不動産投資コラム

新築物件と中古物件の比較(3)~中古物件特有の利点~

前回まで、家賃の見方によって新築物件と中古物件の比較をしてきました。これは数値によってどちらが有利になるか判断が分かれます。しかし、実は中古物件だからこそ得られる利点があります。
今回は、新築では得ることが困難な"中古物件の利点"についてお話します。

数年前に私が購入した物件について

これは、私自身が数年前に購入した中古マンションのお話です。ただし、同様に類似している物件すべてに当てはまることではありませんので、その点はご了承ください。

その物件は大学生向け築19年の鉄筋コンクリート造マンションでした。表面利回りは10%程度、ほとんど手入れされておらず、大規模修繕も必要でしたので、修繕費も考慮すると9.5%程度です。

ただし、修繕をすれば多少の家賃値上げも見込めそうでした。(実際購入後は少しずつ利回りがアップしています)

とはいえ、極端に利回りが良いわけではなく、それなりの立地とそれなりの利回りなので、最初はどうしても欲しいという気持ちにはなりませんでした。

担保評価も十分、銀行も積極的に

また、この物件は土地も広く、建物も鉄筋コンクリートということで銀行の担保評価も高かったですが、購入のためには多少の自己資金は必要でした。
それでも融資内諾もすぐに貰えたため、購入する方向で検討をすることにしました。

私の場合、購入検討をするときにはエクセルで自作した長期シミュレーション表に必要な数値、たとえば家賃、借入金額、金利、管理費、空室率などを入力していきます。

そして、最後に所得税などの税金を支払ったあと、本当に手元に残る現金、つまり税引き後の手取収入がいくらになるのかで最終判断をしています。そこで、この物件が中古だからこそ得られる利点がわかり「この物件は買いだ!」と決心したのです。

では、その中古物件だからこそ得られる利点とはなんだったのでしょうか。その利点を判断するポイントは「建物減価償却費」「個別に判断することができるか?」です。

ポイント1 建物減価償却費とは

不動産投資の場合、一般的に経費として認められるものには、管理費、固定資産税、修繕費、支払金利などがあります。これらの経費は当たり前ですが「支払金額=経費」となります。

上記にあげた管理費、固定資産税、修繕費、支払金利のような経費以外で大きな金額となるのが、建物減価償却費です。
建物減価償却費とは、単純に言えば建築にかかった費用をその建物の法定耐用年数で割り、その値が一年間に経費として計上できる金額となります。
たとえば新築の鉄筋コンクリートマンションを9,400万円で建てた場合、耐用年数は47年ですから9,400万円÷47年=200万円が毎年減価償却費として計上できる金額です。

中古物件の建物減価償却費は個別判断ができる

しかし、先ほどの例は新築物件の場合です。中古物件の場合は一般的に土地、建物合計で売買価格が決まっています。

売主が消費税の課税業者であれば、建物には消費税が課税されるため、消費税額で割り戻すことによって建物価格が判明します。 また、最初から建物と土地を分けて表示されているのであれば、それに拘束されますが、それ以外は申告時に建物価格を「個別に判断する」ことになるのです。

そして、この個別判断こそが中古物件特有の利点なのです。

ポイント2 個別判断の方法とは

とはいえ、勝手に建物と土地の価格を決めて良いということではありません。その算出には合理的な根拠が必要となります。
一般的には固定資産税評価の土地価格、建物価格を按分して建物の購入価格を算出される方法がとられています。

たとえば、評価額が土地6,000万円、建物3,000万円で購入価格が1億2,000万円であれば、建物価格は1億2,000万円×{3,000万円÷(6,000万円+3,000万円)}=4,000万円となります。

しかし、評価の方法はこれだけではありません。

たとえば、売主は売却の前年まではその物件の税務申告をしていますので、その申告書の建物償却の表に掲載されている未償却残高の金額を参考にしたり、その物件が新築された当時の建築費を建築面積から積算し、償却年数分を差し引いた残価(計算上残っていると思われる建物の価値)を考慮して評価することも合理的な根拠だと言えるのではないでしょうか。

このようにして建物の評価を「個別に判断」し、その金額が妥当で毎年の建物減価償却費が大きく落とせる場合は、税引き後手取収入に大きく貢献する場合があるのです。

税引後の効果は税率が大きく作用する

私の場合、物件も増え、家賃収入も増えていくと同時に所得税率も上がってきています。

この中古物件の利回りは平凡でしたが、税引後の収入から見ると、利回りが高い他の物件と遜色がなかったのです。

このように税率が上がってきた場合には物件の利回りだけでなく、税引後の収入について注意を払う必要があります。中古物件の中には、減価償却の個別判断によってお得になる物件も存在しているのです。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。
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