我が国の住宅数はすでに世帯数を上回っており、増え続ける「空き家」が管理面や収益物件の採算性の悪化等を中心に社会問題になっています。そこで今回は「空き家」をテーマとし、将来的な不動産市場の影響につき検討したいと思います。本レポートは空き家の状況について整理します。
<サマリー>
・「空き家」はまったく使われていない住宅ではなく、居住世帯のない住宅と定義されていて倉庫や週末のみ利用する住宅等も含まれる。
・平成30年の全国の空き家率は前回調査(平成25年)と比較して10ベーシスポイント悪化して13.6%。空き家率が低い地域には空き家率自体が改善された地域が多い。
・1990年代の大量供給時代の物件が築40年を超える20年後には「その他」カテゴリーの空き家が大量に発生し、より大きな課題となる可能性がある。
・空き家問題への対応のため「空き家対策の推進に関する特別措置法」「不動産登記法改正による相続登記の義務化」「民法の改正」「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」等法制面の整備が進んでいる。
I.「空き家」の状況
1.空き家の定義
空き家の調査は5年に一度の住宅・土地統計調査(総務省)によって行われており、直近は平成30年になります。
総務省の定義では空き家は居住世帯のない住宅とされ平成30年度調査で8,489千戸、そのうち51%が「賃貸用の住宅」、41%が「その他の住宅」、残りが「二次的住宅」と「売却用の住宅」となっています。各々の区別については以下の通りです。
したがって、空き家といってもすべてが売りにだされていたり、賃借人を募集していたりするものではなくとりあえず倉庫に使っている等の利用方法でもその中に整理されることになります。
また多くの公表資料では棟ベースではなく、戸ベースで数値があらわされます。したがって空き戸数の多いアパートが一戸建てに建て替えられれば、空き家が減少することとなりますから、空き家率は減少することとなります。
今般、東京一極集中の是正のために二地域居住などが提唱されることもありますが、それが推進されても二次的住宅が増加するにとどまり、放置される住宅が減少するといった「空き家問題」の解消にはつながっても、「空き家率の減少」にはならないこととなります。
空き家の中にはこのように実質的には活用されている状況にあり社会問題として扱うには不適当な住宅も含まれているため、各種統計の中では二次的住宅区分を除いた数値が示されていることもあります。
2.空き家率について
平成30年調査の全国・全ての区分の空き家率は13.6%と、前回の調査より10ベーシスポイント(0.1%)悪化しました。空き家率の低い(居住世帯がある割合が高い)トップ5には首都圏をはじめとする大都市圏が多く、ワースト5には大都市圏以外の県が並んでいます。
調査年度間の変化である改善率(図表I-2④(1-平成30年の空室率/平成25年の空室率))については、トップ5は改善傾向ですが、山梨県・長野県を除くワースト5の多くと大阪・兵庫は悪化傾向にあります。
山梨県は空き家活用ビジネスへの補助金制度の策定、長野県は売買時にインスペクションに対する補助金制度を創設するなど積極的な取り組みが見られます。
次に賃貸住宅(次回レポートでも改めて説明いたします)を取り上げます。
民間賃貸住宅※の空き家率は全国平均で21.4%、主要都道府県では平均20.1%と全国平均より良好な結果となっています。全ての区分ワースト5の賃貸住宅の空き家率(図表I-2-iii⑧22.5%~31.8%)はトップ5(図表I-2-ii⑧13.4%~20.6%)に劣る状況となっています。山梨県や和歌山県は30%を超えており、大都市圏であるにもかかわらず大阪府の空き家率は全ての区分・賃貸住宅の両方で全国平均よりも高くなっています。
賃貸住宅が総住宅数に占める割合は、東京都と沖縄県が41%と圧倒的に高くなっています(図表I-2⑨)。東京都は、学生や転勤などの一時借りのほか、いずれは引っ越しを考えている方々、福利厚生や家賃を経費化できる自営業者等のニーズが多いこと等が考えられます。沖縄県については賃貸志向が強い傾向があることも一因のようです。
※データは全国賃貸住宅経営者協会連合会「民間賃貸住宅(共同住宅)戸数及び空き戸数並びに空き室率の推計」を採用しています。当該データ集計は民営賃貸住宅に限られていますので、公営住宅を含む民営賃貸住宅以外の戸数は反映されていません。
空き家率は
「A空戸数÷B(民間賃貸住宅(共同住宅))総戸数」
で算定されていますがAの空戸数には戸建や長屋が含まれていると思われるにもかかわらず、Bは共同住宅のみで算出されており、戸建や長屋は含まれていません。借家において共同住宅に対する戸建の比率は5%程度(図表Ⅰ-6)になるため、賃貸住宅の空き家率(図表Ⅰ-2⑧)は実際には若干低位となるものと考えられます。
3.空き家の築年数
i.空き家の築年数
国土交通省の「空き家所有者実態調査(回答者ベース)」によると空き家の築年数について築40年を超える昭和55年(1980年)までが69.1%と大きな割合を占めます。また「大都市以外」が「大都市」と比較して築年が古い割合が高くなっています(図表I-4)。
貸家用では昭和55年までの比率が56.9%と売却用やその他といった区分よりも低くなっています。したがって空き家は老朽化した物件に多く、大都市や賃貸物件の空き家はそれ以外と比較して老朽化した物件の比率はやや低いということが考えられます。
空き家にしておく理由(図表I-3)の三番目にさら地にしても使い道がないことがあがっており、さら地にすると使い道が発生する大都市や賃貸物件は積極的に建替えや売却などを行われることが考えられ、そのため空き家でも老朽化した物件の比率が低位となっている可能性があります。
ii.ストック物件の築年数
現在の築年別の住宅ストック総数は図表I-6のとおり築40年を超える1980年以前のものは全体の24%となります。
供給のピークであった1990年代は10年分で1,000万戸を超えるストックがあるため、それらが築40~50年目を迎える10~20年後には、市場性で整理が進む賃貸物件ではなく、とくに「その他の住宅」区分の予備軍の持ち家がより大きな社会問題となることが懸念されます。
※築年不詳のものは参入していませんので総数47,622千戸と図表I-1のストック62,407千戸の約76%の集計結果となっています。
II.「空き家」問題についての法制面での対応
空き家問題に対応するため法制面からも手当がなされています。
平成27年5月には適正に管理されない空き家等が周辺の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることを背景に制定された「空き家対策の推進に関する特別措置法」が全面施行され、市町村が空き家対策を進める枠組みが整いました。
・市町村による空き家等対策計画の策定等
・空き家等の実態把握・所有者の特定等
・空き家等及びその跡地の活用
・管理不十分で放置することが不適切な家屋等(特定空家等)に対する措置
等を柱にしており空き家の活用や除却に対する財政支援措置や税制措置(固定資産税の住宅用地特例の対象からの除外や譲渡所得の3000万円控除)も講じられています。不適切家屋に対する措置も助言・指導、勧告にとどまらず代執行も数多く行われています。
また「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」も2021年4月に公布されました。文字どおり、相続によって取得した土地の国庫への帰属を認める制度ですが、境界確定や10年分の管理費の支払い、建物解体等申請者の大きな負担となる事項も多く、国土交通省の調査の中において空き家のままにしておく大きな理由としてあげられた「解体費用をかけたくない(図表I-3 46.9%)」を勘案すると活用の推進のためには2年以内の施行までに実行性のある制度設計が期待されます。
空き家や空き地には所有者不明不動産もあり、上記の管理の問題のみならず、再開発にも悪影響を及ぼしており、東日本大震災の復興においても大きな課題となったようです。
その対策として、不動産登記法が改正され相続登記の義務化が決定されました。相続登記の義務を怠った場合には過料が処せられることもあり、一定の強制力があるものとなります。3年以内の施行ということもあり、これから詳細や運用が定められていくことと思われますが、再開発の障害の減少も期待されています。
そのほかにも共有物件の所在等不明共有者の持分の取得等の民法の改正等法制面の整備が進められています。これらの整備によりなるべく財政負担が少ない形で空き家問題が軽減されることが望ましいことはいうまでもありませんが、人口動向や今後の空き家予備軍の数を勘案すると地域によってはその道は相当に険しいことが予想されます。