不動産投資コラム

新築物件と中古物件の比較(4)~利回りの比べ方~

A物件: 利回り12% ただし築20年
B物件: 新築物件! でも利回り7%

もし立地、構造、間取りがまったく同一だとしたらあなたはどちらを選びますか。
「家賃収入が多いほうがいいからA」
「耐用年数が長い新築の方が結局は得になるはず。だからB」
どちらにも一理があり、悩んでしまうのではないでしょうか。
そこで、新築と中古の違いと、どのように比較をしたら良いのかを考えてみましょう。

キャッシュフローから考える新築と中古の違い

物件をローンで購入した場合、その支払いは毎月の家賃から返済することになります。
もし、返済額より家賃収入が多ければ、その差額は手元に残りますし(キヤッシュインフロー)、足りなければ自己資金で補うことになります(キャッシュアウトフロー)。

A、B物件を返済期間20年、金利3%のフルローンで購入した場合、A物件は家賃からローン返済をしても一定のお金は残ります。

一方、B物件は家賃を全額返済に回しても不足が発生する可能性が高いので、不足分は自己資金で賄うことになるでしょう。
つまり、キャッシュフローの点だけに着目すればA物件のほうが有利なようにも思えてきます。しかし、これは購入当初の状態を表しているだけにすぎません。

不動産投資は状況の変化が非常に緩やかな投資なので、"今"の状態が良いことが良い投資であると考えてしまいがちです。
でも、この例のローン期間は20年間です。ということは、これからの20年間、そして20年後の状況を考えてみる必要があるのです。

20年後にはどうなる?

では20年後はどうなっているのでしょう。実際には社会環境の変化を考慮しなければなりませんが、仮に経済的な環境は変らないという前提で考えてみます。

A、Bどちらもローンは完済しています。
Aはローンを返済しながらキャッシュフローも得られているはずですから、完済時には築40年の物件と累積されたキャッシュフローを得ています。

一方Bもローンは完済していますが、元々の利回りが低いため、家賃で賄われなかったローン返済は自己負担することになります。そうすると20年後は次のような収支になるでしょう。

【20年後の収支】
A・・・「築40年の中古物件」+「20年間の累積キャッシュフロー」
B・・・「築20年の中古物件」-「ローン返済のための追加自己負担金額」

A物件は築40年とはいえ、累計のキャッシュフローがあります。
B物件はマイナス累計があったとしてもまだ築20年。築40年の物件より耐用年数は残っています。
さて、どちらが有利なのでしょう。

新築と中古の比較は数値化から

このように、その物件の置かれた状態を比べようとしても、20年後は築20年と築40年の物件を比較しなければならず、これではいつまでたっても平行線、答えは見つかりません。

そこで、比較をする方法として、私は「条件を統一して数値化してみる」ことが有効ではないかと考えています。このA、Bどちらか一方に条件を統一することによって、その条件のときに数値としてどちらが有利なのかを判断すれば良いのです。

では、実際にどうしたら良いでしょうか。そこで私はBをタイムマシンに乗せて(架空の話です)、Bが築20年になったらどうなっているのかを考えてみました。

Bをタイムマシンに乗せるとは

新築物件Bは20年間経過すると築20年の物件Aとイコールになります。ですから、その20年間のBのお金の動きを考えれば良いことになるでしょう。

そうすると、Bの20年後の収支は
築20年の中古物件」-「ローン返済のための追加自己負担金額」
つまり、新築Bを購入した人は、追加自己負担金額で築20年のB物件を購入したことになります。

築20年のB物件は最初の前提である築20年のA物件と同じ条件になりますね。

B物件を購入した人が20年間で支払った追加自己負担金額が、A物件の価格より高くなればA物件のほうが有利であり、低くなればB物件のほうが有利な投資となるのです。

B物件 20年後の収支はこうなる

B物件は新築で利回り7%(管理費用控除後家賃を7%とします)が前提となります。
では具体的に数字で考えてみます。次の物件を購入したらどうなるでしょう。

B物件
区分所有物件
新築 鉄筋コンクリート造
物件価格 諸費用込2,500万円(建物1,500万円土地1,000万円)
家賃 初年度 年間175万円(管理費等を除いた手取り家賃)
固定資産税 18万円
修繕費 年平均12.5万円
家賃見込 年間1%下落を見込む
利回り 7%
購入資金 フルローン 元利均等3% 20年払い
購入者の税率 20%

この物件を購入した場合のキャッシュフロー概算は次のようになると思われます。

キャッシュフロー計算の一例
1年目 5年目 10年目 15年目 20年目
想定家賃収入 175.0 168.1 159.9 152.0 144.6
固定資産税 適用金額 18.0 18.0 18.0 18.0 18.0
営繕費用 適用金額 12.5 12.5 12.5 12.5 12.5
実質手取額(返済前) 144.5 137.6 129.4 121.5 114.1
借入金返済額(年間) 168.0 168.0 168.0 168.0 168.0
税引前キャッシュフロー ▲23.5 ▲30.4 ▲38.6 ▲46.5 ▲53.9
申告所得額 39.8 44.6 53.0 64.5 79.0
税引き後キャッシュフロー ▲31.5 ▲39.3 ▲49.2 ▲59.4 ▲69.7
税引き後キャッシュフロー累計額 ▲31.5 ▲177.1 ▲403.6 ▲680.3 ▲1008.6

購入当初は返済のため約32万円が必要になります。さらに家賃が毎年1%ずつ下落し続けた場合には最大で約70万円を自己負担することになります。このマイナスのキャッシュフローを見れば、有利な投資とは思えないかもしれません。

でも、これはキヤッシュフローだけに注目した見方です。 確かにキャッシュフローはマイナスなのですが、それはローン返済を家賃で返し、不足している金額がマイナスになっているという点を忘れてはいけません。

言い換えると、この2,500万円の物件をキヤッシュフローのマイナス分だけで購入しているということにもなるのです。

20年後の収支は

この物件を購入した場合のマイナスのキャッシュフロー累計は合計で約1,009万円です。つまり、20年後の状態は、「築20年の物件を1,009万円で購入した」ということになるのです。

その20年後、家賃が新築時から20年間毎年1%ずつ下落していくと仮定した場合の年間家賃収入は145万円です。

現時点で新築・利回り7%の物件を購入することは、20年後に年間家賃収入145万年円の築20年の物件を1,009万円で購入することと同じになりますから、20年後の利回りは次のように計算されるはずです。
145万円÷1,009万円=14.37%

A物件 B物件 どちらが有利か

つまり、冒頭の
A物件: 利回り12% ただし築20年
B物件: 新築物件! でも利回り7%
のどちらが有利かの答えは、
「B物件は20年経過すると、築20年 利回り14.37%になるため、B物件が有利」という結論になるのです。

※本計算は投資シミュレーションソフトお宝不動産鑑定ツールリアルキャッシュフローで計算しています

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。

 

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