不動産投資コラム

実際の取引事例における路線価倍率 ~オフィス編~

実際の取引事例における路線価倍率 ~オフィス編~

不動産の売買価格の検討・査定において、相続税路線価は一つの基準として参考にされることが多くあります。一般的に、相続税路線価は公的価格の8掛け水準と言われるためですが、もちろん「公的価格=時価」ではなく、また常に「公的価格×0.8=相続税路線価」という訳でもありません。

地域やアセットタイプによっても異なりますが、実際にはどの程度の水準なのでしょうか。REITの取引事例から、前面相続税路線価に対する実際の取引価格の倍率(以下、「路線価倍率」)を調査しました。

I.調査方法

本調査は、REITのプレスリリースを用いて行いました。具体的な手順は以下のとおりです。

①REITの取引事例(プレスリリース「資産の取得に関するお知らせ」など)より、各物件の売買価格、土地比率を抽出する。
②取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
③ ②を土地面積で割り、土地単価を算出する。
④ ③を取引年の相続税路線価で除し、路線価倍率を算出する。

(例)PMO田町東の場合
取得価格109億円、土地比率79.8%、地積965.44m2、路線価2,700千円/m2
⇒ 土地価格 = 109億円 × 79.8% = 86億9,820万円
⇒ 土地単価(m2)= 86億9,820万円 ÷ 965.44m2 ≒ 9,009,571円/m2
⇒ 路線価倍率 = 9,009,571円/m2 ÷ 2,700,000円/m2 ≒ 3.34倍

II.路線価倍率の検討

はじめに、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡の5都市における取引事例について、路線価倍率を算定します(末尾「集計データ」参照)。

この集計データをもとに、路線価倍率の中央値を都市別に集計しました。都市別に多少の差は出たものの、地価の順に並ぶなどの結果にはならず、傾向は読み取れませんでした。

つづいて、路線価倍率の中央値を、都市別かつ路線価水準別に集計しました。

全般的に路線価水準が高いほど路線価倍率は低くなり、路線価水準が低いほど路線価倍率は高くなる傾向があることがわかりました。

3,000千円/m2~以上に多いSクラスビルは、共用部の充実などから収益性が下がり、路線価倍率が低くなる場合があるほか、関連会社間の取引で価格が抑えられている事例がありそうです。また、東京以外の事例では、都市最大の主要駅・オフィス街至近の物件(オリコ博多南駅前ビル、MIテラス名古屋伏見)以外、路線価倍率が4倍以上となるものはありませんでした。

なお、名古屋については、路線価水準が低いほど路線価倍率も低くなっています。500千円/m2以下の1事例は、大通り背後の住宅や店舗が混在するエリアで高めの利回りで取引されたようです。また、500~1,000千円/m2は東京を上回る倍率となっていますが、2事例(3.51倍と5.23倍)の収益面などは標準的ですので、路線価額がオフィス相場としては抑えられていることにより、路線価倍率が高くなっている可能性があります。

最後に、路線価倍率に差が生じる理由について確認します。

また、相続税路線価とはその名の通り、土地の相続税の算出に使用されることもある価格です。そのため、路線価倍率が高いほど、つまり実際の取引価格が路線価水準より高ければ高いほど、相続税の圧縮効果が大きくなります。相続税対策のために不動産購入を検討している場合には、路線価倍率が高い物件の方がおすすめと言えるかもしれません。

東京パークサイドビルは、大通りには面していないものの、大通り沿いの物件と同様のオフィス賃料が維持できている物件です。東京パークサイドビルが所在するエリアは、純粋なオフィス街というよりは、オフィスビル、住宅、事業所等が混在するエリアで、前面道路の路線価は低い水準に抑えられています。このようなエリアに所在する物件は、路線価倍率が高くなりやすいと言えます。

一方、東京サンケイビルは、大手町駅に直結し大通りに面しています。複合高層ビルが立ち並び、都内有数のオフィス街であるこのエリアは、前面道路の路線価が10,000千円/m2を超えます。このようなエリアに所在する物件は、路線価倍率が低くなる傾向があることがわかりました。

III.まとめ

上記の調査結果より、東京とそれ以外の都市について、路線価倍率の相場は以下のとおりです。

まず、東京について、路線価額が500千円/m2以下のエリアは路線価倍率5倍以上、500~3,000千円/m2のエリアは約3~3.5倍、3,000千円/m2以上のエリアは2倍以下となりました。

仙台、大阪、福岡では、500~1,000千円/m2のエリアは路線価倍率約2.5~3倍、1,000~3,000千円/m2のエリアでは約1.5倍となることがわかりました。

上記相場が全ての物件についてあてはまる訳ではなく、実際の取引においては精査が必要ですが、マーケット水準を知るひとつの目安となるでしょう。

※集計データ

※内容は2020年7月31日時点のものです

 

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