前回は、「新築物件」と「中古物件」の家賃の注意点をお話しました。特に新築は、新築プレミアムや想定家賃に対して留意することが必要なのですが、だからといって新築プレミアムがすべて危険ということではありません。
新築家賃の特徴を理解し選択して投資することができれば、非常に効率の良い投資となる場合もあるのです。
今回は、新築家賃の特徴から、新築物件の検討ポイントについてお話します。
新築は最初の入居状況が大きなヒントになる
「新築物件 満室!」
この様な広告を見たことがありませんか? "新築"でしかも"満室"は、なかなか魅力的に映るのではないかと思います。
しかし、賃貸業界の方ならこう思われるのではないでしょうか。
「新築物件で満室は当たり前、強調するほどのことではない」
そして、こう質問するかもしれません。
「いつ満室になったのですか?」
「申し込みの時期はいつですか?」
入居申し込みと家賃プレミアム
なぜ、満室になった時期、申し込みの時期にこだわるのでしょうか。
それは、その状況によって、プレミアムがどの程度上乗せされているかがわかるからです。
たとえば、新築プレミアムがなく、家賃が築10年程度の物件と同じだったら、築10年の物件に住んでいる人も移りたくなるでしょうし、部屋を探している人も同じ家賃なら新築を選ぶでしょう。
ですから、プレミアムをつけていない家賃であれば完成の数ヶ月前には入居が確定しているものです。
この場合は、新築物件といっても家賃が上乗せされていないわけですから、数年後に入居者が入れ替わったとしても家賃は大きく下がることはないと予測できます。
完成後、数ヶ月以内に全室入居が決まる場合は、実際の部屋を見て「ちょっと高いけれど新築だからなぁ」といった形で、新築というプレミアムに納得して、入居が決まっていったものと予想されます。ごく一般的な新築プレミアムが上乗せされているケースです。数年後に入居者の入れ替えがあれば、プレミアム分の家賃が下がることを予測して収支を検討する必要があります。
新築でも、完成後満室になるまでに半年以上かかったり、一部の部屋が未だに空室の場合はどうでしょうか。
この場合はあきらかに新築プレミアムが過大で、その家賃設定が賃貸市場から支持されていないことを表しています。
それでも「他の部屋は決まっているから家賃設定は適切、たまたま決まっていないだけだ」という主張も出てくるかもしれません。実際、本当に運がないだけなのかもしれませんが、大半の場合は注意が必要です。
たとえば、私が物件を検討していたとき、こんなケースがありました。
だれのお金で家賃を払うのか
私がある新築物件の資料を入手したときのことです。完成後半年で全6室のうち4室が入居済ということでした。
営業担当者は「入居者はいずれも一流企業にお勤めのサラリーマンです。入居者を厳選していますから、多少の時間はかかっていますが、残りの2室もいずれ決まるでしょう」と説明しています。
でも、私には入居者を厳選しているから入居が決まらないのではなく、家賃設定が高いから決まらないように思えるのです。
しかし、実際に一流企業のサラリーマンが入居していますので「実際にその家賃で入居が決まっている」ことも事実です。
今の状況をどう考えたら良いのか、判断に迷うところです。
そこで、その一流企業の名前をじっと見つめていると、ある仮定が浮かんできました。その仮定が正しいか、その一流企業を新卒者向けの求人情報サイトで調べ、ある項目から確認してみたのです。
入居者に共通する特徴とは
ある項目とは、その一流企業4社の福利厚生、とくに住宅手当の条件です。その4社は私の予想どおり、住宅手当が一般の会社に比べて充実していたのです。
つまり、こういうことです。
【疑問】
・家賃設定は新築というプレミアムを考慮しても高い設定となっている。
・しかし、その家賃でも実際に入居している人がいるのはなぜか。
【仮定】
・家賃を払うといっても、すべて自分の収入から払う人ばかりではない。
・この物件の入居者はすべて住宅手当が充実している。つまり家賃の一部、場合によっては大半が本来の収入以外の住宅手当などの補助によって賄われていると考えられる。
【結論】
・実質的に家賃の一部しか負担しないのであれば、入居者は家賃総額の多寡ではなく自己負担額で入居を判断する。そのため高額な家賃設定でも入居することはありえる。
つまり、自分のお金で家賃を払うのか、それとも会社が出してくれるのかによって、入居するかを判断する家賃の上限は変わってくるということです。
これは仮定の話ですので、真相はどうかわかりませんが、当たらずとも遠からずというところではないでしょうか。
高すぎる家賃設定に注意
この例の場合、確かに一流企業のサラリーマンが入居していますから、家賃も正しいという主張は成り立つかもしれません。しかし、その家賃は住宅手当などが充実している一握りのサラリーマンのみが認める家賃であり、すべての人が認める家賃ではないのです。
入居者として見込めるのは住宅手当が手厚い一握りのサラリーマンのみです。この家賃設定で住める人は限られ、そのため完成後半年経っても2室の空室があるのは運が悪かったのではなく、当然の結果とも考えられるのです。
プレミアムをどこまで見込むのか
このケースの場合は、たまたま半年経っても空室が存在していたという事実から、家賃設定が過大であるという推理にたどり着いたのですが、運の良い物件でしたら、過大な家賃でも数ヶ月で満室になることもあります。そうすると、一般的に想定される新築プレミアム以上の家賃が正しいものとされ、次の入居者のときに大きく家賃が下がるか、家賃を下げなければ長期間の空室になる可能性が高くなるのです。
そこで、新築家賃が適切かどうかを判断するポイントとして私は次のふたつの点に注意しています。
*契約形態に注意
先ほどの物件は個人契約でしたので、ある程度調べることが必要になりますが、賃貸契約に法人が多い場合は従業員の社宅として借りているケースが大半です。現在の経済状況では経費節減のため家賃も必要最低限に抑えるようになっていますが、個人が払うお金と会社が経費として払うお金では後者のほうが甘くなる傾向があります。つまり、法人契約が多い物件ほど現在の家賃水準は割高になっている危険性があるということです。
*新築で空室の物件に注意
重ねてお話しますが、新築物件は満室が当たり前です。空室があるのであればなんらかの問題が存在していると考えるのが自然です。そして、その問題の大半は家賃設定にあります。
新築物件の検討方法
では、最後に私が実際に新築物件を検討するときのポイントをお話しましょう。
私が新築物件を検討するときは、今の家賃は参考程度に留めています。つまり、現在の家賃で収支を計算することはしません。その代わり、同程度の物件で5年から10年程度経過したものの家賃をネットで調べ、また不動産屋さんにヒヤリングして相場を予測します。その相場がわかれば、現在の家賃との差が新築プレミアム、そしてその相場で計算した収支はその物件の将来の収支に近いものとなるのではないかと思っています。
不動産投資は将来を予測する知的な投資です。そのためには目の前の事実だけにとらわれてはいけないのです。