不動産売却を考えている方に向け、不動産のプロと呼ばれる「宅建士」がわかりやすく不動産売却について解説した記事です。不動産売却の方法や、一般的な流れ、媒介契約の種類、司法書士の依頼方法、不動産売却にまつわる税金と、不動産売却についての基礎知識を得られるようまとめました。
実際に不動産会社に依頼する場合も、基礎知識があるのとないのとでは、業者の選び方や質問内容などが変わってきます。事前に頭に入れて、より良い不動産売却につなげていきましょう。
1. 不動産売却の方法
不動産売却の方法には、「売買の仲介を依頼する方法」と「不動産業者に買取ってもらう方法」の2種類があります。どちらにするかは、売買のスケジュール感や、売却価格に柔軟性をもたせられるかなどで変わってきます。自身の状況を考えて選びましょう。
1-1.売買の仲介を依頼する
不動産を売却する方法としてまず思いつくのは、不動産会社に物件の売出しを依頼して一般の買主を探す方法です。売却価格は売買事例や不動産相場を基に決まりますので、予定した価格と大きなブレがないのが特徴です。もっとも、売却まで4~6カ月を要するのが通常です。
1-2.物件の買取を依頼する
最近、一般的な不動産売買の事例でも取り扱う業者が増えてきたのが、不動産物件の買取です。この場合、不動産業者が自ら買主となって不動産を直接買い受けます。すべての不動産業者に取り扱いがあるわけではないので、不動産買取の専門業者をインターネット等で探す必要があります。
買取条件が合えば、売買契約から決済まではスピーディーでスムーズに行われ、早ければ1カ月程度で売買が完了します。しかし、買取相場は売買価格の相場よりも1-2割低めであることが難点です。
2. 不動産売却の流れ
それでは、一般的な売買仲介を例にとって流れを説明しましょう。
一般的に、売却を決めてから代金決済・引渡しまで4~6カ月程度の時間を要します。売却のスケジュールには余裕をもっておくことが大切です。
2-1.売却計画を立てる
実際に売却活動に入るときに、ぜひ行っておきたいのが、「売却計画の立案」です。売却動機(転勤・海外赴任、離婚、退職、投資用不動産のイグジット)によって、売買の条件やスケジュール感が異なります。
たとえば、相続財産の売却であれば、ほかの相続人との話し合いや遺産分割協議書の作成が必要です。予定より売却が長引いて相続税の申告期限に間に合わない可能性もあるでしょう。現在の自身の状況を考慮して、大まかな希望条件とスケジュール計画を立ててみてください。資金計画についても、売却前にイメージをもっておきましょう。
2-2.情報収集を行う
大まかな売却計画がまとまったら、まずはインターネット等で周辺相場や周辺で売出されている物件を調査しましょう。その後の不動産会社との相談がスムーズです。
売却価格の相場は、m2単価や坪単価に直して計算します。売却価格を、土地であれば土地の面積(地積)、一戸建てやマンションの場合には延床面積・専有面積で割って単価を算出してみると比較するのに便利です。m2単価・坪単価にばらつきがある場合には立地や周辺環境、築年数などが影響しているのかもしれませんので、物件の特徴と価格を見比べて検討してみるのも有益です。
2-3.不動産会社に査定依頼する
不動産業者と仲介契約を結ぶ前に、一度、複数の不動産会社に売却査定を依頼してみましょう。査定結果を基に、その査定理由や売却のしやすさ、スケジュール感を相談しながら、どの不動産業者がよいのかを探ってみます。その際には、以下のような資料をあらかじめ用意しておくと、査定が円滑に進みます。
- 対象不動産の登記簿謄本
- 公図、地積測量図、建物図面
- 購入時のパンフレット・チラシ広告・物件概要書
- 固定資産税課税通知書
2-4.金融機関に相談する
物件売却の際に忘れやすいのが、金融機関への事前相談です。住宅ローンや不動産ローンを組んでいる場合は、査定結果を基に、抵当権の抹消についてあらかじめ金融機関に相談しておかなければなりません。
売買契約書には、売買の際には抵当権を抹消しなければならないという条項があり、金融機関の承諾が不可欠となるからです。特に、査定結果が借り入れの残債を上回っているオーバーローンの場合には、金融機関との調整が難航する恐れがあるため、早めに相談しておきましょう。
2-5.媒介契約を締結する
ここまで準備が整ったら、不動産売買の媒介契約を締結し、正式に売買の依頼をします。のちに詳しく説明しますが、媒介契約には3種類あり、契約ごとに仲介業者の義務や依頼者の制約が異なるため、違いをしっかりと把握しておくことが大切です。
2-6.物件の売出しと内覧対応
仲介業者は、ネット広告や新聞広告などを使って、物件の売出しを行います。このとき、もし物件の売却をほかの人に知られたくないような事情があれば、事前に仲介業者に売出しの方法について相談してみてください。買い手候補があらわれたら、仲介業者から内覧のスケジュールの打診があります。室内は念入りに清掃し、不要なものは早めに撤去しておくなど、印象アップに努めましょう。
2-7.契約交渉・売買契約の締結
買い手候補とは、仲介業者を通じて、売買価格、代金決済・引渡し時期などの契約条件をまとめていきます。契約条項の中でも、特にトラブルになりやすい建物の不具合や土地の不具合(地割れ・陥没・液状化など)がある場合には、建物状況確認書や重要事項に明記しておき、補償や免責の内容を明確にしておくことが大切です。
2-8.代金決済と物件の引渡し
契約日から引渡日までは、通常1カ月程度の期間をおいて設定されます。その間に買主は住宅ローンの本申し込みをして決済の段取りを行うとともに、売主はすべての私物を移動・廃棄して、引渡しの準備をします。所有権移転・抵当権抹消に関する書類は事前に司法書士に提出しておき、決済の手続きが完了した後、その日のうちに登記申請手続きが行われます。
2-9.譲渡所得税の確定申告
不動産を売却した翌年には、譲渡所得税の確定申告が必要です。不動産売却によって譲渡益が出る場合はもちろん、所得控除の優遇税制を活用する場合にも確定申告が必要になりますので注意が必要です。譲渡所得税の確定申告は、給与所得・事業所得などほかの所得税の申告と同じタイミングで行います。1月から12月までの所得を翌年度に申告し、申告期限は3月中旬です。
3. 媒介契約の種類
不動産売買の媒介契約(仲介契約)は宅建業法で、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の3種類の形式が定められています。契約の種類によっては仲介業者のみならず売主側にも行動の制約があるために、契約内容を理解して締結することが肝要です。
3-1.一般媒介契約
一般媒介契約は、仲介業者の義務および売主の制約がもっとも緩和された契約です。他の仲介業者と重複して媒介契約を締結することができるとともに、自らの買主を探してきたときには、仲介を通さずに売買することも可能です。
契約期間の定めはありませんが、標準契約約款では3カ月の期間が定められています。実務的には、不動産業者同士の契約に多く用いられ、一般の売主と一般媒介契約を結ぶことはそれほど多くはありません。
3-2.専任媒介契約
専任媒介契約では、成約に向けられたいくつかの義務が仲介業者に課されています。契約期間中、売主に相応の負担を求める以上、売主は他の業者と重複しての契約締結はできません。契約の有効期間は3カ月と定められています。
仲介業者は、契約から7営業日以内にレインズ(国交省が管轄する不動産情報ネットワークシステム)への登録義務があるとともに、2週間に一回以上、売主に販売活動の状況を報告しなければならないことになっています。専任媒介契約を締結していても、自らの買主を探してきたときには、仲介を通さずに売買することが可能です。
3-3.専属専任媒介契約
専属専任契約は、仲介業者の義務の程度がもっとも重い契約です。仲介業者は、媒介契約の締結日から5営業日以内にレインズに物件情報を登録しなければならず、さらに1週間に一度以上、依頼者に営業の状況を報告しなければなりません。
売主は、他の仲介業者と重複して媒介契約を締結することができず、自ら買主を発見した場合でも必ず仲介業者を通して売買契約を締結する必要があります。有効期限は3カ月です。
3-4.こだわりがなければ専任媒介がおすすめ
どの媒介契約を選ぶか迷うところですが、不動産業者との信頼関係を築くためには、専任媒介契約をおすすめします。一般媒介契約には、仲介業者の努力義務として積極的に買主を探す旨が定められていますが、ほかの仲介業者に案件を撮られてしまう可能性があることから、熱意という面で他の契約に劣るのは否めません。そのため、一般媒介は信頼関係が構築されたプロ同士の契約に用いられることが多いです。
4. 司法書士への相談方法
所有権移転の登記手続きは買主自ら行うことも認められてはいますが、専門家に依頼するのが無難です。特に住宅ローン等の金融機関からの借り入れがある場合には、司法書士による手続きが必須になります。登記費用は必要な費用として見積もっておきましょう。
4-1.不動産売買における司法書士の役割
不動産売買においては、所有権移転登記と抵当権の抹消・設定手続きが主な役割になります。もっとも、売買前の登記情報が実態と異なる場合も少なくありません。その場合には、売買の前に、相続登記や共有の解消に関する登記、錯誤登記の更正など、登記情報を実態に合わせる登記が必要です。
司法書士に依頼すれば、これらの手続きも合わせて依頼することができます。そのほか、契約書が適法か、契約書に記載されている地番・地積等が登記情報とあっているかなど契約書のチェックも司法書士の重要な役割となります。
4-2.司法書士への依頼方法
司法書士は、買主側が指定する場合が多くなっています。その場合には、売主側の抵当権抹消登記についても、同じ司法書士に一括して依頼するのが通常です。売主は、仲介業者を通じて買主側が選定した司法書士を紹介してもらい、抵当権抹消についての書類の作成と登記申請を依頼します。金融機関との書類のやり取りも必要になるため、売買契約後速やかに対処しましょう。
登記費用については、所有権移転登記の費用は買主負担、抵当権抹消登記の費用は売主負担となります。移転登記の前に相続登記や更正登記がある場合には、売主負担で登記の更正を行います。
5. 不動産売却後の税金
売買の翌年には、不動産売却にかかわる譲渡所得税の申告を行う必要があります。優遇税制を活用する際にも確定申告が必要になりますので忘れずに手続きしましょう。譲渡所得税は、所有期間や不動産の種類(事業用か居住用かなど)によって変わってきます。
5-1.不動産売買の譲渡所得税
不動産売買の譲渡所得税は、譲渡代金から取得費(取得時の購入価額・譲渡時の必要経費)を差し引いて計算します。建物の取得費は減価償却によって年々減少していくため、築年数が経過した建物を売却した際には譲渡所得税が出やすい傾向があります。できれば、売買の前に譲渡所得税の概算を算出しておくことをおすすめします。
譲渡所得税は所有期間によって短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられ、それぞれ税率が異なります。不動産を取得した日から売却した年の1月1日の時点までの所有期間が5年以下の場合、短期譲渡所得として39.63%(復興特別所得税を含む)の高い税率が適用されます。5年を超える場合には、長期譲渡所得として税率は20.315%(復興特別所得税を含む)です。
5-2.不動産売買における譲渡所得の優遇税制
不動産売買における譲渡所得税には、特にマイホームの売買については手厚い優遇税制が設けられています。マイホームの売買は生活に直結するため、譲渡所得税の納税によって生活が破綻してしまうことを防止するためです。
まず、マイホームの売買においては、所有期間の長短にかかわらず、3000万円の所得控除を受けることができます。さらに、マイホームを売却した資金で新たにマイホームを買い替えた場合には、所定の要件を充たすことで譲渡損失をほかの所得と損益通算したり、譲渡所得の課税を繰り延べたりすることができる特例もあります。ただし、これらの特例は併用することができないため、どちらの特例を活用するのが得かについて精査する必要があるでしょう。
6. 不動産売却の注意点
不動産の売却には手続きに細心の注意を払う必要があります。売却後に余裕をもった生活を送るとともに、買主ともよい関係を保つために、以下の点に注意してしっかりと売却計画を立てましょう。
6-1.売却が最善かを検討する
不動産市況がよくなかったり、売却しても住宅ローンが完済できなかったりする場合などは、売却が最善でない可能性もありますので、場合によっては、リロケーションによって自宅を賃貸し、賃貸収入を得ながら住み替えをすることも可能です。売却金額や自身の経済状況、売却までのスケジュールを総合的に考えて、売却が最善の策かをもう一度考えてみましょう。
6-2.「売り先行」か「買い先行」か
自宅売却の場合には、売り先行か買い先行かで資金計画やスケジュールが大きく異なります。売り先行は、自宅を売却してから新しい住まいを購入する方法であるのに対し、買い先行は前もって住み替え先の住居を購入しておく方法です。売り先行は一般的な方法ではあるものの、売却してから新しい住まいを購入するまでの期間、仮住まいを用意する必要があります。
スケジュール的にも余計や経費を支払わなくてもよい点においても、買い先行のほうがメリットは大きいといえますが、経済的に余裕がなければ先に新しい住まいを購入することは困難です。いずれにせよ、スケジュールと資金計画は詳細な点まで検討しておく必要があるでしょう。
6-3.物件の不具合は事前に把握しておく
買主とのトラブルでもっとも多く、かつ深刻なトラブルになりやすいのが、物件の不具合に関するものです。特に一戸建て住宅の場合には、設備の更新履歴や修繕履歴を残しておき、今までにどのような不具合があったのかについて買主に事前に説明しておくとよいでしょう。
売却前に建物診断を依頼し、大きな不具合がないか確認しておくこともトラブル防止には効果的です。場合によっては、売主の契約不適合責任を問われることもあるため、契約書の文言も含めて、物件の不具合について仲介の担当者に相談しておくことをおすすめします。
7. まとめ
世の中では不動産の売却が日常的に行われていますが、一般の方にとっては慣れないことばかりです。契約金額も高額になるため、慎重にさまざまな手続きを行う必要があります。一戸建て、マンションなど不動産の特性によって注意しなければならないポイントは異なりますし、立地や築年数などさまざまな要因が売却価格に影響してきます。
また不動産の売買の際には、不動産に関する知識のほか、法務・税務などさまざまな知識が要求されます。不安な方は、不動産のプロのほか、弁護士、税理士、司法書士などの専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
宅地建物取引士
株式会社イーアライアンス代表取締役社長。中央大学法学部を卒業後、戸建・アパート・マンション・投資用不動産の売買や、不動産ファンドの販売・運用を手掛ける。アメリカやフランスの海外不動産についても販売仲介業務の経験をもち、現在は投資ファンドのマネジメントなども行っている。
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