1. 不動産登記制度とは
登記とは、ある事実やある物の所有者等を公に明らかにすることです。登記された人や物の権利や義務を保護したり取引を円滑化したりするための行政上の制度のひとつであり、世の中にはさまざまなものが登記されています。不動産を売買するときには「登記」制度について理解しておくと良いでしょう。この記事では、登記の目的や書類、申請方法などを解説します。
不動産登記法に登記の目的が記されています。
この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。
ある特定の不動産が「どこに」「どの程度の大きさで」「どのような用途で利用され」「誰が所有しているのか」といった目に見えない一定の情報や権利内容を登記簿に記録し、登記所で一般に公示するための制度が不動産登記制度です。この制度により不動産取引の安全性が確保されています。
以前は登記所に備え置かれた登記簿の内容に変更が生じるたびに手書きで記載を行ってきましたが、2008年からすべての登記所がコンピューター化され、一部の登記簿を除き移行作業が完了しました。
今では多くの登記所で登記簿(全部事項証明書)のオンライン申請が可能になっています。
2. さまざまな登記
ひとことで「登記」といってもいくつか種類があり、不動産以外の登記制度もあります。
主な登記制度をみてみましょう。
●登記制度
- 不動産登記制度:不動産の現況と権利関係を登記簿に記録して公示するもの
- 商業・法人登記制度:会社・法人について、その存在を明確にするために一定事項を登記簿に記録して公示するもの
- 債権譲渡登記制度:法人が行う金銭債権の譲渡等を登記によって公示するもの
- 動産譲渡登記制度:動産の譲渡について、登記によって公示するもの
- 成年後見登記制度:民法の後見・保佐・補助などについて公示するもの
3. 登記できる権利の種類
不動産登記制度にもとづき登記所で登記できるのは、不動産の表示、不動産についての「所有権」「抵当権」「地役権」などの権利の保存と設定、移転・変更・処分の制限または消滅についてです。
「所有権」の代表的な登記原因は売買と相続。財産分与が原因となる場合もあります。
「抵当権」の代表的な登記原因は住宅ローンの借入等による抵当権設定登記です。 他にも住宅ローンの完済や不動産の売却に伴う抵当権抹消登記、所有者の住所変更や氏名変更による変更登記、建物解体に伴う建物滅失登記など、さまざまな種類の登記手続きがあります。
例えば建物を新築した場合なら、「表題部」に所在(〇〇区〇〇町〇〇番)、家屋番号〇〇番〇〇)、種類(居宅や共同住宅など)、構造(木造スレート葺2階建て)、床面積(〇〇.〇〇m2)、所有者(〇〇〇〇)」等の物理的な現況を登記しなければなりません。建物の新築や滅失等があれば、1カ月以内に新築や滅失等の登記を申請しなければならないことになっています。
権利移転や抵当権などについては「権利部」に登記されます。
3-1. 登記事項証明書(区分建物以外の建物)サンプル
例えばマンションを売却した場合なら、権利部(甲区、所有権に関する事項)といった部分に登記の目的(所有権移転)、受付年月日・受付番号(令和〇年〇月〇日、第〇〇号)、権利者その他の事項(原因、令和〇年〇月〇日売買、所有者〇〇区〇〇町〇〇号、〇〇〇〇)が登記されます。
3-2. 登記事項証明書(所有権移転)サンプル
こちらは区分所有でない一般物件(一戸建てなど)の登記例です。
3-3. 登記事項証明書(抵当権設定)サンプル
例えば銀行から住宅ローンを借りて抵当権を設定した場合、権利部(乙区、所有権以外の権利に関する事項)部分に、登記の目的(抵当権設定)、受付年月日・受付番号(令和〇年〇月〇日、第〇〇号)、権利者その他の事項(原因、令和〇年〇月〇日金銭消費貸借同日設定、債権額金〇〇万円、利息年〇%(365日日割計算)、損害金年〇〇(365日日割計算)、債務者〇〇区〇〇町〇〇号、〇〇〇〇、抵当権者〇〇区〇〇町〇〇号、株式会社〇〇銀行)と登記されます。
3-4. 登記事項証明書(抵当権抹消)サンプル
債務を完済したら、抵当権登記を抹消しなければなりません。上記は抹消登記の例です。例えば銀行から借りた住宅ローンを完済し、抵当権の抹消登記をすると、抹消された抵当権に下線が引かれ、抹消された順位番号の抵当権が抹消されたことが登記されます。
住宅ローンを完済すると、金融機関から融資完済のお知らせが届きます。ただ住宅ローンの借入に伴い設定された抵当権設定登記は融資契約が終了しても自動的に抹消されません。抵当権抹消の手続きを行わないといつまでも登記記録に保存されたままになってしまいます。
したがって、金融機関から融資完済のお知らせがあったら、抵当権抹消に必要な登記済みの金銭消費貸借抵当権設定契約証書等の抹消手続き書類を金融機関から入手し、自分自身で手続きを進める必要があります。手続きは司法書士に依頼することが一般的ですが、自分で行うこともできます。
抹消登記に期限はないものの、不動産を売却処分するときには手続きを済ませておく必要がありますので、忘れないうちに手続きを済ませておきましょう。
4. 登記事項証明書(登記簿謄本)の取得方法
4-1. 登記事項証明書と登記簿謄本の違いは?
登記簿謄本は、電子化される前の登記の写しです。電子化が完了していない法務局へ申請すると、登記簿謄本が交付されます。
登記事項証明書は電子化された後の登記事項に関する証明書です。
電子化が完了している法務局へ申請すると、登記事項証明書が交付されます。
内容的には同じであり、効力についても違いはありません。
登記事項証明書(登記簿謄本)の取得方法には以下の3種類があります。
4-2. 請求書を管轄登記所又は最寄りの登記所に申請書を郵送する方法
直接窓口で交付申請する方法です。全国どこの法務局や出張所でも取得できます。
引用:法務局「各種証明書請求手続」
法務局備え付けの交付申請書に該当事項である「住所」「氏名」「種別」「請求する不動産の所在」「地番」「請求通数」「共同担保目録が必要な際の条件」にチェックを入れ申請しましょう。
費用は法務局内にある窓口で収入印紙(600円分)を購入し、申請書に貼付して支払います。なお、マンションの登記事項証明書を取得する際は「家屋番号」を記載する必要があります。家屋番号は法務局の窓口や電話で確認することができます。
4-3. 請求書を管轄登記所又は最寄りの登記所に申請書を郵送する方法
郵送で登記簿や証明書を申請する方法もあります。
法務局のウェブサイトから申請書をダウンロードし、法務局で直接取得する方法と同様に申請書に必要事項を記入し、郵便局等で取得した収入印紙(600円分)を申請書に貼付し、返信用の封筒を同封の上、送付しましょう。
参考:法務局 各種証明書請求手続き 不動産 登記事項証明書等の交付請求書の様式
4-4. オンラインにより交付請求をする方法
登記所等の窓口に出向くことなく、自宅やオフィスなどからインターネット経由で請求できるシステムです。事前にサイトに登録しなければならず、多少の手間はかかります。
オンライン請求・送付500円、オンライン請求・窓口交付480円
登記・供託オンライン申請システム
また、登記所が保有する登記情報を閲覧できるサービスもあります。
※登記事項証明書と異なり証明文や公印等は付加されません。
登記情報提供サービス
5. 不動産登記が必要なタイミング
不動産登記をしなければならないのは、以下のようなタイミングです。
5-1.【建築したとき】
建物を新たに建築したら、登記しなければなりません。
5-2.【滅失したとき】
建物が消滅したら、滅失登記しなければなりません
5-3.【分筆したとき】
1つの土地をいくつかに分筆した場合です。
5-4.【合筆したとき】
複数の土地を合筆した場合です。
5-5.【売買したとき】
売買によって所有者が移転した場合です。
5-6.【相続したとき】
相続によって所有者が変わった場合です
5-7.【贈与したとき】
贈与すると所有者が変わるので登記しなければなりません。
5-8.【財産分与したとき】
財産分与すると所有者が変わるので登記する必要があります。
5-9.【抵当権の設定、抹消のとき】
抵当権を設定したり抹消したりした場合にも登記が必要です。
6. 登記申請の方法、手順
登記する際には、以下の手順で進めましょう。
STEP1 登記申請書を作成
まずは登記申請書を作成しなければなりません。
法務局のサイトにケースごとの書式があるので、利用しましょう。
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
STEP2 必要書類を集める
登記するには必要書類を集めなければなりません。
不動産売買の場合、以下のような書類が必要です。
売主:登記識別情報通知(権利証)、印鑑証明書(3カ月以内のもの)
買主:住民票
その他:固定資産評価証明書(所有権移転登記年度のもの)、売買契約書
上記のほか、抵当権抹消登記等があれば、金融機関による指定の必要書類
STEP3 管轄の法務局へ提出
申請書と必要書類が揃ったら、法務局へ提出します。
費用も支払う必要があります。
専門家へ依頼する方法
登記手続きは専門家へ依頼できます。
登記の種類によっては内容が複雑なものもあり、複数の添付証明書の準備に時間や労力もかかります。一般的にも司法書士や土地家屋調査士等の有資格者を代理人として、申請手続き一切を委任することが多いと言えるでしょう。
なお、不動産の権利に関する登記申請手続は司法書士に、不動産の表示に関する登記の申請手続については土地家屋調査士に委任することになります。
手間をかけずスムーズに完了させたい場合には、こうした専門家へ相談してみましょう。
7. 登記識別情報通知(権利証)とは
所有権の保存登記や移転登記が完了すると、法務局から新所有者へ「登記識別情報通知(権利証)」が交付されます。
これは「不動産の所有者である」証です。
将来、不動産を売却する際にも必要となる重要書類なので、なくさないように大切に保管しましょう。
なお「登記識別情報通知」はオンライン化された登記所、「権利証」はオンライン化未了の登記所で交付されます。
両方とも意味内容としては同じものとなります。
8. 登記にかかる費用(登録免許税[一覧、軽減税率]、司法書士、土地家屋調査士)
登記にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
住宅ローンを利用して不動産を購入する際の代表的な取引を例にすると、登記費用は司法書士への報酬、登録免許税、その他の費用に分けられます。
8-1.【登録免許税】
土地の所有権移転登記:評価額×1.5%(2023年3月31日までの軽減税率)。
※標準税率は2%
所有権の保存登記(新築建物等):評価額×0.15%(2022年3月31日までの軽減税率)。
※標準税率は0.4%
所有権の移転登記(中古建物等):評価額×0.3%(2022年3月31日までの軽減税率)。
※標準税率は2%
(注)上記の軽減税率の適用を受けるには、床面積が50m2以上であることや、新築又は取得後1年以内の登記であること等一定の要件を満たす必要があります。
抵当権の設定登記:借入額の0.4%。
※一定の要件を満たした個人の住宅の場合の特例税率は0.1%。2022年3月31日まで。
8-2.【司法書士への報酬の目安】
所有権移転:50,000円~
抵当権設定報酬:45,000円~
抵当権抹消報酬:20,000円~
※登記の種類、依頼する司法書士、地域により、目安の費用は異なります。
具体的には個別に司法書士へ確認しましょう。
8-3.【司法書士へのその他費用の目安】
日当:10,000円~
交通費:3,000円~
附属書類作成、事前調査:10,000円~
事後謄本、受領書、還付、郵券等:3,000円~
登記識別情報通知引渡し:2,000円~
※依頼先の事務所、不動産の所在地、地域、交通の利便により、目安の費用は異なります。
※上記は土地を購入したりする場合などの一般的な費用です。
8-4.【家屋調査士への報酬、その他の費用の目安】
表示登記:50,000円~
測量業務:500円/m2~
隣地境界立会い:20,000円~
※具体的には個別のケースや依頼先の土地家屋調査士により、金額が変わります。
※一戸建てを新築した場合の一般的な費用です。
9. 登記の期限
〇不動産に関する登記で法律により決められた期限のあるものは、新築した建物の代表的な表題登記はその所有権の取得の日から1カ月以内
〇建物の種類や構造、床面積にについて変更があった場合は、その変更があった日から1カ月以内
〇建物が滅失したときは、その滅失から1カ月以内
期限は上記のように表示に関するものだけですが、不動産の取引にかかわる登記も放置して良いわけではありません。実務上、権利移転が生じたら速やかに登記することが一般的です。
登記を放置することによるトラブル
登記をせずに放置すると、真の権利者が明らかになりません。
他人へ「自分の不動産」であると主張できず、先に登記した人に権利を奪われてしまう可能性があります。
また相続登記は現時点では義務ではありませんが、2024年4月1日施行の改正法で義務化される予定です。
義務化された後は、3年以内に相続登記しないと、10万円の過料の制裁が科されてしまいます。
不動産を相続したら早めに登記しましょう。
10. 敷地権の登記とは
敷地権とは、区分建物が敷地の土地を利用するための権利です。典型的にはマンションが建っている土地の利用権を言います。
マンションを購入すると土地に関する「敷地権」と建物の権利(専有部分)の両方を取得します。
専有部分と敷地利用権は、原則として分離処分(別々に処分すること)することが区分所有法により禁止されています。つまり敷地権と部屋は必ず一緒に売買しなければなりません。
そこで区分所有建物の登記簿にも、敷地権が明記されています。
ただし区分所有建物の敷地である土地に敷地権の登記がされるようになったのは、1983年の区分所有法の改正によるものです。1983年以前のマンションには敷地権が設定されていないものもあります。
11. まとめ
不動産に関係する登記には期限のあるものや期限のないものなどさまざまなものがありますが、登記を済ませておかないと後々トラブルに発展してしまうケースもあります。登記の原因が生じたタイミングで手続きを行いましょう。
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