「不動産投資は節税になる」「不動産投資で払い過ぎた税金が還付される」などと耳にすることがよくあります。本当に不動産投資は節税になるのでしょうか?
不動産所得の損益通算
不動産投資が節税になるという理由の一つが、不動産投資で出た赤字を、サラリーマンの給与所得と相殺できるということ(損益通算)です。
給与の場合、毎月源泉所得税という形で、税金が会社から天引きされています。
給与所得が不動産の赤字により減額になることで、払い過ぎた源泉税が戻ってくることになります。
ここで気をつけたいのが、不動産所得が赤字で、キャッシュフローも赤字である場合です。
赤字であれば、確かに税金としては、不動産投資をする前に比べて下がりますが、キャッシュフローまで赤字だと、資産を減らしているだけに過ぎません。
つまり、節税ばかりに目がいって、事業として成り立っていないということです。
まずは、不動産所得が赤字でも、キャッシュフローとして黒字になるような物件を持つことが重要です。
不動産所得が赤字でも、キャッシュフローを黒字にすることは可能です。減価償却によって経費計上を大きくして、所得計算上だけ赤字にするようにします。
短期で償却できるような築年数がとても古い物件であれば、減価償却が大きくなって帳簿上の赤字を作れる場合もあります。
しかし、そもそも償却が短いため、償却が過ぎれば一気に黒字に反転することも忘れないようにしましょう。
さらに、売却する際には、建物の帳簿価額が減価償却が進んだことにより低くなっているために譲渡益が出やすく、譲渡税が課税されることになります。
譲渡所得は、分離課税と言って、他の所得(不動産所得や給与所得など)とは別個に計算をして、税率をかけます。
その算式は下記の通りです。
譲渡所得=譲渡収入-(取得費+譲渡費用)
建物の取得費は、購入代金または建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
課税所得に対して、税率をかけますが、所有期間によって異なります。
譲渡する年の1月1日時点で5年「以下」の所有で税率が39.63%(短期譲渡)
譲渡する年の1月1日時点で5年「超」の所有で税率が20.315%(長期譲渡)
短期で売却した場合は税金が高くなります。
しかし、長期で売却するためには、6年近く保有しなければならないということになります。
では、実際に購入から6年目で売却した場合の税金を見てみましょう。
《前提条件》
給与収入:1,000万円
購入金額:1億円(建物5,000万円、土地5,000万円)、木造築25年
借入金:1億円(金利3.5%、返済期間20年、元利均等返済)
年間家賃収入:800万円
6年目の売却金額:9,000万円
(単位:万円)
※1年目は購入諸経費として300万円計上しています。
※不動産収入に係る税金だけを抽出しています。
※譲渡の税金はわかりやすくするため、譲渡収入と取得費(土地購入費)だけで計算しています。
個人の不動産投資が節税にならない場合
(1)土地の負債利子の損益通算の特例
不動産所得が赤字になる場合には、給与などの他の所得と損益通算(相殺)することができます。
しかし、不動産所得については、赤字になった場合には、「土地取得にかかる借入金の利子については、損益通算の対象にはならない」という規定があります。
土地の借入金の利子については経費にならないということではなく、経費にはなるけれど、赤字になった場合には、赤字分から土地の借入金の利子を控除した金額が、損益通算の対象になるということです。
上記の表の1年目の不動産所得が-1,300万円となっていますが、土地負債利子が175万円あるため、損益通算の対象金額は、1,300万円-175万円=1,125万円になっています。
つまり、1,300万円の赤字のうち、175万円は切り捨てられているということです。
この規定があるため、土地から購入する場合が多いサラリーマン大家さんは、赤字にしても思ったほど節税にならないことがよくあります。
(2)青色申告特別控除
青色申告をすることで、10万円の特別控除が受けられます。
さらに、事業的規模(おおむね5棟10室以上)の賃貸経営をしている方は、複式簿記による帳簿をつければ、10万円に代えて、65万円の控除が認められます。
しかし、赤字の場合には、これらの特別控除が適用できません。
10万円控除もしくは65万円の控除は、黒字の範囲内でしか控除ができないのです。
上記の例で1年目から4年目は不動産所得が赤字になっているため、65万円の控除がありません。
(3)所得控除・ローン控除
社会保険料控除、医療費控除や、ふるさと納税による寄付金控除などの所得控除は、黒字の範囲でしか控除できません。
上記の例で1年目から4年目は、不動産の赤字によって給与所得と合算で0になります。
所得控除200万円あっても、控除する所得がないため、結果的に控除できず0になります。
せっかく、高い社会保険料や医療費を払っても、切り捨てられることになります。
住宅ローン控除も同様です(所得税から控除しきれない部分は住民税から控除できますが、住民税も発生しなければ控除できず、切り捨てになるのです。
(4)青色申告の3年間の繰越控除
青色申告の場合、赤字が出ても3年間繰り越せるという特典があります。
しかし、その後3年間黒字がなければ、控除できるものがなく、切り捨てられてしまいます。
今回の例では、5年目で初めて黒字になっているため、損失の繰越額を5年目で控除することができます。
1年目の赤字の繰越額 780万円-1,125万円=-345万円
2年目の赤字の繰越額 780万円-816万円=-36万円
3年目の赤字の繰越額 780万円-809万円=-29万円
4年目の赤字の繰越額 780万円-803万円=-23万円
4年間の累積の損失は、433万円です。
しかし、1年目の赤字の繰越額-345万円は、3年間しか繰り越しされず、4年目で切り捨てられることになります。
したがって、5年目で控除できる損失は、2年目から4年目の赤字の累積額88万円になります。
法人との比較
上記の例で、法人で購入した場合には、どのようになるのでしょうか?
法人の場合、不動産所得などの区分がないため、不動産賃貸の損と不動産売却の利益など、あらゆる損益と合算して所得が計算されます。
つまり、損益通算が可能です。
また、個人のような損益通算の制限はありませんので、土地にかかる借入金の利子分も含めて全て損益通算の対象になります。
さらに、法人の青色申告者であれば、9年間(平成29年4月1日以後に開始する事業年度は10年間)の繰越控除が認められます。
しかし、赤字でも法人住民税の均等割として最低7万円(地域によって若干異なる場合があります)かかります。
また、個人のような青色申告特別控除額はありません。
個人の納税累計額が405万円に対し、法人の納税累計額は139万円になり、法人の方が税金上、266万円節税になっています。
シミュレーションする条件、金額によって節税効果は異なります。
不動産投資は節税になるという思い込みだけで判断せずに、しっかりとシミュレーションをした上で、節税になっているのか、個人で購入した方がよいのか、法人で購入した方がよいのか判断するようにしましょう。