相続登記とは?相続登記の義務化の背景と登記しないリスク

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不動産を相続した場合、その不動産の名義を故人から相続人の名義に変更する必要があります。この手続を「相続登記」と言います。この「相続登記」の手続きは、この記事を書いている2021年(令和3年)時点では義務ではなく、手続きをしなくても特に罰則などはありません。
しかし、相続登記が義務化される法案が可決され、2024年(令和6年)を目処に施行されることとなりました。
この記事では、「相続登記とはなにか」、「相続登記が義務化されるとどのようなことが起こるのか」ということを司法書士が分かりやすく解説していきます。

目次

1. 義務化される「相続登記」とは

相続登記とは、相続によって取得した不動産の名義を、故人から相続した人の名義に変更する手続きです。「名義を変更する」というのは、法務局が管理している登記簿上の名義を、変更する手続きで、不動産がある所を管轄する法務局で手続きをします。
2021年(令和3年)現在、この「相続登記」は義務ではありません。不動産の相続が発生した後、数年・数十年後に登記しても構いませんし、一生登記をしなくてもよい状況なのです。しかし、2021年(令和3年)4月、相続登記の義務化を含む法改正案が国会にて可決され、2024年(令和6年)を目処にこの改正法が施行されることとなりました。

相続登記が義務化されると、これまで相続登記をしていない場合や、相続発生後に相続登記をしない場合に、罰則がつくこととなります。

【相続登記の義務に違反した場合の罰則】
相続人が、相続や遺贈で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしない場合、【10万円以下の過料】が課されます。

2. 相続登記「義務化」の背景

相続登記が義務でないことから、登記しないまま長期間放置され、所有者が判明しなかったり、所有者が判明してもその所有者に連絡がつかなかったりする土地が増加する一方となりました。

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

2021年(令和3年)時点で、所有者不明により活用できない土地が410万ha(ヘクタール)にも及んでいます。410万haとは、九州全土を超えるほど、広大な土地です。

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

所有者不明の土地が増えたことで、国や自治体が公共用地や災害対策に活用することができない上、民間同士でも売買などができないという問題が生じているのが現状です。

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

そこで政府は、こうした所有者不明の土地の発生を防ぎ、所有者不明の土地を円滑かつ適正に活用するため、「相続登記を義務化する改正案」を閣議決定し、可決したのです。

3. 相続登記をしないと起こりえる6つのリスク

相続登記の義務化以外にも、相続登記をせずに放置していると発生するリスクがあります。現在、相続登記をせず放置している方、これから相続登記が必要になる方は、以下のリスクをしっかりと理解しておきましょう。

リスク1:相続人の数が増えて協議が難航する

相続した不動産の相続登記をしないままにすると、その不動産の名義は相続前の名義人のままとなり、以下の図のように該当する不動産の相続人が増加していくこととなります。

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

相続登記をする際には、遺産分割協議にて「不動産の名義人を誰にするか」を相続人全員で話し合う必要があります。相続人が上記の図のように大人数になれば、大勢で話し合い、合意をしなければいけません。関係性の薄い複数人の住所や連絡先を調べるのは非常に困難ですし、コストもかかります。また、全員が合意することも難しいでしょう。

リスク2:相続した不動産の権利を主張できない

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

不動産の権利は、登記上で名義人となることで初めて、第三者に権利者であると認めてもらえます。相続登記をしていなければ、いくら相続をしたとしても、第三者に権利を主張することはできないのです。
そのため、遺産分割協議で不動産を取得していても、相続登記をしないうちに別の相続人が他の人に持分を売却し、買い取った人が登記をしてしまった場合、先に登記した人が不動産の権利を取得することができてしまいます。相続登記をしないことで、このような二重譲渡が生じるケースもあるのです。

リスク3:不動産が売却できなくなる

相続した不動産を売却したり、担保にしてローンを組んだりする場合、相続登記をしておく必要があります。そのため、相続登記を放置して相続人が増えてしまったときなどは、早急に売却したいような事情があっても、すぐに実行に移すことができなくなる可能性があります。また、相続人同士の話し合いがまとまらないと、売却できない不動産になってしまうこともありますので、注意しましょう。

リスク4:相続人が認知症になり遺産分割協議ができなくなる

数年後に相続登記をしようとしたとき、相続時には元気だった相続人も、高齢になり、認知症などになっていることもあります。認知症などで判断能力が低下している場合、自ら遺産分割協議に参加することはできません。遺産分割協議に参加するには、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」の選任をしなければならず、この手続きには、数ヶ月程度の期間と選任のための費用がかかります。

また、成年後見人には家族がなることが多いのですが、その家族も相続人だった場合には、別途家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらう必要があります。高齢の相続人がいる場合には、早めに相続登記をしておくことが重要です。

リスク5:相続登記の必要書類が集められなくなる

相続登記に必要な書類の保存期間が過ぎ、取得できなくなる可能性もあります。各書類の保存期間は以下の通りです。

  • 戸籍(除籍):150年
  • 住民票の除票:5年
  • 除籍の附票:5年
  • 改製原戸籍の附票:5年

リスク6:思わぬ出費がかかる可能性がある

相続登記が義務化された後は、3年以内に相続登記をしてしまわないと10万円の過料が課せられることがありますが、そのほかにも、思わぬ追加出費がかかる可能性があります。というのも、これまでに上げてきたリスクは、不動産相続について問題が発生している状況で、問題を解決するためには特別な作業が必要となるからです。

増えすぎた相続人の利害調整が必要な場合には弁護士を雇う必要があるかもしれませんし、相続関係が複雑であれば調査費用が高額となることも考えられます。いずれにしても、早期で相続登記を行っていれば回避できた追加出費です。相続登記は放置せずに早めに済ませるようにしましょう。

4. 相続登記の6つのステップと期間

では、相続登記はどのように手続きをするのか見ていきましょう。相続登記は大きく6つのステップに分かれます。

  • ステップ1.不動産の調査
  • ステップ2.相続人の調査
  • ステップ3.書類収集
  • ステップ4.遺産分割協議
  • ステップ5.書類作成
  • ステップ6.法務局への申請

それでは各ステップを具体的に見ていきましょう。

ステップ1.不動産の調査

まず故人が所有していた不動産の調査を行います。不動産の調査は、以下の書類から必要な情報を集めます。

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

固定資産税納税通知書 固定資産税の納付について、自治体から納税者に毎年届く書類です。不動産の評価額が確認できますので、登記するときに法務局へ支払う登録免許税の計算にも使います。
登記済権利証または登記識別情報通知 不動産を取得したときに法務局で発行される書類です。金庫などに閉まっていることが多いです。
登記簿謄本 不動産の登記事項が記載されている書類です。権利証とともに保存していることが多い書類です。ただし、正確な情報を得るためには最新のものが必要ですので、管轄の法務局で新しいものを発行してもらいましょう。

もし、上記の書類が見つからない場合は、税務署や市区町村役場で「名寄帳」を取得すれば代用ができます。調査漏れのないように、全部の書類で確認することが望ましいでしょう。

ステップ2.相続人の調査

不動産の相続登記をするためには、すべての相続人を調査する必要があります。不動産の分け方を決める遺産分割協議には、すべての相続人が参加しないと無効となってしまうからです。相続人調査は、故人の生まれた日から亡くなった日までの戸籍謄本を、死亡時から遡ってすべて収集していきます。

出典:グリーン司法書士OnLine「相続手続きの全体スケジュールから手続方法まで【完全マニュアル】」

ステップ3.必要書類の収集

相続登記に必要な書類を収集します。必要な書類は、相続方法によって異なりますので、状況に合わせて、以下よりご確認ください。

書類名発行機関発行機関備考・注意点
法定相続による場合&どんなパターンでも必要 被相続人の出生から死亡までの戸籍一式 本籍地の市町村役場 1通450円~750円 ※戸籍の集め方の詳細は表下記に記載
被相続人の戸籍附票 1通300円 被相続人が死亡してから時間が経っていると、役所の保管期限が過ぎて破棄されている可能性あり
相続人全員の戸籍 1通450円 有効期限は無し
新たに登記名義人となる相続人の戸籍附票 1通300円 遺産分割協議書を添付するのに併せて印鑑証明書を用意する場合は、戸籍附票の取得不要
固定資産評価証明書&固定資産税課税明細書 固定資産評価証明書→不動産所在地の市区町村役場 1通300円がほとんどだが、各自治体により異なる どちらを使用しても大丈夫だが、必ず最新年度のものを用意する
固定資産税課税明細書→毎年各自治体が自宅に送ってくれる 無料
収入印紙 郵便局・コンビニ・法務局内の売店等 登録免許税の金額分 登録免許税を納付するために購入する
登記申請書 自作 ※書き方の詳細は表の下記に記載
返信用封筒(赤色レターパックが一般的) 郵便局・コンビニ等 赤色レターパックなら510円 法務局窓口まで受け取りに行く場合は不要
遺産分割協議を行った場合 遺産分割協議書 自作 相続人「全員」が「実印」を押す
印鑑証明書 各相続人の住所地の市区町村役場 1通300円 相続人全員分の印鑑証明書が必要
有効期限はなし
遺言書がある場合 遺言書 自筆証書遺言:自作 自筆証書遺言の場合は「検認」という手続きが必要
公正証書遺言:公証役場にて遺言書の正本・謄本がもらえる 謄本を紛失しても再発行が可能:1ページ毎250円 公正証書遺言の場合、正本・謄本どちらでも使用可能
相続人のうち、相続放棄を行った人がいる場合 相続放棄申述受理証明書 相続放棄の手続きを行った家庭裁判所 1通150円 有効期限はなし

上記のうち、「登記申請書」は作成する必要があります。自身で作成することも可能ですが、不安な場合は司法書士に依頼しましょう。

ステップ4.遺産分割協議

不動産を含む遺産を、「相続人全員で「誰が、何を、どのように相続するか」について話し合います。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。「相続人が全員で参加していないと、遺産分割協議ができないので注意しましょう。

ステップ5.書類作成

遺産分割協議が完了したら、書類作成に入ります。作成が必要な書面は大きく分けて2つあります。

  • 協議内容をまとめた「遺産分割協議書」
  • 法務局に提出する「相続登記申請書」

遺産分割協議書を相続登記で使うためには、最低でも次の情報を入れておく必要があります。「誰の相続か特定する情報」、「物件の情報」、「誰が何を相続するか」、「相続人全員の実印による署名押印」。相続登記申請書については、ケースごとに法務局のホームページでひな型が公開されていますので、参考になさってください。

参考:不動産登記の申請書様式について

ステップ6.法務局への申請

収集した書類と、作成した登記申請書をまとめて法務局へ申請します。申請方法は、窓口で行う方法と、郵送で行う方法、オンラインで行う方法の3つがありますので、自身に都合のいい方法で申請しましょ

相続登記完了までの期間

法務局に、相続登記の申請をしてから登記完了までは1週間?2週間程度です。しかし、時間がかかるのは、申請ではなく、準備です。

例えば、亡くなった方の死亡時から出生時までの戸籍謄本を収集する場合、転籍、婚姻などで戸籍が複数ある場合には戸籍があった市区町村すべてから戸籍謄本を取り寄せなければいけません。

郵送でも取り寄せることは可能ですが、戸籍謄本が多い場合には時間がかかるでしょう。必要な書類の量や取れる時間があるかどうかにもよりますが、最短でも1ヶ月程度の期間を要すると考えておきましょう。仕事などであまり時間が取れない場合は、数ヶ月かかることもあります。なお、司法書士に依頼した場合、書類の収集から申請完了まで1?2ヶ月程度で対応してくれます。

相続登記は司法書士に依頼すべき?

相続登記は、自身で手続きをすることも可能です。自分で手続きをすれば、必要書類の収集や登録免許税など、最低限の費用で済みます。しかし、戸籍の収集など、必要書類の収集はとても大変です。また、書類に不備・不足があれば、再度申請をしなければいけなくなります。

仕事などで公的機関が開いている平日の日中に時間が取れない場合には、かなり難航するでしょう。司法書士に依頼すれば、書類の収集から法務局への手続きまで一括で任せることができます。「時間がない」「手続きに不安がある」という方は、司法書士への依頼を検討すべきです。なお、司法書士への依頼費用は、どこまで任せるかにもよりますが、概ね6万円?9万円程度です。可能な部分を自身で対応すれば、費用を抑えることもできます。予算も含めて、依頼するか、自身で手続きをするか検討しましょう。

自力で手続きが可能なケース自力で手続きが難しいケース
自力で手続きが可能なケース
  1. 相続人が自分だけ、子どものみなどシンプルなケース
  2. 役所で必要書類を集められる時間が確保できる
  3. 自分で調べてパソコンなどで書類作成できる
自力で手続きが難しいケース
  1. 不動産の持ち主など権利関係が不明確である
  2. 不動産の名義が被相続人以外のものだった
  3. 不動産の売却予定があり、早く手続きをしたい
中川徳将

中川徳将

グリーン司法書士法人のパートナー司法書士
グリーン司法書士法人は相続の相談件数が業界でもトップクラスの年間3278件以上。(平成29年度)2016年度には船井総研の司法書士事務所経営研究会で相続部門において最優秀賞を受賞。お客様へはわかりやすい言葉で「最適解」を提案し、より良いリーガルサービスを心掛けます。

東京司法書士会所属
登録番号東京第8699

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