任意売却とは?わかりやすく、メリット/デメリット・手続き方法・競売との違いなどを解説

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住宅ローンが支払えない場合や、滞納している場合には「任意売却」という方法があります。ただし、この方法を使うためには、条件や期間が決まっています。また、裁判所の競売における知識や、金融機関との交渉が必要になる専門性の高い売却方法です。

この記事では、競売手続きの流れや任意売却の基礎知識、およびメリットやデメリットをわかりやすく解説し、任意売却の知識と経験が豊富な不動産仲介会社を選ぶ重要性にも触れています。

目次

1. 任意売却・競売・仲介の違い

不動産の売却方法には「任意売却」「競売」「仲介」があり、任意売却と競売は、住宅ローンを滞納したときに行われる売却方法です。

1-1. 任意売却とは

任意売却とは、債務者(住宅ローンで家を購入した方)が住宅ローンを滞納し、今後も支払いが困難な場合に、債権者(金融機関)の許可を得て不動産を競売よりも高く売却する方法です。

本来は、不動産の売却金で住宅ローンが完済できなければ、債権者が不動産に設定した抵当権(返済できなければ不動産を競売できる権利)が抹消できないため、不動産は売却できません。

しかし、任意売却であれば住宅ローンが完済できなくても債権者の承諾によって抵当権が抹消され、不動産の売却が可能となります。ただし、「差し押さえられた競売不動産の開札前まで」という限られた期間しか、任意売却できません。

1-2. 競売とは

競売とは、債権者の申し立てに基づき、裁判所が対象不動産を差し押さえて売却し、売却代金から取り立て債権の回収をする法的手続きです。競売による落札価格は、通常の仲介による売却価格の60〜70%など、相場よりも格安になることがほとんどです。

競売の申し立ては、債権者が不動産のある地域を管轄する家庭裁判所に対して行います。落札された場合、債務者は裁判所が指定する期日に必ず不動産を明け渡さなければなりません。

1-3. 仲介とは

仲介とはもっとも一般的な不動産の売却方法で、売主から依頼された不動産会社が不動産の売却活動を行い、購入を希望する買主を見つけて売買契約を締結する売却方法です。仲介は任意売却や競売とは異なり、売主と買主の合意によって解約内容や期日などの条件を決められます。

なお、任意売却の場合でも、不動産会社は売却活動から不動産の引渡しまでをサポートするなど、売主と買主の仲介を行っています。

2. 任意売却をするメリット

競売入札までの限られた期間でも任意売却を行うのは、債権者・債務者双方にとって競売よりもメリットがあるからです。

2-1. 競売よりも高額で売却できる

任意売却は下記の理由により、相場よりも少し安い売り出し価格を設定します。

  • 限られた任意売却の実施期間内に売却しようと急いでいる
  • 滞納物件というマイナスイメージを補って売れやすくする

任意売却の売り出し価格については、債務者が高額で売却したくても、債権者の意向を反映して相場より安くなります。それでも競売よりは、高額で売却できる特徴があります。

2-2. 家の写真や所有者情報が公告されない

競売は、裁判所が競売不動産の情報や条件をまとめた「期間入札通知」と同時に、ネット上に不動産の住所や外観・室内の写真が掲載し、誰でも閲覧できるようにしています。なお、ネット上に債務者の個人名が出ることはありませんが、裁判所の掲示板には債務者名が掲載されます。一方、任意売却の売却活動自体は、仲介による売却となんら変わらず、個人名がネットや販売資料などに載ることは一切ありません。

2-3. 売却や引越し費用が軽減できる可能性がある

任意売却でも売却費用(仲介手数料・登記費用・印紙税など)が売却価格の3〜4%かかりますが、住宅ローンを支払えない方が高額の売却費用を現金で用意するのは困難です。そのため、任意売却の場合には売却費用や引っ越し費用などを、債権者の厚意で売却費用から捻出してくれる場合があります。

2-4. 売主が希望する引渡し日を調整できる

競売は、法律に定められた手続きで、期間どおりに進行しますので、手続き内容の省略や期間の短縮および債務者の都合への配慮などはありません。

一方、任意売却ならお子さまの学校のスケジュールに合わせた引渡し日に調整してくれるなど、債務者の新生活への状況をある程度は考慮してくれるケースが多いようです。

3. 任意売却をするデメリット

任意売却は、売却方法などにメリットがあるものの、任意売却にいたる課程でデメリットになる要素もいくつかあります。

3-1. 信用情報に登録される影響を知っておく

任意売却がはじまる時点では、すでに住宅ローンを3〜6か月以上滞納している状態ですので、いわゆるブラックリスト、個人信用情報機関に滞納の事実が記録されます。

そして、個人信用情報にそのような履歴があれば、その後、ローンの借入やクレジットカード審査、スマートフォンの分割購入などができなくなります。

悪意があって滞納したわけではなくても、債務者がローンを滞納して債権者との契約に違反していることには変わりありません。この時点で、「期日どおりお金の返済ができない人」という評価が付くこととなります。

3-2. 任意売却が周囲に知れる可能性がある

任意売却物件は、不動産会社間では任意売却中の物件であると周知されていますが、顧客へ任意売却物件を紹介する際に、任意売却物件である旨の告知は義務ではありません。

しかし、 任意売却物件であることで契約後トラブルになりそうな場合は、揉めることのないよう伝えておいたほうが良いかもしれません。

つまり、広範囲に広報されることはなく、告知義務もありませんが、口づてで任意売却の事実が少しずつ拡散するのは止められません。もし、「ローン返済に苦しんだ売主」などと詮索されたくない場合には、売却開始時点で退去して空き家にしておくのもひとつの方法です。

3-3. 保証人に迷惑がかかる

住宅ローン契約における連帯保証人が、保証会社ではなく身内(人的担保)だった場合には、法律的に連帯保証人は債権者から下記の要請を受けて当然の立場にあります。

  • 債務者と同順位で全額の支払い
  • 債務者に代わり担保の差し入れ
  • 保証人が所有する財産の現金化

しかし、実務的には連帯保証人の個人資産を処分、担保提供させるような債権者の指示はほとんどありません。

とはいえ、連帯保証人の下に催告書が届き、滞納の事実はすでに知っていて困惑しているはずです。債務者は連帯保証人に対して状況の説明と、今後の返済計画を相談すべきでしょう。

4. 任意売却の注意点

住宅ローンの返済が苦しくなり、任意売却へと移行する際の注意点を5つご紹介します。

4-1. できる限り早く売却相談に行く

任意売却ができる期間は約8か月間(長くても12か月間ほど)と短くなっています。できる限り早く準備に取りかかるためにも、できれば滞納がはじまる前に不動産会社へ売却相談に行くべきです。

人によっては、8〜12か月間の任意売却期間を長く感じるかもしれません。しかし、1年のうちで不動産が活発に動く時期は限られており、計画どおりに買い手がつくとは限りません。

また、不動産の売却には売り出し前の準備に約2週間、売買契約から決済の準備に約1か月かかるため、実質的な売却期間はもっと短くなってしまいます。早い段階で相談ができれば、住宅ローンの滞納や任意売却ではなく、下記のような別の方法を選べる可能性もあります。

  • 仲介による売却(通常の方法で高く売る方法を模索)
  • 親族へ売買(いったん親族に買い取ってもらう)
  • 返済の猶予(支払いの猶予や金利のみ負担の支払い)
  • ローン借り換え(低金利のローンに換えて負担を減らす)
  • リースバック(不動産会社に買い取ってもらい賃借する)
  • 他の借金の債務整理(他の支払いを整理して軽くする)

現実的に、住宅ローンの支払いが厳しくなってから収入が劇的に増えることは期待できませんし、時間が経過するほど選択肢は少なくなるため、相談だけでも早くしておいたほうが賢明です。

4-2. 任意売却物件の実績の多い業者を選ぶ

任意売却の売却活動自体は仲介の場合と変わりませんが、任意売却特有の手続き・関わる法律・絶対的な期限を熟知した、経験豊富な不動産会社や担当者にサポートしてもらうほうがよいでしょう。

なぜなら、任意売却の売却活動では、裁判所の法的な手続きを阻害しないよう、不動産売買仲介の知識のほか、差押・競売の知識も必要になるからです。

また、少しでも債務者のメリットになる条件を債権者から引き出せるかどうかは、不動産会社の手腕にかかっています。経験豊富で交渉力のある担当者に依頼し、できるだけ高く売却してもらいましょう。

4-3. 任意売却には期限がある

一般的に、任意売却ができる最終期限は債権者自身が競売手続きを止められる期限とされ、競売手続きの流れでいえば「期間入札の開札」の前日までとされます。

なお、期間入札の開札とは競売でもっとも高い金額を入札した買受申出人を買受人として確定する日のことです。

ただし、任意売却期間が延びるほど遅延損害金が膨らむため、買い手がつかないからといって最終期限まで粘るような長期の売却戦略は立てないほうがよいでしょう。

4-4. 返済できず残ったローンは分割で返済する

任意売却では、売却金で住宅ローンが返済できなくても抵当権が抹消されますが、未返済の借金が帳消しになるわけではありません。未返済分は、債権者と債務者が話し合って、可能な範囲で返済額と返済期間を決めて返済を続けていきます。

4-5. 任意売却ができないケースもある

任意売却は、債務者が強く望んでも債権者の許可がなければ絶対にできません。また、その他の任意売却ができないケースとしては、妻が任意売却を望んでも不動産の所有者である夫が任意売却を承諾しないケースがあります。

5. 滞納から競売入札までの流れと経過期間

住宅ローン契約の保証人に、人ではなく保証会社がついている場合の滞納から競売までの流れは、以下のようになります。なお、この流れのなかで任意売却ができる期間は、表に色がついた部分の約8か月間です。

滞納開始から前手続きから手続き
- - (1)滞納がはじまる
約6か月 約6か月 (2)期限の利益を喪失
約7か月 約1か月 (3)保証会社の代位弁済
約9か月 約2か月 (4)競売開始決定通知
約10か月 約1か月 (5)現況調査の実施
約13か月 約3か月 (6)期間入札の通知
約14か月 約1か月 (7)期間入札の公告
約15か月 約1か月 (8)期間入札の開始
約15か月+α 約1週間 (9)期間入札の開札

表中の(1)〜(9)の手続きについてそれぞれ解説します。

(1)滞納がはじまる

滞納から1〜2か月の初期段階は支払いを強く促す「督促通知」が届き、3か月を過ぎると次の段階の競売を示唆した最後通告である「催告通知」に変わります。

(2)期限の利益を喪失

一般的には6か月とされる、金融機関が定める一定の滞納期間を超えたことで、住宅ローンを分割で返済する権利(期限の利益)を失います。このとき「期限の利益喪失の通知書」によって、分割返済は認められずローン借入額全額を一括で返済するよう金融機関から迫られます。

(3)保証会社の代位弁済

債務者が金融機関へ一括返済ができない場合には、保証会社が債務者に代位して債権者へ全額返済し、その時点まで金融機関が持っていた「貸し金を回収する権利」が保証会社へ移転します。

それでも債務者が保証会社へ一括返済できなければ、保証会社は不動産がある地域を管轄する家庭裁判所への差押え・競売の申し立て手続きへと移ります。

(4)競売開始決定通知

保証会社の申し立てに基づいて裁判所から債務者へ「差押通知」が届いた瞬間に、債務者はその不動産の所有権を失い自分の意思では売却できなくなります。さらに、裁判所から競売手続きに入ったことを知らせる「競売開始決定通知」が来ると、そこから約6か月で競売不動産の買受人が決まる流れです。

(5)現況調査の実施

競売手続きの一環として、家庭裁判所の執行官が競売不動産の現況調査や価格査定のために家を訪れます。この現況調査は法的手続きとして強制的に行われるもので、債務者が立ち入りを拒むことはできません。そして、不動産鑑定士がこの現況調査内容に基づいて、競売不動産の最低落札価格を決定します。

(6)期間入札の通知

競売の「期間入札通知書」とは、期間入札の期限が決まったことや不動産の競売条件の詳細と公告・入札期間などが書かれた書類です。期間入札の期限や条件などは家庭裁判所が独断で決めるものであり、債務者の現在の状況や希望を汲み取って調整することはありません。

(7)期間入札の公告

競売物件の情報・条件・室内写真などを一般に開放するために、Webサイト(BIT)へ情報や資料掲載し、裁判所・庁舎の掲示板に貼り出して不特定多数へ公告します。不動産競売物件情報サイト(BIT)とは、最高裁判所から委託を受けた株式会社日立社会情報サービスが管理運営するサイトです。

個人情報の提供や会員登録が不要で、パソコンとネット環境があればいつでも無料で利用でき、物件概要がわかりやすくまとまった3点セット(物件明細書,現況調査報告書および評価書等)のPDFがワンクリックでダウンロードできます。

参考:不動産競売物件情報サイト(BIT)

(8)期間入札の開始

期間入札がはじまると、裁判所執行官が一定の期間内に買い受け希望者の入札を募り、入札者を約1週間募集して、後日の開札で買受人を決定します。保証会社によっては、この日を任意売却ができる最終期限とするところもあります。

(9)期間入札の開札

約1週間の入札期間が満了してから1週間以内に「期間入札の開札」が行われ、最高値をつけた買受申出人と次点の次順位買受申出人を決定します。

家庭裁判所は、1番手の買受申出人へ競売不動産を売却するか審査し、許可されると1番手の方が買受人に確定となります。そして、買受人が残代金を家庭裁判所に納付すれば、売却代金が債権者にわたり競売が完了します。

6. 任意売却を成功させるには

任意売却を成功させるためには、早期の行動開始と任意売却に強い不動産会社を見つけることが大切です。

6-1.滞納する前にできるだけ早く相談する

任意売却になるには、まず住宅ローンが3〜6か月以上の滞納状態にある必要があります。しかし、滞納前に動いていれば滞納を回避する方法を試したり、金融機関へ掛けあって当面の間、緩和策を受けたりできることがあります。まずは、滞納前にできることを知るためにも、できるだけ早く相談することが大切です。

6-2.売却・引っ越し・新生活の費用の捻出を交渉する

任意売却の費用や引っ越し費用などは、必ずではないものの債権者が売却金から捻出して債務者へ提供してくれることがあります。

これは債権者側が任意売却経費として一定額を見込んでくれているのではなく、不動産会社が債権者と掛けあって獲得してくるものです。任意売却の経験が豊富な不動産会社や担当者がいれば、新生活の費用面の不安はある程度解消できるでしょう。

6-3.任意売却専門の不動産会社にサポートを依頼する

任意売却の売却活動は一般的な仲介の場合と変わりませんが、その他の裁判手続きなどは法律知識や厳格な期限を守りながら行うため、豊富な知識や経験を必要とします。

知人もしくは仲介手数料が安いという理由で不動産会社を選ばず、任意売却を専門にしているもしくは経験が豊富かどうかで判断しましょう。

7. まとめ

とにかく住宅ローンを滞納する前に、不動産会社へ別の施策がないか、早めに相談に動くことが大切です。そして、任意売却になった場合も、少しでも早く高く売却できるよう、できるだけ早く準備に取りかかってください。

また、任意売却は不動産売買のなかでも専門的なテクニックが必要な手続きです。担当者の力量次第で、債務者の条件が良くも悪くもなるもの。不動産会社を選ぶ際には、必ず「任意売却の実績がある不動産仲介会社」から選ぶのが賢明です。 より高く売却できるよう、不動産会社と連携していきましょう。

柴田 敏雄

柴田 敏雄

宅地建物取引主任士、管理業務主任者
司法書士事務所に2年、大手不動産管理会社に5年、個人顧客を中心に不動産賃貸・売買の仲介営業会社に7年間従事。また、外資系金融機関にも2年間従事し個人顧客へ金融資産形成や相続税の節税アドバイスなどを担当。現在は不動産/金融業界での経験を活かし、記事を執筆にもあたっている。

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