを追求する人は多いのですが、借入金利を極限まで下げようとする人はあまり見かけません。
それよりも、融資してもらえるかどうかが先決で、金利や融資条件は二の次になってしまう場合もあるのでしょう。でも・・・

金利はマイナスの利回りとして考えよう

確かに融資してもらえなければ物件は入手できませんので、最初は仕方がないかもしれません。しかし物件を購入すると、当然その金利は家賃収入から支払うことになりますので、最終の手取り額に大きく影響してきます。

以前のコラムでもお話しましたが、借入金主体の投資はイールドギャップ、つまり借入金の金利と投資物件の利回りの差がポイントなのです。

金利は"利回りに対してマイナスに作用する"、端的に言えばマイナスの利回りなのです。

また、金利が低くても他の融資条件、たとえば返済期間や自己資金必要額が違ってくれば、購入後のキャッシュフローの状況やROI(投資利益率)なども大きく違ってきてしまいます。その点のバランスも考えなければなりません。

金利は何で決まるのか

融資条件には返済期間や、自己資金の割合などの条件もありますが、今回は金利を中心に考えてみましょう。

さて、金利は何で決まるのでしょうか。金融機関に尋ねると様々な基準を紹介してくれます。例えば、プライムレート、短・長期プライムレート、新短・長期プライムレートなどの言葉を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。

プライムレートとは最優遇顧客である信用度の高い企業に適用される、最も低い貸出金利のことです。その中で返済期間が一年以内のものを短期プライムレート、一年より長いものを長期プライムレートと言い、従来は公定歩合に連動していました。
現在は市場の金利動向に基づいて決められるようになりましたので、従来の公定歩合連動と区別し新短期プライムレート、新長期プライムレートと呼ばれています。

このような一見非常に根拠のある基準をベースに、物件の担保価値や融資申込者の属性、資産背景などを加味して適用金利が決定される
しかし、私自身は、このような説明をまったく信じていません。

コピー1枚が金利を変える

金融機関というと、きれいな店舗で仕事はシステム化され、例外は許されないような印象を受けるかもしれません。確かに窓口に行って様々な手続きをすると、一字一句間違えないように正確に事務をこなしているのも事実です。
しかし、その事務の正確さと同様に金利などの貸付条件も厳密な規定があって決まっているかというと、実態はそうではないようです。

こんなことがありました。

ある金融機関が融資の勧誘に来ました。今まで取引のなかったところなので、どの程度の金利で融資してもらえるか興味があり、自分が他行で借りている金利は伏せて、ある売物件の資料を渡して融資条件を提示してもらうことにしました。

出てきた結果は3%台と、私の考えていた条件とはかけ離れたものでした。

そこで、2%を切る他行での融資条件を教えると「申し訳ありません。その借入明細書のコピーをいただけませんか」と頭を下げるので、そこまで言うのなら、とコピーを渡しました。

すると翌日、その営業マンがやって来ました。「支店長と打ち合わせした結果、金利は合わさせていただくことになりました」という回答です。

金融機関の特徴とは

これは極端な例かもしれませんが、この出来事は私の金融機関に対する見方を変えました。
この例から金融機関の行動には、次のような特徴があるように思えます。

*形式主義
一般的に組織の人間であれば、その組織の定める一定の判断基準にそって職務を行います。

特に金融機関では、その基準や形式が詳細に定められています。そのため、一般的な顧客に対しては定型的な対応が基本となります。
初めて融資の勧誘に来た営業マンの、最初の条件提示がこれに当たります。

*判断基準の可変性と裁量の存在
しかし、その判断基準はひとつではなく顧客の状況によって、詳細に分かれています。
また一旦決まった基準も絶対的なものではなく、経済状況や金融機関の営業方針によって変更されます。

つまり、どんな顧客であるかの判断が変わると適用される基準も変わり、顧客自身が変わらなくても営業方針が変われば判断も違ってきます。

どんな顧客なのかは、平たくいえば顧客のランク付けを行内で行うことになりますが、その判断は硬直したものではありません。ここに裁量が入る余地があるのです。

私の場合は他行での融資条件がその判断に大きく影響を与えたのでしょう。つまり、どんな基準にも裁量は存在し、適用金利や返済期間などは決まっているようであっても、裁量の幅も大きいと思われます。

*トップダウン
裁量は、上席ほど大きくなるため、上司の考え方によってその範囲が変わってきます。つまり、上司が了解さえすれば担当者はそのとおりに動くのです。

私の場合は、支店長がOKしたからこそ安い金利の提示ができたのです。

*横並び
金融機関の主要業務はお金を預かり、融資することです。しかし、その業務での金利に差があるだけで、当たり前ですがお金自体はどこでも同じです。

条件を揃えなければ顧客は検討してくれないことは自明のこと。競争したいのなら、裁量の部分で他行の判断に合わせざるを得ないのです。
その結果、もっとも条件の良い金融機関の条件に揃ってくる、横並びの傾向があります。

特徴から考えた交渉術

では、この特徴を踏まえて金利交渉・融資条件交渉はどうすれば良いのでしょうか。新規の案件で最初に活用すべき点はトップダウンです。
トップダウンは金融機関の組織の要です。つまり、交渉はできるだけ上席と直接コンタクトをとるほうが有利となります。
そのためには、知人や仲介不動産会社などの紹介で、なるべく上のポジションの窓口を捜すことが有効なのです。

そして、窓口が決まったら横並びの意識を利用し、他行での有利な融資実績があればその事実を活用しましょう。
常にライバルとなり得る金融機関を意識させ、競争意識を持たせることによって、より良い条件を引きだせる可能性があります。

初めて融資を受けるときには

しかしこれは、すでに他行での融資実績があることが前提条件。初めての投資から競合させることは難しいことでもあります。
最初にできることはトップダウンという組織を活用することに限定されます。金融機関に知り合いがいない方でも、不動産会社からの紹介が複数あれば、多少は競合の意識が働くことになるかもしれません。
ただし、一棟目から優遇された条件提示は難しいことも事実です。物件の購入を第一と考えるのであれば、物件の魅力とのバランスを考え、一定レベルでの妥協も必要になります。

購入後も粘り強く交渉しよう

融資条件の交渉は、購入してしまったらおしまいということではありません。
購入後、順調に運営し残債も減っていけば他行への借換えの打診と合わせ、融資行への金利引下げ交渉も可能になる時期が来ます。
融資金利、つまりマイナスの利回りとしての金利を下げさせる努力をすることも、不動産投資を成功させるひとつのポイントなのです。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。

 

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