日本という海に囲まれていて地震の発生件数が多い国に住む我々は、自然災害を身をもって体験したり、テレビなどの映像を通じてその恐ろしさを痛感させられたりする機会が他国民と比べて多いのではないでしょうか。いつ自分が被害に遭うか分からない状況である以上、「保険」という万一の備えを検討しておくことはとても大切です。
ある日、大雨の影響で川の氾濫で床上浸水してしまう、土砂に家が押し流されてしまうというような被害に遭ったとしますと、「保険」による経済的な備えの有無が、その後の生活を大きく左右することは想像に難くありません。
では具体的にどのように備えれば良いのでしょうか?
その答えの一つは「火災保険」です。火災保険はその名の通り火災時の補償を中心にするものですが、今は自然災害や日常生活のリスクに対しても補償する商品がそろっています。
今回はマンションの火災保険を中心に火災保険を選ぶ際のポイントについてお話をしたいと思います。
ご自宅がマンションの場合は一戸建てと違って所有範囲が限られているため火災保険は不要なのではないか?あるいは、高層階は自然災害のリスクが低いのではないか?と疑問を持たれる方などにお役立ていただけます。
1. マンションの火災保険の補償内容は?
まず、火災保険の補償対象は「建物」とその建物に収容されている「家財」とに分けられており、火災保険を申し込む際は、建物と家財をそれぞれで申し込む必要があります。どちらかだけを申し込むことも、建物と家財のセットで申し込むこともできます。
補償の中身は火災、自然災害、日常生活という大きく3つのリスクに分けることができます。
火災リスク
火災には、火災、破裂、爆発、落雷があります。木造住宅に比べると鉄骨造や鉄筋コンクリート造であるマンションは燃えにくいと言えますが、住戸内の家財はどうでしょうか?また、ひとたび火事が起きると実際に焼失する以外にも消火活動によって住戸や家財は台無しになります。燃えずに残るものもありますが、損傷具合によって補修や買いかえが必要になるでしょう。そういった火災での焼失や消火活動での損傷が火災の補償対象となります。
破裂や爆発は電化製品の一部が破裂したり、カセットコンロが爆発したりして住居や家財に補修が必要な場合の補償です。
落雷については、特に20メートル(7階程度の高さ)を超える建物の場合は避雷針がありますので、雷の影響で建物自体が損傷するリスクは低いのですが、電線などを通して家電類がダメになる危険はありますので補償があると安心です。
自然災害リスク
自然災害には風災、雹(ひょう)災、雪災、水災があります。
近年は異常気象の影響かシーズン外でも台風が起こる確率が高くなっています。強風にあおられて飛んできたものが窓ガラスにあたって破損する、割れた窓ガラスから入り込んだ雨水などで家財が損傷するといった場合は風災補償の対象となります。同じように大粒の雹が降った場合には建物や家財への損傷が起こりえますので補償があれば安心です。また、寒冷な地域では雪の重みで屋根や樋などが破損したり、積雪によってできた氷の塊が当たって破損したりする雪害事故は十分に考えられます。ちなみに、普段はそれほど雪が降らないエリアでは雪に対策がされていないため、記録的な積雪がある場合などは意外と保険対象の事故に繋がることがあるようです。
自然災害の中でも、年々リスクが高まっているのが短時間の局地的な豪雨や線状降水帯の影響による水害のリスクです。川や池の水があふれることで起こる外水氾濫だけではなく、処理しきれない雨水が道路などに溢れて起こる内水氾濫など、記録的な被害がしばしば起きています。保険の対象となるのは、床上浸水、床下浸水の場合も地盤面から45センチ以上の高さに及ぶ場合です。
洪水だけではなく、雨の影響で緩んだ地盤の土砂崩れも水災補償の範囲となり、建物や家財の再調達価格の3割以上の損害が発生した場合は対象となります。マンションの場合でも、バルコニーに降り込んだ大量の雨水が排水しきれずに建物に入り込むということもありますので、高層階であっても慎重に検討すべき補償です。
日常生活リスク
日常生活には、水濡れ、盗難、破損・汚損のリスクがあります。
上下左右を隣家が接する共同住宅では、水濡れのリスクはかなり高いものと言えます。洗濯機や洗面からの水漏れで床や家財に被害が出た場合はもちろん、他住戸からの水漏れで自宅の壁紙や家財が損傷した場合は自身の保険から補償されますのでマンションの場合はぜひつけておきたい補償です。
盗難は実際に家電など家財道具を盗まれる以外に、窓ガラスを割られたり扉を壊されたりという被害の補修も対象となります。マンションの高層階でも空き巣に入られる事例がありますので、あると安心でしょう。
破損・汚損は模様替えの際に壁に穴をあけてしまったり、子ども同士のけんかでテレビを壊してしまったりという日常のうっかりミスによる損傷を補償するものです。某保険会社では家財の事故件数は破損・汚損が過半数を占めているというデータが出ていますので、わんぱく盛りのお子様がいらっしゃるご家庭や、うっかりものを当てたり落としたりした時にはありがたい補償ではないでしょうか。
その他
メインの補償のほかに、セットで申し込むことができる地震保険やオプション特約があります。日常生活において損害賠償責任を負った場合の損害を補償してくれる個人賠償の特約は、自転車事故がよく知られていますが、水濡れ事故で下階の住戸へ賠償責任が発生した場合にも使うことができますので、マンションの場合はセットされているとより安心と言えます。ただし、管理組合で入る共用部の保険にセットされている場合がありますので、重複しないよう確認してから申し込むようにしましょう。
あると何かと重宝するのが、事故時諸費用です。これは事故が発生し保険金が支払われる場合にその金額の10%~20%をプラスで支払われ、用途を限定されないため、近隣へのお見舞いや仮住まいなど、目に見えない出費をカバーすることができる便利な補償です。
そして、地震火災費用。火災は火災でも地震が原因の場合は、火災保険からではなく実は地震保険から支払われることは意外と知られていません。後述に詳しくありますが、地震保険の保険金額は火災保険ほど自由に設定ができないこと、なおかつ実損払いではなく損害の程度に応じた割合で保険金が支払われるため、「地震が原因の火災」で被災した場合に地震保険の保険金だけでは再建できない可能性があります。そこをカバーする目的で設計されたのが地震火災費用の特約です。火災保険金額の最大50%をプラスで支払う設定ができるので、地震が原因の火災で全焼した場合も火災保険と同等の金額を受け取ることができるようになります。
2. マンションの火災保険の加入率は?
では実際に火災保険の加入率はどの程度なのでしょうか?内閣府の試算では、2015年度末における持ち家世帯の火災保険・共済(建物のみ)の加入率は82%。水災補償ありの保険・共済の加入率は66%。地震補償の保険・共済加入率は49%という数字になっています。これをどのようにとらえるべきでしょうか。生命保険や医療保険同様、万が一に備えるのが保険の役割です。前述の補償の内容を見ると、火災保険という名称が示す補償を超えて、災害保険というべき中身になっていますので、持ち家世帯の約8割の方が「火災保険はリスクヘッジとして有効だ」と感じていると取れるのではないでしょうか。
3. 住宅ローンの加入者はマンションの火災保険加入は必須。現金購入者も必要性が高い
火災保険はあくまでも任意ですが、住宅ローンを利用して購入される場合は金融機関から火災保険の加入を条件とされます。ローン返済中に火災事故に遭い、再建築費用の準備がない、ローンの返済ができないという事態になることを防ぐためです。たとえローンを利用せず現金で購入したとしても、年間いくらかの保険金額を払うことで、万が一の時には再建築費用を補償される保険に入ることは、異常気象など災害のリスクが高まる昨今は、賢明なリスクヘッジと言えます。
4. マンションの火災保険の相場は?
実際の保険料金はいくらになるのでしょうか?物件ごとにまた各人ごとに条件や要望が違いますので、明確な相場は存在しません。単純に、同じ条件であれば安いほうを選んで問題ないと思いますが、無料サービスの充実度や、独自の割引サービスの内容を確認して、より使い勝手の良い商品で契約できるように検討することをおすすめします。インターネット上で数社同時に火災保険の見積もりができるサイトや、保険会社のサイトでも見積もりをすることができますので気軽に利用してみると分かりやすいでしょう。その際、専有部分の面積、建築年、耐震構造や免震構造などが分かる資料を手元に用意し、すべての家財を買いそろえるとすればいくらくらいなのか概算で理解しておくとスムーズに進めることができます。
参考までに某保険会社の見積もりサイトでは、新築分譲マンション(M構造)で建物1000万円(地震保険500万円)、家財500万円(地震保険250万円)で見積もると、一年あたり約15,000円~36,000円という結果が出ます。※補償の内容や割引により前後します
5. マンションの火災保険を選ぶポイント
マンション向け火災保険を選ぶ際のポイントについて解説します。
補償内容
賃貸マンションの場合、建物はオーナーが保険に入りますので、引越しの時に運び入れる家財にだけ保険をかければよく、建物や設備をうっかり破損してしまった場合の賠償責任を補償してくれるオプションをセットすることでひとまず安心でしょう。
分譲マンションの場合は建物と家財をそれぞれ検討しなければいけませんが、上下左右に隣家が存在しますので、火災のリスク、自然災害のリスクに加えて、日常生活のリスク、特に水濡れのリスクには建物も家財も備えが必要です。水濡れ以外の補償は、保険会社のプランを参考に、ハザードマップを確認の他、住戸が何階にあるのかや、家族構成などを考慮して検討すれば大きな間違いはないでしょう。
保険金額
そして補償内容と同様に重要なのは保険金額の設定です。火災保険は建物と家財別々になっており、建物の保険金額は、同じ建物を新しく建てた場合の再建築費用を設定しますが分譲マンションの場合は住戸の壁紙より内側を再建築するための費用となりますので、マンションの購入金額と同じではありません。各保険会社では専有面積から保険金額の下限と上限を試算しますので、その金額の範囲内で設定をします。グレードの高い内装の場合は、それを反映させた保険金額にしなければいけません。家財も年齢と家族構成から目安になる金額を保険会社が試算しますが、個人差が大きいと思いますので、ご自身の身の回りの物の合計がいくらになるか計算をしてみてください。
保険金額を高く設定すれば、当然保険料は高くなります。反対に保険料を安く抑えるために保険金額を低く設定することもできますが、そうすると事故の際に補償が不十分となりその後の生活に支障がでる恐れがあること、そして地震保険をかける場合には、火災保険の50%までしか保険金額を設定できないことに十分注意をしなければいけません。
ちなみに、建物の構造部分は共用部として管理組合が別途火災保険をかけます。費用は月々の修繕積立金などとともに各住戸から徴収されています。専有部同様、大切な資産を守るためのリスク管理ですので、補償に過不足がないかを組合の活動を通して確認することが重要です。火災保険の値上げのタイミングや更新のタイミングを利用しながら適切かけられているかチェックしたいものです。
保険期間
2022年10月から、保険期間が最長10年から最長5年になりました。5年の契約をすることで、長期割引を受けることができたり、保険料を一括で支払うことで受けたりすることができる割引がありますので、確認しておくと良いでしょう。
地震保険を入れるかどうか
地震保険は、地震、噴火、それによる津波などで建物や家財が焼失や損傷、流出などした場合に補償される保険ですが、単独ではかけることができず、必ず火災保険か共済にセットする形で申し込みをしなければいけません。保険金額は主となる火災保険や共済の保険金額の30~50%の範囲でかつ建物5,000万円、家財1,000万円までに設定しなければいけません。また、火災保険のように実際の損害について保険金が支払われる実損払いではなく、損害の程度によって支払われる保険金額の割合が設定されていますので、地震が原因で全壊した場合は、自宅を再建築したり元通りの生活に復旧したりすることは難しいでしょう。というのは、地震保険は大災害が起こった際にも最低限の生活を送れるよう政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い保険だからです。火災保険の特約やオプションをうまく利用しながら、万が一地震が起きたときに受けられる補償を充実させることが大切です。南海トラフなど、大規模地震の起きる確率が高まる中にあっては、地震保険は建物の築年数や立地エリアによってはぜひとも検討すべき保険だと言えるでしょう。
なお、地震保険の保険料は都道府県別で決まっており、どの保険会社で契約しても同一の金額になっていますので、主となる火災保険の会社で申し込みすることになります。また地震保険には割引制度があり、築年数や耐震構造によって、10%~50%の割引がありますので、マンションの場合は免震構造かどうかなど確認されると良いでしょう。
6. マンションに火災保険は必要
同じ補償内容であっても、一戸建てかマンションか、立地の環境や家族構成などで注意を払うべきポイントが変わってきます。マンションの場合は専有部と共用部という二段構えであるところ、隣家が上下左右に隣接しているところが一戸建てとは違う特徴です。契約期間が最長10年から5年になることからも、自然災害のリスクが高まっていることを感じ取ることができます。家族の安心のため、大切な資産を守るためにどのような補償をどれくらいの保険金額で設定をすればよいのかを考えるためのヒントにしてください。
さくら事務所ホームインスペクション関西 代表
業界NO.1(50,000件以上)の実績を誇るインスペクション事務所、さくら事務所ホームインスペクション、関西の代表。建築や不動産に関わる中で「不動産トラブルをひとつでも減らしたい」という思いからホームインスペクターに。2012年10月に関西支部の開業以来、500件超の調査実績を誇る。専門家ながら、わかりやすく親しみやすい調査・報告に定評がある。ホームインスペクションのリーディングカンパニーとして果たす役割の大きさを実感し、日々依頼者の相談に耳を傾け、アドバイスを行っている。
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