団体信用生命保険に3大疾病などの特約って、ホントに必要?
2020年10月22日
団体信用生命保険(以下、団信)とは、住宅ローンを返済中の人が死亡または高度障害の状態になった場合に、保険金がおりて住宅ローンの残高を一括して返済してくれるものです。万一の際、残された家族にとって、住宅ローンの返済負担がなくなっているというのは、大きな安心につながるでしょう。
一方、金融機関にとっても、「住宅ローンを返済している人=世帯主」であるケースが多いため、世帯主に万一のことがあった後、住宅ローンの返済が滞り、貸し出した資金を回収できなくなるのは困ります。
そのため住宅ローンを組む際には、団信への加入が義務付けられているのが一般的です。ただし、健康上の理由で団信に加入できない場合や、団信への加入を希望しない場合など、団信に加入しなくても住宅ローンが組める金融機関等も一部あります(フラット35など)。
団信も生命保険の一種ですので、「保険料」がかかります(「掛金」や「特約料」など、呼び名は異なる場合があります)。その保険料は、借入金利に含まれているのが通常で、金利換算で年0.2~0.3%程度となっています。
今回は、近年増加傾向にある団信の特約について、どう考えるのが無難なのかをまとめたいと思います。やはり、保険ですから、保険料負担と受けられる保障(補償)とのバランスを考えることが重要でしょう。
例えば、フラット35の団信(機構団信)の場合、団信に加入しない場合の借入金利が通常の借入金利-0.2%となっています(2020年10月時点)。ということは、通常の団信の保険料(特約料)は、金利換算で0.2%であることがわかります。
さらに、新3大疾病付機構団信にすると、適用金利が+0.24%となります。団信の保険料と合計すると、0.44%(=0.2%+0.24%)になります。
機構団信の新3大疾病付きの保障内容は、がんになった場合と、急性心筋梗塞、脳卒中になって所定の状態に該当した場合に保険金が出て、その時点の住宅ローン残高と相殺されます。ただし、ここで注意が必要なのは、がん、急性心筋梗塞、脳卒中のいずれかになれば必ず保険金が出るというわけではない点です。
がんの場合は診断が確定すれば保障の対象となりますが、上皮内がん(非浸潤がん・食道上皮内がん・大腸粘膜内がん等)や、皮膚の悪性黒色腫以外の皮膚がんは含まれません。近年の一般的ながん保険では、上皮内がんを保障するタイプも増えていますが、団信の特約では保障対象になっていない場合が多いので、注意が必要です。
また、急性心筋梗塞についても、診断されてから60日以上、労働の制限を必要とする状態、もしくは、手術を受けた場合が保障対象となっています。脳卒中についても、診断後60日以上、言語障害、運動失調、麻痺などの状態が続いているか、手術を受けた場合が保障対象となっています。
では、保険料負担とのバランスを考えてみましょう。
原因を問わず、死亡または高度障害の状態になってしまう場合に備える保険料が金利換算で0.2%。一方、3大疾病になって所定の状態になる場合に備える保険料が金利換算で0.24%です。
もう少しわかりやすく説明すると、
「原因は何であっても(3大疾病でも)、とにかく万一のことがあった場合に、残された家族に住宅ローンの支払い負担を残したくない」といった想いに応えるのが団信で、その保険料は0.2%です。
一方、「原因は3大疾病に限定されるものの、そのいずれかにかかって保障の対象となる所定の状態に該当してしまう。ということは、その後は働けないかもしれない。そうなると住宅ローンの返済に困る」といった想いに応えるのが3大疾病の特約で、その保険料は0.24%ということです。
近年は、3大疾病だけでなく、生活習慣病などを幅広く保障するものや、就業不能保障、自然災害補償なども特約として加えられるものが登場しています。その分、保険料の負担が重くなるのが通常ですが、一部の金融機関の団信では、がんの特約のみの場合は金利の上乗せがないところも登場しています。
それらの特約を加入すべきかどうかを検討する際には、保障(補償)内容を細かく見るようにしましょう。どんなときに保険金が出て、どんなときには保険金が出ないのか。そして、保険料負担はどの程度なのかなどです。
例えば、新3大疾病付機構団信の0.24%の上乗せで計算すると、借入金額3,000万円、返済期間30年で、借入金利が1.32%から1.56%になった場合の総返済額は、約124万円増加します。これは、通常の団信の保険料0.2%、総返済額換算で約101万円の保険料に上乗せして支払う金額のため、合計で約225万円の保険料を支払うことになります。
この保険料負担を軽いと思うか重いと思うかは人それぞれなのですが、金利換算で0.2%とか0.3%などといった数字で見るよりも、トータルで支払う保険料の金額で見たほうが、冷静かつ慎重に考えられるのではないかと思います。
すでに加入している生命保険や損害保険の保障(補償)内容を改めて確認し、団信やその特約にも加入すると保障(補償)が大きすぎる状態になるのであれば、見直しをして縮小することも検討したほうが無難でしょう。
もしもの場合に備える保険の加入について考える際には、その保険の保障(補償)の対象となる事態に該当する可能性と保険料負担を冷静に比較検討することが重要です。なぜなら、もしもの場合に備える保険のために生活が苦しくなってしまうのであれば、それは本末転倒だと思うからです。
とはいえ、どんなに確率が低くても、もしも保障(補償)の対象となる事態が起きてしまうと、金銭的に大きなダメージを受ける可能性があって、それがとても心配だと思う場合は、安心のためにも保険にはきちんと加入しておいたほうがよいでしょう。これを機会に、改めて、自身や家族の保障(補償)の状況をご確認ください。
ファイナンシャル・プランナー(CFP、1級FP技能士)、1級DCプランナー、住宅ローンアドバイザー
1969年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、山一證券に入社し支店営業を経験。山一證券自主廃業後、独立系FPに。以後20年以上にわたり、資産運用や住宅ローンを中心とした相談、執筆、講師業に従事。2000年以降の講演回数は4,000回を突破!(2020年2月現在)。近著には「お金を貯めていくときに大切なことがズバリわかる本」(すばる舎リンケージ)がある。
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