不動産の売却取引は一般的に高額となることが多く、譲渡所得が生じるような場合には、追加で多額の税金の納付が必要になるケースも多いと思います。つまり、課税所得が大きくなるということは、同時にふるさと納税制度を有効活用するチャンスでもあります。
そこでこの記事では、ふるさと納税の仕組みや上限額の計算方法など、これからふるさと納税を始める人でもわかりやすいように、基礎から解説していきます。
1. ふるさと納税とは?
ふるさと納税は、自分が応援したい自治体に寄付をすることで、返礼品をもらうことができる制度です。寄付金額に応じて、米・野菜・肉・魚などの食料品をはじめ、ホテルのチケットなど、さまざまな返礼品をもらうことができます。返礼品は寄付先の自治体により内容が異なりますが、寄付金額に応じてもらえる返礼品のグレードが上がることが多いです。
寄付した金額は、税金から控除でき、結果的に自己負担2,000円でさまざまな返礼品を受けることができる非常にお得な制度です。「税金から控除できる」点については、所得税や住民税から控除されます。所得税の場合には、寄付年度の確定申告時に税金が減額されます。住民税の場合には、翌年度の支払い(会社員の場合は、給与天引きされるケースが多いです)から税金が減額されます。
自治体への「寄付」にはなるのですが、その後税金の支払いから控除されるため、実質的に各自治体へ納税するのと同じような効果となります。「税金を前払している」というイメージを持つと理解しやすいでしょう。
2. 不動産売却・土地売却時のふるさと納税の上限・限度額
ふるさと納税の自己負担は、寄付金額の多寡に関わらず2,000円です。そのため、寄付をすればするほどお得になるのですが、寄付する金額には上限があるため注意が必要です。上限額を超える部分については、税金から控除できないため、上限金額を超えないように寄付するようにしましょう。
控除対象となる寄付金の上限額は、年収や家族構成によって変わってきます。例えば、年収700万円で扶養家族に妻と子どもが1人いる場合、控除の対象は86,000円までです。総務省のHPやふるさと納税の各社サイトにて計算シミュレーションできますので、ご自身の寄付上限額を確認してみてください。
高年収の方でも年間で数十万円程度の寄付額になり、年収や家族構成に応じて数万円~数十万円程度の限度額があるとイメージしておくと良いでしょう。
3. 不動産売却・土地売却時のふるさと納税の上限額の計算方法
前述の通り、ふるさと納税の上限金額は、年収や家族構成に応じて変わります。もう少し正確にいうと、納税額が大きい人(≒課税所得が大きい人)ほど、ふるさと納税の上限額が大きくなります。税金の支払額が大きいということは、その分控除できる税金の金額も大きく、ふるさと納税によって還元できる金額もより大きくなるということです。
不動産や土地を売却した際に生じる「譲渡所得」も課税所得(税務上の利益)の計算に含まれることになるため、不動産売却や土地売却により譲渡所得が生じた場合には、その分ふるさと納税の上限金額が大きくなります。
それでは、ふるさと納税の寄付上限額の計算方法について見ていきましょう。具体的には、以下の式で寄付上限額を求めることができます。
寄付上限額=(住民税所得割額×20%)÷(100%-10%-所得税率×復興税率1.021%)+2,000円
式を見ると非常にややこしいですが、変数としては、1.住民税所得割額、2.所得税率の2つです。
まず、1.住民税所得割額ですが、以下の給与所得分と譲渡所得分を合算する必要があります。
・給与所得分
給与所得×10%(一律)
・譲渡所得分
譲渡所得×税率(長期譲渡所得の場合5%、短期譲渡所得の場合9%)
次に、2.所得税率ですが、所得に応じた税率を利用します。なお、総合課税(給与所得)と分離課税(譲渡所得)の両方の所得がある場合には、総合課税(給与所得)の税率を使用します。
総合課税の税率は、以下の表で求めることができます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
(国税庁HPより)
以上の計算式によって、寄付上限額を計算できますが、やはり計算式がややこしくなっているため、ふるさと納税サイトなどの各種シミュレーターの利用をおすすめします。
4. 不動産売却・土地売却時にふるさと納税が使える?
不動産や土地を売却した際に生じる「譲渡所得」は、課税所得の計算に含まれることになるため、不動産売却や土地売却により課税所得(税務上の利益)が生じた場合には、その分ふるさと納税の上限金額が大きくなります。
ただし、マイホームを売却する場合には「3,000万円の特別控除」が使える点にも注意が必要です。「3,000万円の特別控除」とは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例のことをいいます。
マイホームの売却においては、譲渡所得が3,000万円を超えるケースを除き、この特別控除を利用するほうがお得になることが多いです。そのため、マイホームの売却によって譲渡所得が3,000万円を超えるようなケースにおいては、ふるさと納税の上限額を引き上げる効果が得られる点についてもおさえておきましょう。
5. 不動産売却・土地売却時にふるさと納税で節税するまでの流れ
ここからは、不動産売却・土地売却時にふるさと納税で節税するまでの流れを見ていきます。
5-1. 不動産売却・土地売却時に譲渡所得が発生する
前述の通り、不動産や土地を売却する際に生じる「譲渡所得」によってふるさと納税の上限金額を引き上げることができます。この「譲渡所得」は、以下の式で計算できます。
譲渡所得金額=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
取得費は、購入時の価格に諸経費やリフォーム費用などを加え、減価償却を加味した金額のことをいいます。また、譲渡費用は、仲介手数料などの売却のために発生した諸費用のことです。
そのため、購入時の価格<売却価格となるケースでは、譲渡所得が生じることがあり、その分ふるさと納税の上限金額が大きくなります。不動産の売買は高額取引となることも多く、ふるさと納税の利用により大きな節税効果を得ることができるでしょう。
5-2. ふるさと納税を行い、返礼品を自治体からもらう
ふるさと納税の手続きは、比較的シンプルです。ふるさと納税の専門サイト(さとふる、ふるなび、ふるさとチョイスなど)から寄付する自治体を決めて申し込みます。数日すると、申し込んだ返礼品および寄付金受領証明書が届きます(寄付金受領証明書が先に届くケースが多いです)。
寄付金受領証明書は、確定申告で利用するため、必ず保管しておいてください。また、ふるさと納税の上限金額を超えた分については、税金からの控除対象となりませんので、必ず上限金額を調べてから寄付するようにしましょう。
5-3. 譲渡所得を含めて、年度末までに確定申告を実施する
ふるさと納税による寄付金額を税金から控除するためには、寄付を実施した翌年の2月~3月にかけて所得税の確定申告を行う必要があります(寄付する自治体が5つまでの場合には「ワンストップ特例制度」を利用すれば、確定申告を行わずに税金の控除を受けることも可能です)。寄付金受領証明書をもとに寄付情報を入力し、e-taxによる電子申告または書面で税務署へ提出します。
なお、ふるさと納税による税金の控除は、確定申告上「寄付金控除」として扱われます。この確定申告情報をもとに翌年度の住民税が決定されるため、住民税の控除のために追加で申告する必要はありません。
5-4. 所得税・住民税の控除
確定申告を行うことで、所得税については、確定申告時に所得税率分だけ納付額から所得税が減額されます。一方、住民税については、寄付した翌年5月の住民税通知に反映され、6月からの住民税の支払いが減額されます。
6. 譲渡所得に応じて適切な納税方法を選択しましょう
不動産の売却取引は一般的に高額となることが多く、譲渡所得が生じるような場合には、追加で多額の税金の納付が必要になるケースも多いでしょう。とはいえ、不動産売却によって課税所得が大きくなるということは、同時にふるさと納税制度を有効活用するチャンスです。
マイホームの売却では3,000万円の特別控除が利用できるため、こちらを利用するほうがお得になることが多いですが、譲渡所得が3,000万円を超える場合には、特別控除で控除しきれなかった課税所得をベースにふるさと納税が可能です。
ふるさと納税制度を有効活用するチャンスになりますので、ふるさと納税の仕組みや限度額の計算方法をしっかりと把握してご自身に合った納税方法を選択しましょう。
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